表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国の騎士  作者: 黒夢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/142

因果な縁

重厚な扉をロッシーの頭部から発生した衝撃が吹き飛ばす。筋骨隆々となった老ロバが扉を吹き飛ばす光景を見て、外壁の門番は空いた口が塞がらない様子で立ちすくんでいた。そのあまりの衝撃に、サラ達を乗せた馬車の連結が外れ、宙に舞い上がった。


「ぎゃー、突入する前に死んじまうって!」


「私に任せてください! ……<ウィンドショックアブソーバー>!」


横倒しになりながら地面に追突する瞬間。サラの唱えた魔法が馬車を包み込み。その衝撃を抑え込みながら着地するが、馬車内から放り出されてしまった。


「どわぁ! っと痛くねぇ……」


軽装のトニーが軽やかに立ち上がる。彼は、辺境の狩人らしい素早い身のこなしで、すぐに背中のロングボウに手をかけた。


「魔法ってすごいですねぇ」


リトスは、無傷で済んだことに安堵しながらも、周囲の状況に顔を青くしていた。


「感心してる場合じゃねぇぞ。敵地のど真ん中に到着だぜ」


ベックは既に二本の短剣を構え、警戒態勢に入っていた。彼の深緑の瞳は、周囲の気配を的確に捉えている。


「うふふ……ロッシーさん止まってませんしね~」


「サラちゃんちょっと影響出てるぜ? って今ロッシー側にあるからか?」


トニーの指摘通り、サラの髪は淡いブロンドから鮮やかな緑色へと変貌しており、その口調は普段の理知的で丁寧なものから、自由で奔放なものへと変化していた。彼女の体質が、急激に使用した風の魔法の負荷と、「節制の栄冠」の魔力を蓄積する宝石がロッシー側にあり、魔力調整がまだ不安定な段階であるため、無意識に吸収した魔力の属性に影響を受けている証拠だった。


「そぉー見たいですねぇ~。あはは、敵さんもいっぱいきたよー」


人間の衣服を着た緑色の肌の小人――ゴブリン達が一斉に騒ぎ出す。彼らの数はざっと見積もっても三十体は下らない。


「商会って割に、魔物ばっかりなのはなんでだろうな?」


ベックがナイフを構えながら呟くと、トニーが軽口を返しながら弓を構える。


「いや~、ただ背が小さかったり肌の色が緑色なだけかもよ……?」


「ギャギャギャギャ!」


ゴブリン達は甲高く、不快な鳴き声を上げる。


「あは! 人間さんがこんな風に鳴くわけないでしょ~?」


サラは愉快そうに笑い、両手に風の魔力を集中させ始める。


「ちょっ、ちょっと、サラさんまでおかしくなってませんか? 大丈夫なんですかね?」


リトスは顔を蒼くしながら、白衣の中から試験管のようなものを取り出して、臨戦態勢へと移行した。彼の臆病な性格は変わらないが、娘と妻を守るという行動原理が、彼を辛うじて戦場に立たせていた。


「さっさと倒して、馬鹿二人を追いかけるぞ!」


ベックはトランスを乗せたロッシーが向かった先へ視線を送ると、愚痴るように言い放つのだった。


「このまま突貫するぞ!」


そのころ、トランスはロッシーとともに、広い庭を突っ切り、屋敷の入り口まで差し迫っていた。明らかに人間とは思えない巨体が、門番として両脇に構えている。財力を惜しみなく使ったフルプレートを着ており、ただでさえ脅威の魔物がさらに厄介になったのは言うまでもなかった。


しかし、目標を前にした一人と一匹は止まらない。愚かに、愚直に、自らの身を晒しながら足を止めることなく向かっていく。


「ブオオオオオ!」


「ブルオオオオオオ!」


オークファイター達は、その巨体に見合わぬ速度で突進の構えを見せる。トランスは兜の奥深くで、静かに呼吸を整えた。魔物に対する強烈な恐怖心は、彼の胸に空いた穴を突き刺すように痛む。だが、その恐怖を押し殺すように、彼は寡黙に己の責務を再確認する。


「……因果なものだな。だが、あの時と一緒と思うな」


鼻息荒く威嚇するそれは、辺境で対峙したオークファイターのそれだった。相手の装備が充実しているのは明らかだが、トランスは、彼が得たものも、それに劣っているとは微塵も思っていなかった。


オークファイターの片方は、戦斧を振り上げ、もう片方はフルスイングするような形で後ろに振りかぶる。臆することなく突撃する様子は、傍目からみれば、トランスとロッシーは自殺志願者にしか見えないだろう。事実、オークファイター達は、その兜の下で下卑た笑いを浮かべていた。


わき目も降らず突撃するロッシーに、ゴルフのスイングをするような一撃が襲い掛かる。オークファイターの渾身の一撃は、ロッシーの身体を両断するほどの破壊力を秘めていた。


先を越された斧を振りかぶったオークファイターは顔を顰めるが、次の瞬間スイングを仕切ったオークファイターが吹き飛ばされるかのように前のめりに倒れていくのを目撃する。


攻撃が加えられる瞬間、ロッシーはその筋力をさらに活性化させ飛び上がった。まるで魔獣の如き活力を得た老ロバは、驚異的な跳躍力で斧の軌道を回避したのだ。急激に上がったスピードを目に負えず見逃し、その後頭部を飛び上がったロッシーに、恩義の脛当てを装着した蹄で蹴り飛ばされたのだ。フルプレートの兜は、ロッシーの突進と蹴りの衝撃によって粉砕された。


「プギィィィィィ!」


「ブオオオオ!」


怒りに身を任せ、斧を振り上げていたオークファイターが雄たけびを上げながらロッシーに向かって斧を振り下ろす。空中では避けることもできないと思っていたオークファイターであったが、ロッシーの上に跨る騎士のことを頭から外していた。


「まともにあたるとまずいのでな。<衝撃インパクト>!」


トランスが斧の側面、刃と柄の接続部に剣を合わせると、尋常ではない衝撃が斧の一撃を反らす。それはまるで森の主の突進を凝縮したかのような一撃だった。あろうことか渾身の一撃は、倒れていたオークファイターの後頭部へと吸い込まれて行き、絶命させるに至った。オークファイターは、相棒を自らの斧で殺してしまったという事実に、一瞬の硬直を見せる。


「ブロロロロロロオオオオオオ!」


怒りのあまりオークファイターが咆哮する。トランスからしても意図していなかったため、完全なとばっちりである。


ロッシーの背に乗ったまま着地すると、鼻息荒くオークファイターが突進してくる。地面を抉るほどの脚力でロッシーが走り出すと、真横を通り過ぎるようにして交差する。戦斧を構えていた反対側を通り過ぎたため、ぐるりと回転するようにオークファイターは視線を巡らせ追いすがった。


「ヴォ?」


視線だけで追いつくと、その背に忌々しい騎士が乗っていないことに気付く。先ほどの二の舞にはなるまいとロッシーを視線から放すと、威風堂々と構えるトランスが目の前に剣を構えている。


「ヴ、ブオオオオ!」


舐め腐った態度に怒り心頭といった様子で斧をがむしゃらに振り回すが、じりじりと後退しぎりぎりの間合いから近づかないトランスに、更に怒りが募っていく。


「俺ばかり見ていると、怪我をするぞ?……<衝撃インパクト!>」


トランスが呟くとほぼ同時に、オークファイターの背中にありえない程の衝撃が襲いかかった。それは、再びオークファイターの背後へと回り込んだロッシーの渾身の体当たりだった。トランスのトリガーワードに呼応するように、ロッシーは、その突進力を最大限まで高めたのだ。


轟音と共にフルプレートの背甲が軋み、オークファイターはそのまま前のめりに倒れ込む。その顔の位置はちょうどトランスが立っている位置であり、トランスは一切の躊躇なく、真紅に輝く剣を振り下ろした。


「装備が良くても中身が伴わなくてはな」


冷徹な断定の言葉と共に、兜の隙間に真紅の剣が差し込まれ、オークファイターの頭に上り切った血は、地面へと流れ冷えていった。


トランスは、全身から力が抜けたように、深く息を吐いた。魔物に対する恐怖は、戦闘中も彼の全身を支配していたが、ロッシーとの連携、そして何よりも「守る」という強い衝動が、彼を動かし続けたのだ。


彼は、再び駆け寄ってきたロッシーの首筋を、古びた手甲で軽く叩いた。言葉は交わされなかったが、二人の間には確かな戦友の絆が流れていた。


「……完了した。先へ進むぞ」


トランスは振り返りもせず、屋敷の入り口へと歩みを進める。彼の背後では、オークファイター二体の巨体が、冷たい石畳の上に横たわっていた。


一方、門の外の庭園では、ゴブリンとの戦闘が始まっていた。


「あはは! 風の加護を貴方たちにもあげましょう!」


サラは、緑に染まった髪を風になびかせながら、楽しげに笑っていた。彼女は、風属性に豹変しており、その性格は極端に自由で奔放なものとなっていた。彼女の魔力は、トランスの「節制の栄冠」によって制御され、暴走することはないものの、属性の反動による人格変化は免れない。


巨大な風の塊が、ゴブリンたちの群れの中心で炸裂する。


「ギャギィィィ!」


風魔法の衝撃はゴブリンたちを宙に舞い上がらせ、壁や木々に叩きつけ、数体を一瞬で戦闘不能にした。


「嬢ちゃん、遊びすぎだぜ! こっちは真面目にやってんだ!」


ベックが叫ぶ。彼は、ゴブリンの群れの隙間を縫うように、驚異的な機動性で駆け抜けていた。彼の短剣は、ゴブリンの喉元や関節を正確に捉え、一瞬で息の根を止めていく。彼は、まるで影のように動き、最小限の動きで最大の効果を上げていた。


「へへ、こんな雑魚どもに手間はかけられねぇ!」


トニーは、木々の陰に潜み、高速で矢を放ち続けていた。彼の矢は、正確無比であり、サラの風魔法で混乱したゴブリンの頭部を次々と打ち抜いていく。


「……ええと、これでどうだ!」


リトスは、試験管をゴブリンたちに向けて投げつけていた。彼が取り出したのは、強力な睡眠効果を持つ錬金薬だった。数体のゴブリンが泡を吹いて倒れる。彼は戦闘の才能がないと強く思い込んでいるが、彼の錬金薬は、この状況で思わぬ効果を発揮していた。


「リトスの旦那、なかなかやるじゃん!」


トニーは笑いながら、新たな矢を番える。


「巻き込まれたらたまったもんじゃねぇ……だが、悪くねえ」


ベックは舌打ちしながらも、トランスが開けた突破口へと視線を向けた。彼らの目的は、トランスとロッシーを援護し、この城砦内部へと進むことだ。


「さあさあ、どんどん行こー!」


サラは陽気に言い放ち、風の魔力を纏ったまま、トランスが突き破った門へと向かって走り出した。彼女の背後で、残ったゴブリンたちは、ベックとトニーの冷徹な狩りの対象となっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ