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8.警備任務(昼間)①

 隊を組んでから初めて、ベアトリゼ隊に警備の役が回ってきた。今回の警備は昼間、割り当て場所は市場の入口。今まで白の盗賊団は商家や民家ばかりを襲っており、露店が並ぶ市場に出没したことはなかった。だからベアトリゼ隊は重要度が低い場所に割り当てられたことになる。実はベアトリゼ隊長が部下3人の実力をほとんど信頼していないため、編成担当の騎士団幹部に依願して、重要でない場所に配置してもらったのだった。


 3人はそんなこと露知らず、あまり危険そうでなくてよかったと無邪気に安堵している。しかし3人をもっと安堵させたのは、警備の日はベアトリゼ隊長の地獄の特訓に付き合わなくても良いということだった。




 明日が警備だという日の晩、夕食をとりながらミリアーネは久しぶりに饒舌だった。


「私たちはモブキャラでしょ?だから盗賊団の下っ端はともかく、首領が出てきたら一撃で斬られる立場だと思うんだよね。ほら、ボスが強くて相手のモブキャラじゃ歯が立たない、っていう王道パターン。だから赤い頭巾被った首領が出てきたら逃げようね!」


 敗北主義的なことをペラペラしゃべっている。サリアもいつもだったら「またか」という顔をして聞き流すのだが、明日は特訓をしなくて良いということで気分が高揚しており、笑いながらミリアーネに対応している。


「先日の盗賊団を潰す宣言はどこへいったんだよ?」


 エルフィラも笑顔になりながら、


「では首領は隊長にお任せして、私たちは下っ端を片付けましょう」


 そうだそうだ、そうしよう。久しぶりの笑顔あふれる食卓。




 「おい」


 いつのまにか近くに寄ってきていたベアトリゼ隊長の声が響き、笑顔あふれる食卓は唐突に終わった。3人は急いでマジメな顔を作り、立ち上がって敬礼しながら、


「お疲れ様です、隊長」


 と取りつくろったがもう遅い。


「バカタレ、さっきまでの会話は丸聞こえだ。矯正してやるから座れ」


 一気にお通夜ムードになった食卓で、隊長のお説教が始まった。


「貴様ら、騎士を志した理由を覚えているのか」


 サリアは父のような立派な騎士になるためです、とおずおず答え、エルフィラは貴族の身分に安住せず、より人々の役に立ちたかったからです、と泣きそうになりながら答えた。ミリアーネは無邪気に答えて曰く、


「自分は騎士道物語の主人公かもしれないと思ったからです!」


(ドアホ!今はそんなこと言える雰囲気じゃないだろう!たとえそれが本当だとしても、もっとまともに聞こえる理由を作れよ!)


 とサリアは叫びたかった。案の定、隊長が切れ上がった目をいっそう吊り上げて言った。


「意味がわからん。説明しろ」


 ミリアーネは嬉々として、サリアとエルフィラにもう10回は聞かせたであろう話を滔々と述べた。幼い頃から騎士道物語が大好きだったこと。今でも大好きなこと。自分はもしかしたら前世の記憶を持っていたり、謎の力が発現するかもしれないと思ったこと。それをモチベーションにしていたら騎士団に入れてしまったこと。前世の記憶も謎の力も発現せず、平凡なモブキャラだと自覚したこと。


 途中、サリアは何度も話を止めようとして机の下でミリアーネを小突いたが、彼女は意にも介さず、とうとう終わりまで話してしまった。ミリアーネは自説の開陳に夢中になると、他のこと一切が気にならないのであった。


 サリアは(こんな下らない話、隊長の堪忍袋の緒が切れるに違いない)と思ってげんなりした。そして(これはお説教追加で30分だな)と諦観した。


 しかし意外にも隊長は怒らず、やや呆れたように言ったのみだった。


「お前は本当に変な思考をするヤツだな」


(あれ、ミリアーネの与太話、隊長気に入ったのかな。そこまで怒ってないのかな?)とサリアは嬉しくなったが、それはぬか喜びであった。3人とも立派な志がありながらさっきの会話はなんだという話から始まり、剣には心・技・体が必要なこと、3人とも技は騎士団1年目にしてはそれなりだが心・体は壊滅的ということ、そもそも走り込み20周でへばるようでは小物の泥棒すら捕まえられない、筋力が足りない、身体から覇気が感じられない等等等、ボロボロにこき下ろされて3人ともそろそろ泣きたくなってきたところでニヤリとしながらトドメの一言、


「だから隊が解散するまで、これからも体は私がみっちりしごいてやる。ありがたいだろう?」


 3人とも引きつった笑顔で「ありがとうございます」と言った。心を絶望に支配されながら。

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