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亡国の騎士  作者: 黒夢


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チャンバー戦

ユニーク1000突破しました! ありがとうございます!

重く湿った地下空間に、魔力無効化のチャフが濃密に立ち込めていた。異形の怪物へと変貌したチャンバーは、その巨躯に見合わぬ速度でリトスとロッシーを追い詰めていた。


その時、トランスの全身を覆う古びた鎧、特に節制の栄冠クラウンオブテンペランスが具現化した兜の窪みに装着された赤い宝石が、一瞬、激しい光を放った。それは、遠く離れた場所で、戦況を見守るサラが、自身の魔力を最大限に鼓舞し、トランスへと送り込んでいる証だった。


トランスは全身に漲るエネルギーを感じながら、静かに問いかける。


「これは? サラか?」


魔力蓄積マナチャージと魔力同調の連携。安定した魔力供給は、まるで乾いた大地に恵みの雨が降るようだった。


トランスは背中に感じる温かい重みに意識を集中させた。純白のマントに包まれ、ポンチョのようにトランスに寄り添うリーゼだ。


「リーゼ、いけるな……?」


トランスの問いかけに、リーゼは顔を上げ、力強く「うー!」と、言葉にならないながらも明確な肯定の音を発した。彼女の翠色の瞳には、疲労の色は薄れ、トランスへの絶対的な信頼と、戦意が宿っていた。怪我の影響はない。


トランスは、リーゼの小さな指が指し示す方向を視線で追った。上階へと昇る、崩れかけた階段。


その瞬間、トランスの脇腹に、ガラスの瓶が直撃した。


「――っ!」


反射的に身構えたトランスの全身に、瓶から零れた透明な液体が流れ落ちる。それは甘い柑橘系の香りを放っていた。


トランスは驚きに目を見開いたが、リトスが小さく口元を緩めるのが見えた。


「身体が、軽い?」


錬金薬アルケミックポーション加速ヘイスト。リトスが、反撃をするふりをして、アシストを行ったものだった。トランスの体躯を覆う重く古びた鎧が、まるで羽衣のように軽く感じられる。


「感謝する、リトス」


トランスは短く礼を述べると、迷いなくリーゼの指差す方向、上階へと駆け上がった。加速のポーションは、トランスの巨大な体躯に驚異的な運動性能を与えた。


***


リトスは、チャンバーの突進を辛うじて避けながら、その動きを誘導していた。


「クソが! 逃げるな!」


チャンバーは雄叫びを上げ、リトスとロッシーへ向かって剛腕を振り下ろす。


リトスは、チャンバーの動きが一瞬停止したのを見計らい、上階へ向かうように、瓶を放り投げた。中には、粘性の高い爆炎の錬金薬が満たされている。


その時、加速のポーションを得たトランスが、まるで巨大な弾丸のように上階から飛び降りて、リトスが投げた瓶の真下へと着地した。


トランスは、空中で回転する錬金薬の瓶を、背中のリーゼを庇うようにして、慈悲のマントの端で絡めとった。


チャンバーは、トランスの突然の乱入に、一瞬動きを止めた。その隙を逃さず、トランスは背中のリーゼに視線を送る。


「あーうーあぁー! <反転リフレクション>」



リーゼのトリガーワードにより、慈悲のマントが絡めとった錬金薬《爆炎》の爆発は、トランスの身体を通り抜け、チャンバーの巨体へと指向された。


***


凄まじい爆音が地下に響き渡り、火炎がチャンバーの右後脚の付け根を直撃した。


「グアアアアアアアアァァァッ!」


チャンバーの絶叫が空間を揺らす。爆炎のエネルギーは、マントの反転能力によって増幅され、その足の半分を肉片に変えていた。異形の怪物は、バランスを崩して大きくよろめく。


「トランスさん! 後ろだ!」


リトスの警告が響いた。たとえ片足を失っても、チャンバーの戦闘能力は衰えていない。


トランスは剣を構えるが、チャンバーは失った足の痛みと、トランスへの憎悪に顔を歪ませながら、巨大な剛腕を振るった。


「雑魚が! 我を傷つけるなど!」


トランスは、その一撃を剣で受け止めようとしたが、剛腕の圧倒的な質量と速度に、構えた剣ごと捕えられ、横へと弾き飛ばされた。古びた鎧が、壁の瓦礫に激しく叩きつけられる鈍い音が響く。


トランスは、胸部の大きな穴から流れ出る魔力の脈動を感じながら、痛みに耐えた。


後ろ足一本を失い、さらに深い怒りと飢餓を露わにしたチャンバーは、トランスに向けて口内に魔力を収束させ始めた。


しかし、口から噴き出したのは、炎ではなく、黒い煤と粘液だった。


チャンバーは激しくむせ込み、巨大な身体を震わせた。


「がはっ、ごほっ、ごほっ! おのれ! チャフの影響か!」


チャンバーは、自身の能力が制限されたことに苛立ち、怒りに任せて周囲を破壊し始めた。


その隙を見逃さず、ロッシーが、チャンバーの失った足の傷口へ向かって突進した。


しかし、ロッシーの突進は、蠅を落とすかのように、チャンバーの残った前足によって叩き落とされた。ロッシーは鈍い音を立てて地面に転がる。


チャンバーは、ロッシーを踏みつぶそうと、前足を大きく振り上げた。


その一瞬の隙。


トランスは、転がっていた身体を即座に起こし、胸部の痛みと魔物への恐怖を鋼の意志で押さえつけながら、剣をチャンバーの振り上げた前足の付け根、爆発で開いた傷口へと突き刺した。


衝撃インパクト


トランスは、短くトリガーワードを唱えた。獣王のベスティアファングが真紅に輝き、まるで森の主が突進を行ったかのような、強烈な衝撃波をチャンバーの体内へと送り込んだ。


「ギィィィヤアアアアアアアアアアアアア!」


チャンバーは、耐えがたい内側からの痛みに、それまでで最も激しい雄たけびを上げた。その衝撃は、トランスの腕にも強烈な反動として跳ね返り、魔力を激しく消費させたが、トランスは歯を食いしばって耐えた。


***


チャンバーが激しい痛みに身悶え、身体を硬直させている隙に、リトスは素早く動いた。


彼は、地面に倒れたロッシーに駆け寄り、回復薬を投げつけた。薬液はロッシーの傷を瞬時に癒し、ロッシーはかすかな嘶きを上げて、起き上がった。


チャンバーが身体を回転させ、トランスを弾き飛ばす。トランスは背中のリーゼを庇いながら、壁際へと吹き飛ばされた。


チャンバーの巨大な足が、ロッシーがいた場所を踏みつぶした。しかし、踏みつけられたのは、ロッシーではなく、リトスが事前に設置していた、粘性の液体の入ったガラス瓶だった。


リトスは、顔色一つ変えず、冷静に呟く。


錬金薬アルケミックポーション雷撃ライトニング


チャンバーが踏みつけた液体から、青白い激しい稲光が発生した。チャフの影響で、通常では魔法の雷撃は発動しない。しかし、これは錬金術によって化学的に生成された雷撃だった。


激しい稲光と雷撃が、チャンバーの身体を焦がす。異形の怪物は、身体から煙を上げ、さらに激しい苦痛の雄たけびを上げた。


「クソッタレが! クーゲルが残したこのクソな血統め! 」


チャンバーは、怒り、飢餓、そして痛みによって、完全に冷静さを欠いた。彼の目的は、もはや、目の前の障害を「殺すこと」に変わっていた。


チャンバーは、身体を回転させ、トランスを弾き飛ばすと、周囲の瓦礫を掴んだ。それは、建物の一部や、崩壊した地下通路の鉄骨の一部だった。


「このぉぉぉお! しねしねしねしねしねシネシネシネシネェ、ガアアアアアア!」


チャンバーは、自身の制御を完全に失い、リトスへと向けて、嵐のような投擲を開始した。瓦礫の嵐は、リトスの化学兵器による殲滅戦術を、物理的な暴力でねじ伏せようとする、純粋な狂気の表れだった。

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