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亡国の騎士  作者: 黒夢


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渇望と失念

久々の更新ですいません。少しいつもより長めです。

 チャンバーの目の前でつらつらと語るロートの言葉に、リトスは衝撃を隠せない。


「わ、私が創られた? チャンバーも……フラスまで?」

「えぇ、俺はそう聞いています。クーゲルさんの言葉を借りるのであれば、リトスさんは殲滅の力を、フラスちゃんは錬金術の力を転写され受け継いでる」


 信じられない話に、トランス達も押し黙るしかなかった。今はただロートの話す言葉に耳を傾ける。生気のない瞳でロートを見つめ、縋るような声でチャンバーがロートに問う。


「私は……、私には何がある? 私は何を受け継いだ……?」

「それは、ここにあります」


 ロートが懐から取り出したのは、血のように真っ赤な赤い宝石であった。美しくもあり何か狂気的な物を感じるそれに一同は息を呑む。それはまさに芸術。ある能力を極めたものが行き着くものであることを誇示するかのように、目が離せない美しさがある。チャンバーは魔力欠乏を起こし満足に動かない身体で、それに視線をくぎ付けにしながら疑問を口にする。


「どうして、それをすぐに私に渡さなかった……?」

「気づいてもらうためです。クーゲルさんが俺に頼んだのは、チャンバーさんがすでにそこにあるのだと実感し、気づいてもらうようにと依頼したんです。」

「どう言うことだ……?」


 抽象的な言い方に、思わずトランスが疑問を口にする。正直リーゼに危害を加えたチャンバーに油断は出来ず、ロッシーの容態も芳しくないことから焦りがそこにはあった。


「チャンバーさんを創り出したときに与えられたものは、渇望。届かないものへの羨望。望み……だそうです。錬金術という力を持ちながら、さらに高みを目指し人工生命体ホムンクルスという生命への禁忌にまで手を出したクーゲルさんが無意識のうちにそれを組み込んでいたそうです。元々人工生命体ホムンクルスがもつ性質にそれが相まって、チャンバーさんは人一倍あらゆるものへの渇望が強くなったのだろうと話していました」


 その言葉を聞いて、リトスが思案気に呟く。


「そういえば……、旅先で取引先相手に、祖父は大分丸くなったと言われていた。チャンバーが生まれてからだと言われていたが……」


 ロートがリトスへと視線を向けゆっくりと頷く。


「技術の高みを目指し、あらゆるものを望みながら創った人工生命体ホムンクルスに、無意識に渇望を注ぎ込んだからだと言っていました。そして、失うことで気づいたとも」


 視線をチャンバー、リトス、フラスへと順に向け、ロートは赤い宝石……賢者の石をチャンバーへと差し出しながら微笑む。


「求めたものはここにある。技術や力など所詮は手段に過ぎない。究極の生命を求めたが、それにより得たと確信できたのは家族であった。チャンバーよ。ここにはお前の求めたものが全てある。技術を受け継ぎリトスに、知識を受け継いだフラスが居る。お前が真に望んでいたのは家族だ。元であるわしがいうのだから間違いない。わしがそこにおれなんだことは無念であるが、我が命を糧に、家族をお前へと与えよう……とクーゲルさんからです」


 チャンバーの瞳から涙が溢れ、覚束ない身体で魔物と化した手をゆっくりとロートへと伸ばす。確かにクーゲルの言っていることは間違っていなかった。生命としての情報の元であるクーゲルが言っているのだ、それは間違いなかった。本来であればここで自己を安定させたチャンバーは、心から求めた渇望である家族を得たことにより一つの人工生命体として完結しただろう。


 だが、クーゲルは失念していた。生命情報を書き込んだ賢者の石は、強い魔物の体内に稀に存在する魔石という魔力の塊に性質が酷似していた。渇望という一つの事柄から共鳴していた魔物とチャンバー。ロートが賢者の石を受け渡す時に、魔物と同化しているということは可能性になかったのだ。


「これが……、私の……」


 手が届く、やっと得られる。チャンバーの心を満たしていくような甘美な甘い蜜のような充足感。賢者の石に触れた指先から暖かな感情がしみわたっていった。しかし、ここで一つのエラーが発生する。何故魔物と共鳴したのか? それは魔物も渇望していたからである。欲しいという他の生物の生命すら脅かす程の強い衝動が彼の心にどす黒くまとわりつき……。賢者の石ごとロートをその腕が握り潰した。


「え……?……ぁ?」


 何が起きたかわからずリトスの呆けた声をあげる。そこに場違いな骨と肉を砕くような咀嚼音が響き渡った。チャンバーの握りしめた手の平には、いつの間にか鋭利な歯が足り並ぶ口が存在し、()()()()()()()()を咀嚼する。


 戦闘経験の多いベックはすぐに反応し、トニーとサラを下がらせナイフを構える。トランスは呆けるリトスの前へ立つと、深紅の剣を突き立てんとチャンバーへと肉薄する。しかし、怯えたような表情を見せたチャンバーは、その場を飛び立ち、広間の天井を突き破った。その感情は恐怖。今までただあらゆるものを欲しいと思うだけであったチャンバーが感じたことのない感情だった。賢者の石を得て完全となり、ロートの肉を取り込んだことで得た、生への執着がそうさせたのだ。


 力をある程度持った生物が持つ行動、それは恐怖の対象から逃れること、そしてもう一つ、排除。開けた空間へと出たこと、ロートを取り込んで回復した魔力を用いての攻撃だった。魔力を収束した炎がその腕の中で膨れ上がっていく。


「お、おいおい、やべーぞあれは。俺達を建物ごとふっとばすつもりだ! トニー! 矢は届かねぇか!?」

「無理だ! 高すぎる……。おっちゃん! チャフってやつはないのかよ?」

「だめです……。室内ならともかく開けた空では風で舞ってしまうし、矢と同じで高すぎます。それに、魔力を吸収させて消すのは一瞬ではない。あれだけの魔力は一度効力を発揮させるなどさせなければ到底無理です……」

「反転は……確証がないか……。なにより大きすぎる……」

「あぅ……」


 上空でチャンバーの巨体が抱える程の炎の弾が膨れ上がっていく。全員が絶望的な表情で見上げていると、たった一匹が、血濡れの身体で飄々と準備をしていた。


「ロッシー! その身体でなにができる!」


 リトスの白衣から錬金薬:加速ヘイストを探し出しかみ砕く。口内は瓶の破片でズタズタだが気にする様子もない。さらに、魔素攪乱剤チャフの口に加えると、身体中の血が噴き出すのも構わず、ありったけの魔力を注ぎ込み筋肉が膨張する。


 あまりに凄惨な光景に誰もが息を呑み込み言葉を失うが、血濡れの身体で、血涙を流すその瞳はひどく落ち着きを払っており、ジッと一人の騎士を見つめ、まるで頼み込むように頭を下げた。


「……借りを返せというのか。これではまた借りを作るだけな気もするがな」

「あーぅ? あうあう!」


 何かを察したかのようにトランスは身をかがめる。突然の動きにリーゼが抗議するが、剣を地面に置くように水平に構えたトランスの鬼気迫る覇気に、しがみつく力を強めた。


 剣の上にロッシーが足を掛けると、トランスは思い切り上空に向かって振り上げた。


「はあああああああああ! <衝撃インパクト>ォォォォォォォ!」


 振りぬく直前に衝撃インパクトを放ち、ロッシーは思い切り剣を蹴りぬく。主従を誓った仲じゃない。頭で突き上げ叱咤したり、物理的に背中を押し飛ばしたり、剣でその身を死地へと送り届けるような仲なのだと一人と一匹は通じ合うように、刹那の瞬間視線は目を合わせ、すれ違った。


 チャンバーから放たれた炎は、空中でロッシーにあたり爆散、チャフによってその影響はトランス達に届くことはなく、魔法の炎と共にロッシーの生命の灯は潰えた。キラキラと輝く魔力を帯びたチャフの光が降り注ぐ中、トランス達は、遠ざかっていくチャンバーの姿を見上げていることしかできなかった。

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