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亡国の騎士  作者: 黒夢


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王都のギルド

 大きくギルド総本部と書かれた看板を見上げ、最近見上げることが多いなとトランスは一人思う。頭の上で両手を振り回し喜ぶリーゼは、とにかく王都で見るもの全てが新鮮で嬉しいようだ。


「っし、じゃぁついてきてくれ」


 大きな両開きのドアをロブが開け、その後ろをトランス、サラが続く。広いギルドのフロアに散らばっている冒険者達の視線が、一斉に入り口に向いたことで、はしゃいでいたリーゼもトランスにしがみついておとなしくなった。ふとそれに気づいたトランスは、自然と手が伸び、小さなリーゼの手に添える。その様子を後ろからサラが微笑ましいものを見るような目で見ていた。


「おいおい、ありゃベックか」

「帰ってきたんだな……後ろのは連れか……?」

「でもあの鎧……」

「――のベックが? たまたまじゃないか?」

「とうとうあいつも――か」

「ってかなんで子供が?」


 値踏みするような視線とは別に、ぼそぼそと話をする声が聞こえてくる。なんとも意心地の悪さを覚えながら、ベックの後ろをついてトランス達は受付までたどり着いた。


「よっ! 依頼を終えてきたぜ! トランスさんの依頼書も一緒に頼むわ」

「はい、確かに完了のサインを確認しました。ベックさんについては後日結果が伝えられますので、宿の場所を教えて頂ければ使いを送ります」

「おぅ、いつものところだ、たのんまぁ」

「承知しました。そして、こちらのトランスさんのほうなのですが……」


 ふわりとした紫の髪が特徴的な、優し気な表情をした綺麗な受付嬢が、トランスから受け取った依頼書と、メンバーを交互に見ながら少し言葉に詰まる。


「何か問題があったか?」

「あっ、いえ……。完了のサインもあるし大丈夫です。はい。ここでの利用は初めてのようなので、プレートを見せて頂いてもいいですか?」

「構わない」


 城門でのやりとりのようにプレートを奥で検分すると、問題がなかったようで間もなく返された。


「わぁ、随分優秀なんですね?」

「む?」


 嫌みのこもらない純粋な尊敬のような意を含んだ視線を向けられ、何のことかわからず首を傾げるトランス。反応を見て首を傾げる受付嬢。それを見かねてサラが苦笑しつつ助け舟を出す。


「ギルドプレートには、倒した魔物の魔素をほんの少し吸収して、記録する機能があるんですよ? シープさん。トランスさんはまだ冒険者になって日が浅いんですよ」

「あー、そうなのね。随分魔物を倒しているみたいだし、鉄級だからベテランさんなのかと思ったわ。ありがとうね。サラちゃん」

「知り合いなのか?」

「元同僚です」

「元……って戻らないの?」


 シープがサラの発言にきょとんと指を顎に当てて、首を傾げる。見る人が見ればあざとい表現だが、シープの雰囲気が妙にその行為とあっており、嫌な感じが全くしないのだった。


「しばらく冒険者を続けようかなって思って」

「そう……、応援してるね?」

「ありがとう」


 お互いに友人同士の優しい笑みを浮かべ、ほわほわとした雰囲気が漂う中、トランスが思い出したようにもう一つの書類を差し出した。


「そうだ、すまないがこれを頼む」

「えっと、ギルドマスター宛ですか。……バラックさんから!? 今は不在なので、お帰りになり次第お渡しします。使いは……」

「ああ、俺と同じ宿で頼むわ。紹介する予定だからよ」

「承りました」


 サラと話をしていたときとは変わった雰囲気に、すぐに切り替えるあたりはさすがと言えるだろう。思わずトランスが感心している内に、報酬が手渡され、宿の手配があるからと急いでギルドを後にするのだった。話をしていた限り安全だと思ったのか、帰り際小さく手を振るリーゼに手を振り返しながらシープは口を零す。


「ベックさんにもびっくりしたけど、サラちゃんにもびっくりしましたねぇ。里帰りなんて言って、子供まで産んで帰ってくるなんて」


 その吐露を聞いた冒険者達と職員は思わずズッコケた。意外とシープは天然だったのである。又、色々な衝撃から忘れられたことだが、護衛が一人足りなかったことは、道中亡くなったではないかと憶測から詮索されなかった。トニーやトランス達がそのことでギルドから注意されるのは大分後の話である。

ドラゴンの討伐履歴もあり実は物凄く驚いてますが、天然なので反応が鈍いです。迂闊に具体的な情報を漏らさないあたりはベテランの受付嬢といったところでしょうか。サラも美人なので、職員や冒険者も覚えている人が多く、リーゼの大きさ的にありえないのでズッコケてます。


悲報)トニー知らず知らずに死亡扱い

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