信頼
時間がとれたので久々に連投です。
瓦礫の暴風雨の中を、ロッシーとトランスは駆け抜け合流する。避けきれず浴びた瓦礫の弾丸にロッシーは血まみれとなるが、そのたびに、リトスがポーションで傷を癒していく。
「オオオオオォオオオオ、アアアアアア!」
「やらせん!」
リトスとロッシーを庇うようにトランスが前に立ちはだかると、次々と瓦礫を剣で叩き落とし、身体を使って弾いていく。明らかに大きな瓦礫に至っては――。
「――あーうあぁ!<反転>」
「はぁぁぁぁ、<衝撃>」
リーゼが反転で跳ね返し、トランスが衝撃を使い砕き飛ばす。生身であれば引き裂かれてもおかしくない威力の瓦礫をその身に受け、血反吐を吐きながら耐え、その身を治癒魔法で癒していく。瓦礫は床や壁に突き刺さり、砕いた瓦礫によって土煙が発生し三人と一匹の姿は見えない。しかし、怒りのあまり理性の飛んでいるチャンバーは手当たり次第に瓦礫を投げ続ける。時々跳ね返ってくる瓦礫が身体に当たるが、意にも介さない。しかし、ふと瓦礫の中に異物が混じり出すことに気付く
。
瓦礫が跳ね返ってきている中に、時々瓶が混じっており、身体の横を掠めていったことで、雷撃の痛みを思い出し冷静さを取り戻した。周囲にさっと視線を向けると、所々に瓶が割れて転がっている。リトスの思惑通りにはいかなかったことに安堵するとともに、小細工に対し沸々と怒りがこみ上げ、歯が砕けんばかりの歯ぎしりが周囲に響き渡る。
「オノレェェエエエエエ!」
「ぐっ、なんだ?」
「あわうー!」
雄たけびを上げたチャンバーの背から竜のような翼が生え、土煙を吹き飛ばし、魔力でなく物理的に風を起こした。リーゼは吹き飛ばされまいとトランスにしがみつく。
「ドウダ! コレならば錬金薬を投げようがトドクマイ!」
「ロッシー!」
「トランスさん!」
晴れた土煙の中から、ロッシーが飛び出す。止めようとしたトランスをリトスが制した。怪訝そうな顔をしたチャンバーは叩き潰そうとするが、ふとロッシーの口に加えた瓶に気付き、殴ろうとした手をとめ、ロッシーに掴みかかり、その身体を持ち上げ覗き込んだ。
「クハハハッハッハ、玉砕覚悟とは、ソウソウ思い通りにコトガ運ぶと……」
自爆行為を行うと踏んだチャンバーは、殴りかかった際に爆発するものだと思い、散々してやられたことをとうとうとめたと得意げに笑う。そのまま握り潰そうとするが、ロッシーが口の中の瓶を割り砕くほうが早かった。
「はっ――?」
強烈な閃光が走り、チャンバーの網膜を焼いていく。錬金薬:閃爆、強烈な音と光による目くらましである。事前に知らされていたトランスとリーゼは目を反らし、その強烈な閃光はチャンバーだけを襲った。
「ぐああぁあ! 目がぁ! 耳がァァアア」
あまりの強烈な閃光による目の痛みに、ロッシーを放り投げ目を抑えるチャンバー。ここぞとばかりにトランスは駆け寄り、暴れまわるチャンバーの足の周りを縫うように走り剣を振るう。
光と音を一時的に失ったチャンバーは、我武者羅に手や足を振るい暴れまわるが、時に拳は弾かれ、身体を爆発や雷撃が襲い。翻弄されていく。明らかに手ごたえを感じた時もあるが、何故かその攻撃の手が止むことはない。五感の一部を一時的に失ったことで、吹き飛ばそうが殴りつけようが執拗に襲い掛かってくる者に、恐怖すら感じ始めていた。
薄っすらと戻ってきた聴覚が捉える。硬質な金属が、引きずりながら寄ってくる音を。ぼんやりと戻ってきた視覚がその姿を捉える。淡い回復の光を帯びるものの、おびただしい血を流しながら幽鬼のように歩み寄ってくるその姿を。
脳裏に浮かぶのは疑問だった。何故動ける。何故怯えぬ。その背に少女を背負いながら、失うことが怖くないのか? 守るためと前に出るのならまだわかる。その弱みに付け込んで攻撃しようとすら思っていた。だが、少女もなぜ逃げぬ? 背にいようが痛くない訳がない。怖くない訳がない。男と一緒に吹き飛ばされ、殴られ、転ばされているのに関わらず、その瞳に曇りなどなかった。ただただ幽鬼のような男の双眸に、ゆらりと赤く敵意が揺らめき、少女の瞳には青く澄んだ輝きが揺らめく。なんなんだこいつは? いや、なんなんだ? こいつらは?
頭の中を疑問が支配していく。少しづつ重くなっていく身体、鈍くなっていく思考の中、チャンバーは行き着いた答えに弱弱しく呟く。あぁ、そうか……、これが――信頼。
「ウラヤマシイ……な……」
彼の呟きは誰にも聞こえることなく、その巨体が倒れ込む音にかき消されていた。




