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亡国の騎士  作者: 黒夢


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露店商

 ビカの村でリトス夫妻、トニーに見送られ、一行はロブの行商の為、もう一度アーキナに立ち寄っていた。


「それではみなさん、私は色々と仕入れてきます。この間は観光もできなかったでしょう? せっかく商業都市に来たんですから、自由に見てきてください」

「あんなこともあったばっかだしなぁ。俺はロブさんと一緒に行ってくるから、トランスさんたちは色々見てきていいぞ」


 ロブが一度別れる旨を話し市場の方へと歩き出すと、ベックがトランスの背中を叩いて連れ出つ。振り返らりもせずに手の平をひらひらを振り、暗にお前らだけで行って来いと無言で語る。仲間であったトニーとの別れへの不器用な男の気遣いに、トランスはフードの下で苦笑するのだった。


「あの時は周りを見る余裕がありませんでしたけど、ほんとに色々な物が売ってますね~」

「あぅあぅ」

「よくわからんものも多いがな」


 しっかりとした作りの建物から、ただ風呂敷を広げて商品を並べただけの露店まで、所狭しと店が並び、街は人々の喧騒に包まれている。


「やすいよやすいよー!」

「ここでしか売っていない魔法具だよ~。今買わないと後悔するよ~!」

「ちょっとそこのお兄さん、見て行かない? 安くしとくよ?」


 もっとも、使用用途の全くわからないガラクタや、品質の悪いものも多々あるため、迂闊に手を出すなとベックには厳命されている。実際怪しいものも多く、とても手を出そうとは思えないもののほうが圧倒的だった。


「まぁ、見ている分には飽きないがな」

「ふふ、そうですね。知らない物をしるのっていいですよね」

「あぅ」


 本来であれば、リトスは商業都市で錬金術の材料を集める予定だったのだろうが、商魂逞しいアーキナの商人達に、世間知らずのリトスがやり込められている想像しかできない。


「うん? いや、まさかな……」

「うー?」


 トランスの脳裏にチャンバーの姿が思い浮かんだ。チャンバーは商会を通して錬金術の材料を買い占めていた。ベックがロートから聞いた話では、困り果てたところで手を差し伸べる形で再会を果たさせようとしていたらしいが、そもそもここでの買い物が出来ないことまで見越していたのでは? と。今となれば確かめる術はないため想像にしかすぎない。小さく頭を振り、脳裏に浮かんだ疑問を消し去り、心配そうに兜を叩くリーゼの頭を軽く撫でた。


「そこの可愛いお嬢さん、これなんてどうだい?」

「うーん、結構しますね……」

「む?」

「あぅあぅ?」


 トランスが思考に没頭している内に、サラがいつの間に露天商に捕まっていたらしい。アクセサリー商のようだ。高いと言いつつその眼はアクセサリーを物色している。魔法使いであり冒険者といえ、女の子なのだなとトランスは人知れずため息をつくのだった。


「そちらは彼氏さんかい?」

「え?」

「ん?」


 しばらく待っていたが、一向に物色が終わらず、どうせならとサラに並んで見ていると、ジロリと皺の深い女性の露店商がトランスに話しかける。予想外の声掛けにサラは手を止め、トランスは首を傾げる。その際リーゼの姿が目に入り、露店商はわざわざ言い直した。


「あぁ、すまんね。旦那さんだったか。随分若い奥さんだね。こんな世の中だ、大事にしてやるんだよ?」

「えっ、いや……あの……」


 リーゼを見て人好きのする笑みは、好意で言っていることがわかる。サラは顔を真っ赤にして慌てているが、機嫌を損ねた様子はない。わざわざ否定して気を使わせることもないだろうと、トランスは気になっていた青い宝石のアクセサリを三つ手に取り、露店商に手渡した。


「これをもらおう」

「お客さん、お目が高い。奥さんも良い旦那さんを持ったね。いつまでも仲良くね」

「あっ、その――」

「あまり長居も迷惑だろう。行こう」

「ちょっと、トランスさん!? あ、すいませんでした」

「あぅー!」

「毎度どうもね」


 支払いを素早く済ませ、商品を受け取ると立ち去る。実際結構な時間を見ていたので、そろそろ潮時かとは思っていたのもあり少し足早になり、慌ててサラが背中を追いかけていった。


「もう! 急にどうしたんですか!? それに、夫婦と勘違いされて……」

「いや、気の良い人だったんでな。気を使わせる必要もないだろう。……これを」


 サラの手に青い宝石のピアス、リーゼには青い宝石のついたヘアピンを手渡す。自分自身には青い宝石のネックレスを購入した。どれも似たような意匠であり、製作者が同一人物であることを匂わせる。


「いいんですか? 結構高かったですよ?」

「あぅあぅー!」

「気にするな。苦労ばかりかけているからな。それより勝手にきりあげてすまなかった」

「そんな! 気にしないでください! 嬉しいです……。ねっ、リーゼちゃん?」

「あーう、あーう!」


 嬉しそうにはしゃぐ二人を見て、トランスはフードの下で顔を綻ばせていた。本人は気付いていなかったが、夫婦と間違えられて動揺していたのはサラだけではなかっただろう。むろん、お揃いのアクセサリを手渡し喜びあっている姿は、周囲から見れば夫婦のようにしか見えなかった。


 その後もトニーとの別れの寂しさをごまかすように、買い出しや露店で買い食いなどを行い、ベックとロブと合流するころには、落ち込んでいた気持ちは持ち直しているのだった。

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