クーゲルが語った真実
「内臓も傷ついていそうだ。早く飲んだほうがいい」
「えっ……。あ、あぁ、すまねぇ。こんな高価なものを……いいのか?」
「命より高いものはないよ」
チャンバーさんと同じような顔で、絶対にしないだろう笑顔を向けてくる男。リトスさんとの出会いだった。その後ろをゆったりとした足取りで、フードを深く被った老人が歩いてくる。
「ふむ。急に走りだしたと思ったら……。そうゆうことか」
「ごめんなさいおじいちゃん。ポーション勝手に使ってしまいました」
「よいよい。お前がいいと思ったならそれでな。そこの若いの」
「え、はい!」
温厚そうな声でリトスに声をかける老人だったが、俺に話しかける声はまるで氷のように冷たく思わず背筋を伸ばしてしまう。
「他言無用にの?」
「は、はい! ありがとうございました!」
高価なポーションを善意で無償で使用したことを、誰にも言うな。たった一言であったが、それを理解した。それほどまでにその一言は重かった。だが俺は話してしまった。その日の出来事を、チャンバーさんへ、俺は今でも後悔している。
「見つけた! 見つけた見つけたぞ!」
「チャ、チャンバーさん?」
言い触らす訳ではないからいいだろうと、報告の中でポーションを惜しげもなく使う男と、フードを被った老人のことを話すと、人が変わったかのようにチャンバーさんが叫び出す。
「錬金術師だ! クーゲルだ! くははははは!」
「れ、錬金術師?」
「私の親だよ! 足取りを掴めなかったが……そうか……。ロート」
「お、親ぁ? はい?」
「その付近を探れ。居場所を特定するんだ。私が欲したものがあるかもしれない」
「……わかりました」
正直、一度も親の話など聞いたことのなかった俺は疑問しかなかった。俺自身が親から捨てられたのもあってか、チャンバーさんが親に求めているものがあるとは思えなかったからだ。疑問を抱きつつも、ポーションで命を救われた森の付近を探索する。しばらく何も見つからず歩いていると、フードを被った老人……クーゲルの姿があった。あの時の雰囲気から声をかけようか迷っていると、自分の足元から半歩程の位置が小さな爆発を起こし弾け飛び思わず固まってしまう。
「お前はわしらを害するものか? 今一歩動こうとすれば、次は足元がそうなるぞ?」
鬼気迫る空気に息を呑むが、先ほどの爆風で目深に被っていたローブがはだける。そこには、明らかに年をとり、皺や彫りが深いが、チャンバー、リトスにそっくりの顔があった。親子と言うにはそっくりすぎる顔に、思わず掠れるような声でつぶやく。
「あ、あれ……? チャンバーさん? 」
「ふむ……。話を聞かせてもらえるか?」
鬼気迫る表情はチャンバーさんの名前を聞くと動揺が見られ、俺は爆発物を懐に添えられたまま工房へと招かれた。
ガラスの瓶や羊皮紙が散乱する工房で、チャンバーさんとの関係を聞かれる。いつでも爆破できる爆発物が手元にある以上、俺は喋るしかなかった。生への渇望、チャンバーさんが俺に見た価値はそれだけだったから。目尻に深い皺を浮かべ、クーゲルさんは頷きながら只話を聞いていた。
「そうか、そうか……。ロートといったか? お主はチャンバーに恩を感じておるんだな?」
「……はい。きっと周りから見ればおかしいかもしれませんが、俺の恩人ですから、何とかしてあげたいんです。あの飢えのようなものを」
「ほっほっ。チャンバーも捨てたものではなかったようだ。そうか、あいつがのぅ……」
ずっと緊迫していたような空気だったものが、好々爺の声色になり雰囲気が和らぐ。まるで懐かしむかのように目を瞑り、ほぅっと息を吐くと、ぶつぶつと呟き始める。
「しかし、魔物を操るか。同調といってもいいのかもしれんな。確かに原理としては似通っているのか? 思わぬ副作用じゃな。少なくとリトスもフラスにも兆候は見られん。いや、あのときも見られなんだ。とすると、別れたあとか。感情の起伏や高まり? いや、命の危機でもあったのだろうか。ふっ……、自分勝手に甘やかし、制御できないとすれば放置し、挙句何も知らないでいたとはな……」
訳の分からない言葉に思わず表情を顰めてしまうが、そんなことはおかまいなしにつらつらとクーゲルさんは言葉を続けていく。
「我が人生をかけて培った技術を用いて錬成した。チャンバーは初めて創った個体じゃよ。生命を創るというのは難儀なものでな。未だ完全とは言えないが、リトス、フラスと代を重ねるごとにわかったことがある。元より存在していなかった故か、猛烈な飢餓感を感じるのもその一つじゃ。足りないものを埋めようとするかのように、人から見れば異常な程なにかに固執する傾向がある。なに、生命情報の転写が必要なことから、同一個体にもどろう、なろうとするのかもしれん。チャンバーに関してはまだ不完全なまま側を離れてしまったからのう。いや、わしが突き放してしまったようなものか。わかってくれると、もどってきてくれるとどこかで過信していたのかもしれん。どうにかできんかと研究を進め、探しておったが、まさかあちらから来てくれるとは思わなんだ……」
透明な液体の入った瓶を口元に運び、喉を湿らせながら、冗談のようなことを真剣な顔で言葉を続ける。その表情は、何かを求める時のチャンバーさんと同じだった。
「俺は馬鹿だから……、すいません。何を言っているのか……」
正直俺には訳がわからず、狼狽えるように出た言葉に対して、ひどく落ち着いた声でクーゲルさんは答えた。
「チャンバーはわしが賢者の石で創った、人工生命体なんじゃよ」




