表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】美少女と距離を置く方法  作者: 丸深まろやか
第2話 美少女と並ぶ
11/117

③ 「もしかするといつもより」


 橘は、その後も夢中につけ麺を食べた。

 その姿には学校で見る冷たい印象はなく、ただ自分の好きなものを、心から楽しんでいる様子だった。


 俺もつけ麺をすすった。


 「みんなで一緒に食べると美味しいね」。


 そんなセリフを、何度も聞いたことがある。


 だが、俺はそうは思わなかった。


 一人で食べた方が、気楽だ。

 味にだって集中できる。

 強がりなんかじゃなくて、本気でそう思う。

 それが悪いことだとは思わないけれど、少数派だということは自覚していた。


 だがもしかすると、本当に橘は。


「ふぅ。ご馳走様でした」


「ごちそうさん」


 ほとんど同時に食べ終わって、俺たちは器を置いた。

 水で口直しをしてから、一息つく。


「……なあ、橘」


「なんでしょう、楠葉さん」


「メシは、みんなで食った方が美味いと思うか?」


「……いえ。私は、好きなものは一人で食べたいです。その方が、味に集中できますから」


 ひたすらに真面目な口調で、橘は答えた。


 結局、橘の言うことが正しかったってことか……。


「もちろん、友達と一緒に食事をしたいときもあります。ですがそれは、食べることよりも、話すことが目的の場合ですね」


「それはあれか? 食事時に話す相手がいない俺への当てつけか?」


「え、話す相手がいないんですか、楠葉さん……」


「やめろ! 本気で気の毒そうな顔をするな! 悪かったな、ぼっちで!」


 俺の言葉に、橘はクスクスと笑った。

 肩を震わせて目を細めるその姿は、普段の冷淡な橘よりも、何倍も魅力的に見えた。


「でも、みんな大抵、誰かと一緒にメシを食うだろ。食事自体に集中したいやつだっているはずなのに、いつもいつも」


「まあ、他人の目が気になる気持ちもわかります。私やあなたのような人の方が、きっと珍しいんですよ」


「……俺はともかく、橘は周りの目が気にならないのか?」


「まったく、というわけではないですが、あまり。気にしていてはキリがないですし、なにより窮屈ですから」


「……そうだな。その通りだよ」


 たしかに、俺と橘はほんの少しだけ、似ているのかもしれない。


 けれど、それだけだ。

 だからと言って、どうってことはない。


「ああ、すみません、楠葉さん」


「なんだよ」


 変な期待はしない。無駄な希望は持たない。


「さっきはああ言いましたが、楠葉さんと一緒に食べた今日のつけ麺は、もしかするといつもより、美味しかったかもしれません」


「……そうかい」


「はい」


 だから俺は、全然ときめいてなんていないんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ま まあ食事の仕方は人それぞれだから…ね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ