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亡国の騎士  作者: 黒夢


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依頼の解決とついた二つ名

 王都ホワイトクラウンのギルド本部、その受付で、見目麗しい女性達が語りあう。


「今日も肥やし依頼を受けてったん?」


 気の強そうな目をした赤毛の受付嬢がシープに話しかける。身長は150に届くかどうか、胸もサラと比べると乏しいぐらいしかないが、整った顔立ちに目立つ八重歯。距離感の無いその態度に人気が高い。


「ギルドマスターが戻ってきませんからねぇ。なぁに? ラミちゃん気になるのぉ?」

「ばっ!? ちっげぇし。酔狂な奴もいるもんだなって思ってよ……」


 ラミというらしい職員は、そっぽを向いて声を荒げるが、徐々にその声は尻つぼみになっていく。


「それについては同意ですね。しかもあんなやり方をするとは、今までにいない冒険者です」

「――そうそう! レンリの言ってることが言いたかったんだよ!」


 レンリと呼ばれた長髪銀髪の受付嬢が、眼鏡を指であげながら話すと、慌てたようにラミが同意をする。レンリは眼鏡をかけ、言葉にあまり抑揚がないことから冷たく思われがちだが、冒険者に行うアドバイスは的確であり、その思いやりは気付くものには気付く。密かに人気のある受付嬢だ。


 花形である王都の受付嬢三人は、それぞれに違った良さを兼ね備えており、冒険者達の憧れの元になっている。その受付嬢三人の話題に上っているのは、つい数日前にギルドマスターへの紹介状を携えやってきた、トランス達のことであった。


 通常受付嬢になる者は、有名になったり、富を築いた冒険者との結婚を夢見ている。いつ死に別れるかもしれない冒険者との色恋沙汰はあまり求めないが、有力な冒険者と伴侶になれば、死んでも財産などは自分に残される。打算的な関係を求めているものも多い。富も名誉も財産もない冒険者の話があがるのは珍しいことだ。


 そんな話をしていると、ギルドの扉が開かれ、依頼を探す冒険者達がやってくる。


「さ、無駄話はおしまいにしましょぉ。お仕事お仕事」


 シープがぱんっと両手を合わせて音を立て、三人は気持ちを切り替える。第2波とも呼べる冒険者達の喧騒に、ギルドはいつもの騒がしさを取り戻し、受付嬢達は淡々と業務をこなしていくのだった。


 そんな受付嬢達の話題になっているとは露知らず、今日もトランス達は肥やし依頼を引っ提げて意気揚々と仕事へと向かっていった。


「いやー、この年になると厄介者扱いでな。誰もまともに話も聞いてくれんでな。すっかり肩こりも腰痛もよくなったよ。またよろしく頼むな。それに……」


 温和な表情で庭先で遊ぶ子供達を眺める老人、トントンと優しく肩を子供が叩いている。何かを思い返すように言葉を詰まらせ、視線を隣に座るトランスへ向けた。


「ありがとうな。又依頼をするから、子供達と一緒に来ておくれ」


 トランスの武骨な籠手をつけたままの手を両手で挟むと、涙ぐむようにして感謝の言葉を紡いだ。


「きゃー、ばっちっちい」

「だめだよ。遊んでないでちゃんとやらないと!」

「あはは、ゆっくりでいいから怪我をしないようにしてな」


 お世辞にも綺麗とは言えない側溝のヘドロを、子供達が掃き出していく。年配と思われる男性が窘めながらも、穏やかな雰囲気でその作業は進んでいく。その横でトランスは、鎧が汚れることも構わず、一心不乱でヘドロを掃き出している。サラも水魔法で汚れを洗い流したりと活躍中だ。


「昔はわけぇもんも一緒にやってたんだ。またこんな光景が見れるとは思わなかったよ。あぁ……懐かしいなぁ」


 年配の男性が目を細め思い浮かべる情景は、夢ではなく今確実に現実としてそこへ存在していた。


「いらっしゃいませー!」

「しんせんですよー!」

「あら、かわいい店番さんね。ちょっとこれもらおうかしら」

「まいど!」

「ひっ……」

「ありあとー!」

「……これももらえる?」

 

 子供達が客引きをし、堅気とは思えない強面な店主が野菜を売りさばいていく。ちょっとだけ客が尻込みするも、足元で店主の服の裾をつかみながら、上目遣いでお礼を言う子供に女性はいちころだった。


「はは、ダメもとでずっと依頼してたんだけどな。こんなに可愛い店員がくるとは思ってなかったよ。騎士さんが来たときはとうとう何もしてないのにお縄かと思ったぜ」


 ちょっと顔が怖いだけで物が売れなかった店主は、トランスの肩をバンバンと叩いて笑う。本人にはその気はないんだろうが、その笑顔に特に幼い子はちょっとちびっていたことは、トランス達は黙っておくことにした。


「きししゃまきししゃま。こんなにとれたよ!」

「きしさまきしさま、あたしのほうがいっぱいとったの!」

「ちょっと、見せにこなくていいからちゃんとやりなさいよ! ごめんねトラにい」

「いや、かまわない。頑張ったな」


 年少の子供達が、雑草取りをした成果をトランスの前に突き出し、褒めてもらおうとやってくる。年長の子供が支持を出すが頬を膨らませて拗ねてしまう。それを気にするようなこともなくトランスが頭を撫でると、きゃっきゃっと喜びながらまた褒められるために雑草を取りにいく。そこに汗を拭きながら畑の持ち主と思われる依頼主が声を掛けにきた。


「いや、トラさん助かったよ。手広くやったらやったで雑草取るのも大変でね。この前の収穫もすごく助かった。これからもお願いするよ。はは、あんなに楽しそうにして、久しくこんな気持ち忘れていたよ。それも含めてありがとうよ」

「と、トラにい! 多分ゴブリンだと思うけどあっちに!」

「わかった」


 慌てた様子で子供がやってきて指さした方向にトランスが駆けだす。フルプレートとは思えない速度に、周囲を警戒していた畑の護衛依頼を受けていた冒険者達が思わず目を剥く。サラが畑に踏み入らないように魔法で牽制していたようで、横合いから奇襲のような形でトランスが一刀で切り伏せた。


「サラねぇの魔法すごーい!」

「トラにいもずばーってすっげぇ!」

「あうあうー!」


 子供達の称賛の声にポリポリと頬をかくトランス。何故かリーゼがその声に大手を振って答えていた。


「人手に加えて護衛まで、トラさんにはほんと感謝だなぁ。あっはっは」


 からからとした依頼主の笑い声が畑には響いていた。


 肥やし依頼を解決するためにトランス達が行ったのは、孤児院の活用だった。直接子供達が依頼を受けることは出来ないが、トランスが依頼を受けることでそれを解消した。依頼さえ受ければ解決方法は道徳を外れない限りは冒険者へ委ねられる。大した額ではないが、依頼料を孤児院へ渡すことで足しにすることもできるし、トランスと年長の子供が保護監督することで年少の子供も手伝いをすることが出来る。お互いの利益となり、孤児院からしても渡りに船だったのだ。


 リーゼを背に、子供達を連れて街を歩くトランスを見て、いつしか自然とその名は囁かれることになった。【子連れ騎士】と。

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