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2.ライバルヒロイン

 今日も食堂ではサリアとミリアーネが向かい合って夕食をとっている。


「おかしい……騎士道物語ではこんなことはありえない……」


 パンを口に入れてモゴモゴさせながら、ミリアーネが呟いた。サリアは眠そうな目をした顔を上げ、おかしいのはなんでも騎士道物語にするお前の頭だぞ、と言おうとしたが、さすがに暴言が過ぎると思ってやめた。無言でまた顔を下げ、スープを啜る作業の続きに戻る。ミリアーネは頓着せず呟き続ける。


「主人公は1人、ヒロインも1人。ここまではいい。だけどどうしてライバルヒロインが2人もいるんだろう……?」


 そして黙々とスープを啜るサリアに目を移して尋ねる。


「ねえ、サリアはなんでだと思う?」


 サリアは眠そうな目をした顔を再び上げ、いかにも興味の無い口調で一言、「知らない」。しかし次の一言が余計だった。


「そもそも主人公とかヒロインとか、いったい何のことだ」


 たちまちミリアーネは目を輝かせ、顔を近づける。


「興味無いって顔しときながら本当は興味津々じゃん!よし、説明してあげよう!」


 しまった、とサリアは思ったがもう遅い。ミリアーネの独演が始まってしまった。




 ミリアーネ曰く、前に説明したとおり、この世界は騎士道物語で説明できる。すると同期入団のうちの誰かが物語の主人公になるはずだ。それは誰か?


「私の見立てでは、エルブラッドさんだね。騎士道物語博士の私が言うんだから間違いない」


 エルブラッドは騎士の家系に生まれ、眉目秀麗、剣技抜群、頭脳明晰、周囲の皆に優しいと、まさに主人公気質を備えた男性である。


「次にオフェリアさん、この人がヒロインだね」


 オフェリアはエルブラッドの幼馴染、いつもエルブラッドの傍にいる才色兼備の女性であった。


「で、ヒロインに何かとつっかかるライバルヒロインもいるはずなんだけど、この候補が2人いるのだ。普通の物語では1人なのに」


 彼女曰く、ライバルヒロインは高慢ちきな貴族のお嬢様で、ヒロインに対して何かと身分差に基づく嫌がらせをすることになっている。騎士団の同期には貴族階級出身の女性もいるが、その中でミリアーネの目につくのはユスティーヌとエルフィラという2人だ。

 ユスティーヌは子爵家の出身、自他共に認める美貌と実力で、早くも貴族階級の騎士を中心に取り巻き団のようなものが形成されている。そしてエルブラッドやオフェリアに対してよくちょっかいをかけている。

 一方のエルフィラは男爵家の出身。貴族階級だが、ユスティーヌの取り巻き軍団とは距離を置いている。というより、他人との交流を避けている。自ら孤高の立場を求めているように見える。


「順当ならユスティーヌさんがライバルヒロインなんだけど、エルフィラさんがダークホースだね。主人公を見守る孤高のヒロイン、というパターンもあり得る。可能性から言うと…………」


 ミリアーネの話はまだ続く。サリアは彼女の独断と偏見に呆れながら、食器を片付けに席を立った。



 エルフィラさんは悩んでおられた。騎士になってから3か月、まだ誰とも打ち解けた関係を築けていないことに。おかげで毎日毎晩ぼっちメシ。いい加減どうにかしたい。 

 彼女は貴族の令嬢でいらっしゃるが、ご両親が賢明な方々で厳格にご養育されたため、極めて正常な思考を身につけておられた。彼女は自分の身分をことさらにひけらかすなどということはしたくなかった。だからユスティーヌとその取り巻き軍団とは距離を置いていた。


 エルフィラさんは騎士階級や平民階級出身の者と仲良くなろうと思った。しかし可哀想なことに、騎士階級や平民階級は彼女に心を開いてくれないのである。ひとつの理由はこの身分社会、貴族の気にくわないことをしでかすと、どんな報復があるかわかったものではないからであった。貴族に対して些細な無礼を働いたことで、追放やお家断絶の憂き目に遭った例は多数ある。

 もうひとつの理由は、エルフィラさんの容姿にあった。豊かな金髪をまとった顔に、ややツリ気味の目が鎮座していて、一見すると少し意地悪そうな印象を受ける。

 さらにもうひとつの理由は、彼女の引っ込み思案な性格だった。


 この3つの理由が複合的に絡み合い、誰とも仲良くなれないことにため息をつき、食堂に一人座って寂しく夕食をとる。そんな彼女の耳に、食堂の雑踏を破るひときわ大きな声が響いてきた。彼女は意を決して立ち上がり、声の方へ歩き出した。

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