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亡国の騎士  作者: 黒夢


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勝者と敗北者

 ラミに連れられ、ギルドの医務室にトランスとリーゼは赴いた。ベッドに横になったサラはすでに目を覚ましており、勝ったとは思えない程弱弱しい笑顔で迎える。


「おろ、もう目を覚ましたんだ? 大丈夫?」

「ご迷惑をおかけしました……。あの……、怪我人は?」

「魔力酔いで気分を悪くした人がいたぐらいかな? あいつらはさっさと逃げちゃったし、ちょっとびっくりしたけど、最近調子に乗ってたからいいお灸になったんじゃない?」


 シュニとレビンは銀級冒険者であり、金級も間近と言われている冒険者のようだった。それでもずっと銀級で燻っており、前にもまして他の冒険者に突っかかることが多いとのことだった。


「そうですか……、でもたくさんの人に迷惑を……」

「ちょっと、勝ったんだから少しは喜びなって……」


 どんどん表情を暗くするサラに、ラミは焦ったように話題をかえようとまくしたてる。

 

「まっ、まぁ……、金級になるのは強さだけが条件じゃないからね。そういえば近々金級の試験を受けた――」

「ラミちゃ~ん?」


 医務室にシープが入ってくると、ラミの言葉を遮るように、言葉を被せる。


「情報を軽々しく話しちゃだめですよ? あと、マスターから伝言です。整地よろしくぅ、ですってぇ」

「げっ、なんで私が……、あー、はいはい行きます、行きますよぉ……。だからマスターが模擬戦やるのは嫌なのに……」


 シープの伝言に恨みがましい眼で文句を言うものの、シープの有無を言わさぬ笑みにたじたじになり、文句を言いながらも訓練場へとラミは戻っていった。


「それじゃぁサラちゃんまたね。ゆっくり休んでからくるんですよぉ?」

「あっ、はい、ありがとうございます」

「ではな」

「あぅ!」


 にこにこと笑顔を絶やさずシープが医務室を去る。リーゼも、自分の身を心配してくれていたラミのことは気に入ったらしく、笑顔で見送った。


「……」

「……」

「う?」


 騒がしかったのが嘘のように静まり返る医務室。キョロキョロとリーゼが二人の顔を交互に見ているが、サラは顔を伏せ、トランスもいつの間にか兜を消しており、目を瞑り押し黙っている。


 サラは恐れていた、やっとコントロールできると思いあがっていた力が、周囲をまた傷つけるところだった。自分自身でもあの力が、命を奪う程であったことがわかる。鈍魔と呼ばれ不要とされた記憶がそれを払拭させようとこの事態を引き起こし、忌子と呼ばれた拒絶された過去が、又周囲を傷つけるという事態を起こしかけた。又一人になってしまうんじゃないかという恐怖が、サラの唇を震わせている。


「あの……」

「――俺は弱い」

「えっ?」


 重苦しい空気にサラが口を開こうとすると、トランスがそれを制して話始める。伏せていた顔を上げ、その瞳はサラをしっかりと見据えている。


「ギルドマスターと模擬戦をしてな。リーゼも、サラもいてくれなければ、何も出来ない無力な男だ」 

「……っ!?」

「もっと精進しなければならない。()()()()……な」

「あうあう!」

「……はいっ!」


 真剣な顔で自分が弱いと吐露する屈強な鎧の騎士。なぜかサラには、それがまるで道に迷った子供のように見えた。サラ自身は弱さを悟られないように必死になっているにも関わらず、自分自身の弱みを隠すことなく見せ、挙句こちらのことまで心配そうに見据える瞳に、暖かいものを感じた。力強く返事をしたサラの笑顔に、もう影はない。目の前にいる弱くても強くあろうとする男に、これからも付き添ってあげたい。彼のいうように、お互いに支えて歩んでいこう。そう思った時には、自分自身を悩ませていた自分の弱さが、大したことのないように思えた。


 一方ギルドマスターの私室で、ローブを纏った小柄な人影と、筋肉隆々な体躯であるバルトロが話をしていた。二人が並ぶと、まるで大人と子供程の差があるが、口調は長年の友人であるように気さくだ。


「それで、どうだった? 君にしてはあっさりと試すのをやめたね」

「ん~? ちぐはぐな奴だっていうのが印象だな」

「ちぐはぐ?」

「普通騎士ってのは国を守る要だ。訓練だって人間を相手にすることが前提のはずだ。その割に技術ってもんが欠落してる」

「欠落? 足りてないとかじゃなく?」

「そうだ、あった気配はある。ツギハギみたいなもんを感じた」


 バルトロは眉間に皺をよせ、腕を組んで考え込んでいる。


「それが、模擬戦をやめた理由?」

「いや、まぁ一つの理由ではあるんだが……」

「ふふ、背中の子でしょ? ()()は面白そうだね」

「お前が興味を持つなんて相当だな……。だが、まぁあのガキは普通じゃないな。肝が据わってるとか、度胸があるってレベルじゃねぇぞあれは」

「へぇ?」


 バルトロは言葉とは裏腹に、口角を上げ、そこらのチンピラであれば裸足で逃げ出す程の笑みを浮かべて告げる。


「俺が攻撃したとき、動きを目で追っていた。それどころか……、殺意を向けてきやがった」

「それはそれは……、俄然興味が湧いてきたよ」


 静かにくつくつと笑う声が、ギルドマスターの私室にしばらく響いていた。

 

医務室前にて、聞き耳を立てていた二人

シープ「よかったわねぇ。サラちゃん……」

ラミ「はぁ……、サラっちにめんじて整地ぐらい我慢してやるかぁ~」

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