ギルドへ向かって
王都ホワイトクラウン、国王が代々純白の王冠を引き継ぐことからそう呼ばれることになったという。頑丈な城壁と堀に周囲を囲まれ、有事の際は跳ね橋が上げられ、外敵の侵入を防いでいる。
ロブが見えてきたと話した時点でもかなり大きく見えていたが、近づくにつれてそびえたつ壁の高さに、トランスとリーゼは思わず見上げて声を忘れていた。それを横目に見て、ベックとサラはまるで昔を懐かしむかのように微笑んでいた。、自分たちが始めて王都を目にしたときのことでも思い出しているのだろう。
「さて、入る為には手続きが必要になります。もう少しの辛抱ですよ」
「あ~、一応トランスさんはフードを外しておいたほうがいいかもな。兜も外しておいた方がいいな。あとギルドプレートをいつでも出せるようにしておいてくれるか?」
「む……?」
「う~?」
ロブの言葉に続けるようにして、申し訳なさそうにベックがトランスに指示を出す。その様子に不満がある訳ではないが、理由を尋ねるように視線をトランスは向けた。
「ギルドプレートには本人を認証する情報が魔法で入っています。照らし合わせて顔の確認とかをするんですよ。治安を守るためですから、顔を隠していたり、認識を阻害しているような状態だとあらぬ疑いを与えるだけですから」
「その鎧って時点でちょっと怪しまれちまうとは思うんだけどよ。隠すようにしてて見つかるより、やましいことがないんだから、堂々としてたほうがマシだと思うんだよな」
「そう言うことか、了解した」
「あぅあぅ!」
サラが何故かを実務的に説明し、ベックが感情的な部分での説明で補足する。二人の気遣いにトランスアは肯定の意を伝え、感謝を込めて視線を向けると軽く会釈をした。リーゼも笑顔を二人に向けると、サラは微笑みで返し、ベックは照れ臭そうに頭をぼりぼりとかいた。
「まっ、王都にいる以上、あっちから面倒事はやってきそうだけどな……」
めんどくさそうに呟いたベックの呟きは、誰に聞こえることなく周囲の喧騒にかき消えるのだった。
「止まれ。身分を証明できるものをこちらへ」
「はい、こちらになります」
身軽そうな鎧を付けた兵士達に身分証を求められると、ロブが慣れた手付きで手続きを済ませる。それに倣うようにトランス達もギルドプレートを兵士に手渡した。ぶつぶつと何かを唱え、何かを参照したかのような目配せをすると、それぞれの手にプレートを返す。
「くれぐれも問題を起こすんじゃないぞ?」
「む……? あぁ」
なぜかトランスにプレートを返す際にだけ、念を押すように一言加え、ギロリと睨みつけた。当の本人は訳が分からず困惑していると、背を押されるようにして歩を進められる。
「ご苦労様です。ささ、行きましょう」
まるで急かすようなロブの言葉に、トランス達はその場を後にするのだった。
「しばらく滞在することになるのでしょう? いずれわかりますよ。それより今は目的を優先したほうがいいでしょう。今日中にギルドへ行って、宿を探さないといけませんよ?」
大量の疑問符が浮かびそうな程首を傾げていたトランスに、ロブが笑みを絶やさず話しかける。やらなければいけないことを指摘され、トランスはとりあえず疑問を頭の片隅に置いておくことにした。
「じゃ、ギルドへは俺が案内するぜ。そのあと宿もおすすめを教えてやるよ。って、サラもいるし大丈夫か? 俺はその時見なかった気がするけど、ギルド職員だったんだっけ?」
「はい、でもギルド職員ではなく、冒険者として活動するつもりなので、ベックさんのおすすめを教えてもらえると助かります」
「お? そうなのか? まぁ、そうゆうことなら任せときな。この依頼が終わったら別行動だろうからな。ギルドと宿ぐらい渡りをつけといてやるよ」
「む、そうなるか……。世話に――」
「だぁー! まだ終わってないんだから言うなって? 日が暮れる前にいこうぜ?」
「あぅあーうー」
ロブが案内を勝手でると、サラもその提案に乗った。別れを匂わせたロブに、頭を下げようとしたトランスをロブが手で制する。リーゼは心なしか寂しそうな表情を浮かべている。
「ははは、名残惜しいですが私はこれで。ベックさん、後日ギルドで会いましょう」
「あいよ~」
「無理を言ってここまでありがとうございました」
「感謝している」
「あうー!」
「いやいや、儲けさせて頂きましたし、心強かったですよ。入用の時は是非我が商会まで」
ベックがロブに手をひらひらとしながら答える。ロブは綺麗なお辞儀をし、リーゼが目いっぱい手を振る見送りに答えながら、笑顔のまま王都の雑踏に消えていく。商売柄出会いと別れを繰り返しているであろうロブの、慣れたようなあっさりとした別れであった。
「んじゃ、いくか」
軽い足取りでベックが歩き出す。雑踏の中を苦も無く歩き、入り組んだ道を迷うことなく進む後ろ姿を見失わないようについていく。時々ちらちらとついてきているか確認しているようだったが、リーゼが見慣れない街並みに目を奪われ、頭をぺしぺしと叩くことで足取りが遅れる。そっと背中につきそうように手を添え歩くサラが、なんとも頼もしく思えてならないトランスだった。




