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亡国の騎士  作者: 黒夢


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市井の二つ名

 二つ名とは、主にギルドで看板となる有力な冒険者に、公的な物として付与されるものである。容姿であったり、戦い方の特徴であったり、一つだけでなく何個もつく冒険者もいるが、公的にギルドから付与されるものは一つだけだ。その名に恥じない能力を持っているというお墨付きである。


 市井の二つ名というのは、ある特定の場所や、冒険者達や人々の噂からつけられる限定的な二つ名である。これに限っては本人の望む望まないに関わらず、悪名に近い者であっても広まってしまうことがある。あくまでギルドが関与せず、下手をすれば冒険者本人が言いまわってつけられた例もある。正式な二つ名であれば、指名依頼などを受けやすくなったり、報酬が高くなるなどの特典もあるが、市井の二つ名に関しては、覚えが良くなる程度の付加価値しかない。


「人によっては二つも三つも二つ名がある場合がありますけど、そのほとんどが市井の二つ名であって、公式な二つ名ではないんですよ」

「なるほど」

「サラっていったっけか? 詳しいんだね。説明慣れしてるし」

「ギルドの受付嬢もしてましたから」

「どうりで綺麗だと思ったよ。ギルドの受付嬢ってのは綺麗所しか雇わないって話だからねぇ」


 サラが市井の二つ名について詳しく説明をすると、感心したようにリゼットが目を丸くする。まじまじとサラを見ると、納得のいったように頷いた。


「でもよ、俺はサラのこと見たことないんだよなぁ」

「あぁ、私はほとんど書類処理とか裏方でしたから……」

「ふ~ん、そっか……」

「ベック! 臭いったらありゃしないよ! 着替えてからまた降りてきな。飯はそれからだ!」

「へいへい」


 便所掃除終わって、疑問を投げかけたベックの言葉に、サラの顔が少し陰る。それにきづいたリゼットはしっしっと手で追い払うようにして話題を終了させた。


「っとまぁ、話が脱線したけどね。騎士に乱暴されそうになったところをベックに救われたんだよ。それがきっかけでもあって【騎士嫌い】なんて二つ名がついちまったのさ。だからお前さん……」

「トランスだ」

「そうかい。トランスさんが騎士みたいな鎧着てるもんだから。この子は怯えちまったし、事情をしってる客が多いから、殺気立っちまったのさ。すまないね」

「いや、紛らわしかったこちらも悪い。それに、さんはいらん。しばらく世話になる身だ。気にするな」

「そういってくれると助かるよ。トランス。こちらこそよろしく」


 リゼットと固く握手を交わし、おそるおそるながらも近づき頭を下げたチータの頭を軽く撫でる。びくっと身体を震わせるものの、屈強な鎧姿似合わず、まるでガラス細工を扱うような慎重な手付きに、思わず頬がほころんでいた。齢は15程であるが、手入れされた茶色いポニーテールが揺れ、整った顔立ちのチータの笑顔はとても尊いものだとトランスは思った。それゆえに、この子をあそこまで怯えさせた存在が騎士ということに、トランスは人知れず憤りを感じるのだった。

 その後合流したベックと食事を交わし、機会があれば一緒に依頼を受けようと約束をし、旅の疲れを癒すべく床についた。文字通りトランスは床にだが……。


 次の日、巣立ちの鳥籠から本部ギルドへとトランス達は向かった。ベックにも声をかけてから行こうと思ったが、ノックしても返事がない。


「ベックなら、依頼終わりは酒飲んで昼すぎまで寝てるから無駄だよ」


 リゼット曰く二日酔いでダウンしているということなので、そのまま出てくることにした。リーゼはまだ眠いのかウトウトとトランスの背で船を漕いでいる。サラはトランスの隣に並び、道に迷わないようお互いに確認しながら歩いた。


「すまんな。どういった依頼があるのかなど見てみたくてな」

「いえいえ、大丈夫ですよ。ただ待っているっていうのも暇ですしね。依頼を受けながらでもいいですし、観光しながらでもいいですし、トランスさんにお任せします」

「うーうー……」


 聞いているのか聞いていないのかわからないが、リーゼはうつらうつらしながら頷く。サラがそれをみてクスリと微笑み、トランスも暖かい気持ちになりながら、ギルドへの道を歩いた。


 ギルドへと足を踏み入れると、クエストボードの周りに冒険者がごった返し、受付には行列ができている。何事かとトランスが困惑していると、サラが腕をひいて壁際へと誘導する。


「依頼料の高いものなど取り合いになるんですよ。ある意味早朝の名物みたいなものです。結構殺気だっていますから、邪魔にならないように落ち着くまで待ちましょう? それとも依頼を探しますか?」


 サラがトランスの疑問に思っていたことへ答え、混雑した様子へ呆れたような顔をしている。受付の方を見ると、昨日会ったシープという女性も行列を捌くのに忙しそうだった。受付を三か所ほどに増やして対応しているようだが、行列が終わる様子がない。うんざりとした表情で受付をする受付嬢もいる中、表情を崩さず対応しているシープという女性の力量を窺えた。


「いや、いい、落ち着くまで待とう。あくまで様子を見に来ただけだからな」

「そうですね。そうしましょう」


 トランスの決断に、ほっとした様子のサラは笑顔で答える。まるで戦場のような光景を、その波がひくまで三人は眺めていた。

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