リーゼのマント
全身を覆うくすんだ鉄色の鎧は、彼の決意を閉じ込めた棺のようにも見える。胸部の大きな穴は、彼が抱える致命的な弱点であると同時に、彼がこの旅を続ける理由を象徴していた。
トランスの隣のベッドでは、リーゼが静かに眠り続けている。彼女の身体を覆う『慈悲のマント』は、以前のボロ布の面影はなく、純白の生地に繊細な金の刺繍が施されたポンチョ風の装束へと変貌していた。マントはリーゼの小さな身体に最適化され、まるで彼女の清らかな魂が形になったかのようだ。
サラは、トランスの食事に使われた椀を片付けながら、リーゼの安らかな寝顔を見つめていた。
「リーゼさんは、本当に穏やかですね。まるで、このマントが彼女の心を守っているみたい」
サラはそう言いながら、視線をマントを向け、後半の言葉は、少し羨ましそうな声色でつぶやいた。
トランスはリーゼから視線を離さず、静かに答えた。
「……マントは、彼女の献身的な意思と連動している。彼女は今も、無意識に俺の魔力不足を補い続けている」
トランスの声は低く、感情を抑制しているが、そこにはリーゼに対する深い感謝と、彼女を危険に晒していることへの責任が滲んでいた。
バラックは、二人の会話を聞きながら、穏やかに頷いた。
「その通りだ、トランス殿。リーゼ君の魔素吸収能力は、驚くほど効率的だ。だが、その代償として、彼女の体は常に魔力枯渇に近い状態にある。だからこそ、彼女は深い眠りにつくことで、体力の消耗を抑えているのだろう」
バラックはトランスの目を見据えた。彼の琥珀色の瞳は、全てを見透かすような鋭さを持っている。
「君の鎧が莫大な魔力を消費するエンジンならば、彼女のマントは、その燃料を供給し続ける太陽のようなものだ。君たちが離れれば、恐らく彼女はまた忌み嫌われる生活に戻ってしまい、君は鎧に生命力を吸い尽くされる。君たちは、共に生きるか、共に滅びるか、という状況にある」
トランスは、胸の穴に触れた。
「……逃げ場はない」
トランスは断定した。それは諦めではなく、覚悟の表明だった。
サラは、トランスの言葉に胸を締め付けられる思いがした。彼が記憶を失い、恐怖に苛まれながらも、常に正義感を貫き、この少女を守ろうとしている姿は、とても眩しく見えていた。




