表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】美少女と距離を置く方法  作者: 丸深まろやか
第4話 少年は海を渡る
85/117

③「付き合ってるのか?」


 海中展望塔は、海にかかった長い桟橋の先にあった。


 海の鮮やかなグラデーションを遠くに眺めながら、ぞろぞろと橋を進む。

 展望塔の螺旋階段を下りると、そこはもう海の中だった。


「うわぁー! 魚いっぱいいるー!」


 ぐるりと周囲を囲った窓の向こうには、青やら黄色やらストライプやら、とにかく色鮮やかな魚が泳ぎ回っていた。

 紗矢野さやのがピタッとガラスに張り付いて、キラキラと目を輝かせる。


「かわいーい! ね、あれヒトデかな?」


「だな。赤い」


「え! 見て見て! カメいるんだけど! すごーい!」


「おお、ウミガメ」


 紗矢野に釣られてか、俺もなんだかんだリアクションが大きくなってしまう。


 普通の水族館とはずいぶん趣きが違うが、これはこれでいいもんだ。

 海中という特殊なシチュエーションも手伝って、俺は自分がワクワクしているのを感じていた。


「楠葉」


 そのとき、不意に背後から声をかけられた。

 見ると、馴染みのないラフな薄着姿の隠岐おきが、涼しげに立っている。


 相変わらず、なんとなく浮世離れした雰囲気があるやつだ。


「わ、隠岐くんだー」


「あ、あぁ……紗矢野もいたのか」


 途端、隠岐はふいっと顔をそらして、ぎこちない手つきで頭を掻いた。

 さっきまでの落ち着いた表情が、すっかり消えている。


 やっぱりそうなるのかよ。


「なんか用か」


「……伝達だ。ホテルでの夕食が済んだら、修学旅行委員は一度、ロビーに集まってくれ」


「ん、了解」


「おっけー」


「よろしく頼む」


 言いながら、隠岐は小さく頷いた。

 そのまま踵を返し、さっさとどこかへ――


「……」


 と思ったが、隠岐は俺と紗矢野を交互に見て、少しだけ目を細めたようだった。


 紗矢野もそれに気づいたのか、不思議そうに首を傾げる。


 まだなにかあるのか。


「……聞きたかったんだが」


「え、なになに?」


「……お前たちは、付き合ってるのか?」


「ふぇっ!?」


「は?」


 真面目な顔で、いきなりなに言ってるんだ、こいつは。


「なんだ、違うのか」


「え、えーっと……そのぉ……」


「違う。っていうか、なんでそうなるんだ」


「よく一緒にいるだろう」


「委員が同じだからな」


「それに、気安そうだ」


「紗矢野は誰とでもそうだよ」


「……ふむ」


 俺が説明しても、隠岐は納得いっていなさそうな顔で、顎に手を当てていた。


 そんなわけないだろうに。

 ひょっとしてこいつ、本当はけっこうアホなのか?


「お、隠岐くーん? ちょーっとこっち来てくれる?」


「ん? お、おい……っ」


 俺が呆れていると、紗矢野が突然隠岐の腕を掴み、近くのちょっとした物陰に引っ張っていった。


 なんだかよくわからないが、まあ誰しも、他人に聞かれたくない話くらいあるってもんだろう。


 特に気にもならなかったので、俺はまた窓の方に向き直って、海の景色を眺めることにした。


「……おお、サメだ」


 ラッキーなんじゃないか、もしかして。



   ◆ ◆ ◆



 その後、もう片方のグループと入れ替わりで街を見学し、ホテルに着いた。


 ホテルはあらかじめ写真で見ていた通り、高級感のある内装だった。

 明るく天井の高いロビーや、やたらと広いパーティーホールまでついている。


 ちなみにまるまる貸切なので、他の観光客もいない。


 フロントでペアごとに鍵を受け取り、それぞれの部屋へ移動する。

 俺の相手は例によって恭弥だ。

 正直、組んでくれて感謝している。


「俺ベッド奥なー!」


 荷物を置いてすぐ、恭弥がそう言いながらベッドにダイブした。

 バネが効いているのか、身体が上下に大きく揺れる。


 俺も奥がよかったが、まあ、譲ってやろう。

 これで貸し借りはチャラだな、うん。


「部屋も綺麗じゃん!」


「だな。あ、Wi-Fi繋げとこう」


「おー! 海見えるぞ! 微妙に!」


 窓の外を指さして、恭弥が叫んだ。


 たしかに、端の方にちらっと海が見える。

 マジで微妙にだけど。


「……お」


 ベッドに横になってすぐ、半日ぶりにネット回線を手に入れたスマホに、ブブッと通知が来た。

 どうやら、理華からのメッセージらしい。


『無事着きましたか』


 要件はそれだけ。

 点呼は済んでいるし、着いていて当然なのだが、フッと頬が緩んでしまう。


『おう。そっちは平気だったか、飛行機』


『どういう意味ですか。平気ですよ』


 本当かな。

 まあ、無事ならそれでいいんだが。


「晩飯まで自由だっけ?」


「ああ。一時間くらいだな」


「おー。じゃ、俺はちょっと探検へ」


 言って、恭弥は軽快な足取りで部屋を出て行った。

 いろいろ見たい気持ちはわかるが、それにしても元気なやつめ。


 さて、俺はどうしたもんかな。

 移動してばかりで疲れたし、仮眠でも取ろうか。


 そんなことを考えていると、再びスマホが震えた。

 また、理華からだ。


『部屋に行ってもいいですか?』


「えっ」


 ……。


「……」


『千歳が行きたいと』


「……ああ、ふたりか」


 身構えて損した……。


『いいよ』


『ありがとうございます』


 最後に部屋番号を伝えると、今度こそ理華からのメッセージは止んだ。


 仮眠はお預けだな、こりゃ。


 ……ところで、そういえば今日、理華と会うのは初めてか。


「……いや、だからどうってわけじゃないが」


 そんな俺の情けない独り言も、部屋の外から聞こえる遠い喧騒に、すぅっと吸い込まれていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いやぁ、海外に修学旅行とは良いものですな。 そして、違う女の子と付き合ってると勘違いされてる楠葉君。 鈍感故に気付いて無いようです。 これは意外と残酷(笑) 早い所、カミングアウトした…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ