決死の代償
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トランスは呼吸を整えつつ、横たわるチャンバーの巨体を見つめていた。
「あぅー」
「大丈夫か? 今治そう」
「はぅ」
残心を解かぬまま、片手でリーゼを撫でるようにして治癒魔法をかけていく。転がるように吹き飛ばされる際、額や頬を切っていたからだ。気持ち良さそうに目を細めるリーゼの傷を癒すと、自分の身体にも治癒魔法をかけていった。
何度も何度も吹き飛ばされながらも戦えたのは、治癒魔法がその効力を発揮できたからだ。いくら強固な鎧に守られていようと、強力なチャンバーの攻撃は確実にトランスにダメージを与えていた。チャフは放出した魔力に反応するが、自分自身や極めて近距離に関しては軽減する程度の効果だったことが功を奏した結果であった。
「傷の割にはダメージが大きかったのか?」
チャンバーはその巨体からすれば、倒れ込むような傷ではないように思える。徐々に動きが鈍くなっていたことにも疑問を覚え、トランスは思わずつぶやいた。
「魔素攪乱剤の効果ですよ。トランスさん。チャンバーはもう動けないでしょう」
「最初にばら撒いた薬か?」
「そうです。空気中に散布されたチャフは魔素に引き寄せられます。私たちは呼吸などをするだけでも魔素を循環させようとするんですが、チャフはそれを阻害します。あの巨体ですから、あれだけ動くことでチャフを大量に体内に取り込んでしまい。魔力欠乏状態になったんです。最初に口に含んでもらった薬はそれを起こさせないようにする薬ですよ」
少し離れたところで、リトスはしゃがみ込みながらトランスに伝える。チャフの効果を説明されたトランスは、やや不安ながらもチャンバーから視線を外す。そこには、耳と目から血を流し、浅く呼吸をしながら倒れたロッシーに、悲しそうに視線を落とすリトスがいた。
「ロッシー? 今治癒魔法を……」
「あぅあぅ!」
トランスが走り寄るが、リトスは目を瞑り首をゆっくりと横に振る。すでにリトスの足元には、ポーションの瓶が何本も転がっていた。
「治癒魔法ならば!」
「もう……ロッシーは」
リトスの目に涙が溜まっていく。ロッシーは身を挺してリトスのことを守り続けていた。何度も死にかける程のダメージを受けながら、魔力も切れかけた身体で死力を尽くしていた。ポーションも治癒魔法も、生命力を活性化させることで傷を癒す。元々高齢のロバであったロッシーは、生命力が尽きかけていた。活性化させようが、元の絶対値が少なければ、その効果を発揮することはない。
「くそ……、くそっ! ロッシー!」
「うっ……、うっ……、すまない。私が止めていれば……」
「あぅ……、あぅ」
治癒魔法をトランスがかけてるものの、ロッシーが良くなる気配は全くなかった。力のない嘶きが、まるで気にするなと言っているように聞こえた。元々クーゲルとも旅をしていたこともあるロッシーは、錬金薬の効果がわかっていた。戦闘中にリトスの白衣を加えて引っ張ると、錬金薬:閃爆を口に加え走り出したのだった。三人がロッシーを囲み、涙を流していると、広場の上階より声がかけられる。
「おーい、トランスさん。勝ったんだな?」
「うわわ、魔物? 倒したんですか?」
「おぃおぃ、俺の活躍の機会とっておいてくれよ~。っま、さすがにやばそうだったからいいけどさ」
「……チャンバーさん」
フラスを背負ったベック、サラ、トニーがトランス達に声をかけやってくる。ロートだけは異形と化したチャンバーのほうへと、ゆっくりと歩み寄っていた。
「フラスちゃんは無事だぜ。だが……こりゃぁ……」
「ロッシー……」
「な、治らないんですか?」
ロッシーの様子に気付き、治癒魔法をかけるトランスを見るが、首を横に振る。ベックは眉間に皺を刻み、トニーは視線を伏せる。サラは目に涙を浮かべながら毛並みを優しく撫でていた。
「チャンバーさん、もう、やめましょう」
「ロート……裏切ったのか……?」
チャンバーの、怒りとも諦めとも取れる、低くくぐもった声が広場に響く。ロートは、悲しそうに目を伏せながら、言葉を続けた。
「俺は、チャンバーさんの味方です。行くあてのなかった俺を救ってくれたのはあなただ」
「なら、なぜ……」
「あなたのお父さん、いや、生みの親であるクーゲルさんに頼まれたんですよ」
「生みの……親……?」
チャンバーは目を見開き息を詰まらせる。ロートの意味深な発言に、リトスを含めた一行の視線は、ロートへと向くのだった。
「丁度いい。リトスさんも聞いてください。俺がクーゲルさんから託されたこと、全部お話します」
魔素攪乱剤は、すでに戦闘でチャンバーがほとんど吸ったり、風で吹き飛んでおり影響はほとんどありません。




