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【完結】美少女と距離を置く方法  作者: 丸深まろやか
1巻 第1話 美少女に恩を売る
3/117

③ 「また明日、です」



 そうして、長い長い一日が終わった。


 号令に合わせて最後の礼をして、放課後になる。

 クラスメイトたちがぞろぞろと教室を出て、部活や自宅へ向かっていった。


 中にはちらちら俺の方を振り返っているやつもいるが、当然ながら、俺を部活に誘ったり、一緒に下校しようとしているわけではない。

 なぜなら俺は帰宅部だし、ぼっちだからだ。非常にわかりやすい。


 連中の興味の対象は、俺と橘理華の関係の真相だ。


 あの後、俺と橘は移動教室の際に廊下ですれ違った。

 橘は俺に小さな声で「放課後にそちらの教室で」とだけ言った。

 どうやら、俺の意図は理解してくれているらしい。

 朝のあれも、悪気があったわけでなさそうだ。

 まあ、今さらだけれども。


 考え事をするフリをして、人がいなくなるのを待つ。

 最後の一人が教室を出てから数秒後、案の定、見計らったかのように橘理華が現れた。


 相変わらず、冗談みたいに可愛い。

 が、今はそんなことは関係ない。

 俺の目的は、彼女との関係を断ち切ること、それだけだ。


 だから断じて、見とれてなどいない。

 ちょっとしか見とれてない。


「先ほどはすみませんでした。たしかに、あなたの都合を考えられていませんでした」


 第一声が謝罪とは。

 やっぱり、悪いやつではないのだろう。


「いや、わかってくれたらそれでいい。で、例の見返りのことだけど」


 一気に本題へ。

 こんな話はすぐに終わらせてしまって、また平和な生活を取り戻すのだ。


 橘は無表情のまま、まっすぐ俺を見ていた。

 あまり愛想が良いとは言えないが、それでも充分すぎるほどに可憐だ。


「明日の昼飯、奢ってくれ」


「……昼食を?」


「ああ、パンと飲み物だけで良い。昨日の貸しなんて、それくらいのもんだろ」


「……いえ、それでは足りません。せめて、もう少し」


「だめだ。これ以上増やしたら、 貸しと借りのバランスが崩れる。お互い、この件は早く帳消しにしたいだろ」


 俺が言うと、橘はわずかに頬を膨らませたように見えた。


 どう見ても可愛すぎる。

 冷たい印象から一転して、この子供っぽさ。

 ギャップ要素まであるなんて、完璧かよ、この女子。


「……ならせめて、ご馳走するものは私に決めさせてください。もちろん、常識の範囲に留めます。パンと飲み物だけでは、私だって納得できません」


「えぇ……いや、でもなぁ……」


「早く帳消しにしたいなら、多少対価が大きくてもあなたが折れるべきです。私は別に、そんな風には思っていませんので」


 ……ん?


 なんだか、意外な発言だな。

 俺はてっきり、向こうもこんなモブぼっちとの貸し借りは、早々に解消したいだろうと踏んでたのに。

 やっぱり、思ってたより義理堅いやつなんだろうか。


「……まあ、たしかに橘さんの言うことは正しい。わかったよ。じゃあ、さっさと決めてくれ」


 言いながら、俺は橘に向けて右手を差し出した。

 だがそれを見て、橘は不思議そうにコクリと首を傾げるだけ。


 いちいち可愛すぎるだろ……。

 調子狂うからやめてくれよ、ホント。


「……なんですか、その手は」


「いや、だから、橘さんが納得できるものを決めて、その金額を渡してくれってことだよ。そういう流れだったろ?」


「……なぜそうなるのですか。金銭でやりとりなんて味気ない。無粋です」


「なんでだよ! 買ったものを渡されたって、手順が違うだけだろ!」


「そんなことはありません。私はご馳走をしたいのであって、お金を渡したいわけじゃない」


 くそっ……。細かいことを気にする美少女だこって。


「それに、そのお金が本当に私が決めたものに使われるのか、わからないじゃないですか」


「絶対に、橘さんが決めたものを買う。そのまま懐に入れたりなんてしないって」


「信用できません」


 ……だめだ。

 やっぱりこの美少女、かなりの強情だ。


 このまま言い争っても、無駄に体力と時間を浪費するだけだろう。

 事実、一歩も引かないという意思が目に表れている。


「……わかったよ。じゃあ明日の昼、橘さんから直接、それを受け取る。これでいいか?」


「……はいっ」


 そう言った橘は、意外にも満足そうな顔で薄っすらと笑った。

 初めて見る、超絶美少女の笑顔。


 ああ、これは、目に毒だ。


 昨日のあの男子の気持ちが、今分かった気がする。

 こんな顔見せられたら、男なら誰だって……。


「それでは楠葉くすばさん、さようなら。また明日、です」


「あ、あぁ。……また、明日」


 今朝と同じように、橘はスタスタと教室を出て行った。


 また、明日。


 口の中で繰り返すその言葉に、胸がときめきそうになる。

 が、選択的ぼっちである俺は、その感情を冷静に打ち消した。


 ただ、明日また会うことが決まったから、そう言っただけ。

 それ以上でも以下でもない、言葉通りの挨拶だ。


 そういう期待はしない。

 その期待が、落胆と挫折を生むんだ。

 俺は、自分の身の程を知っている。


 明日の昼、橘から食い物を受け取って、それで終わり。

 それが現実であり、俺の望みでもある。


 まあ、一つだけ言うなら。


 橘の笑顔を見れたのは、ラッキーだったかもしれないなぁ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 橘さん、ひたすらに律儀ですね…
[一言] 一応言及はしてあるけど、ヒロインの矛盾がなぁ。 粘着されてたのを助けてもらったから粘着するって。 口調で頑固さとか義理堅さみたいなのは伝わってきはするんだけど、ここのブレは流石に、物語にキャ…
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