声なき声
彼からもらったマントを、抱きしめるようにして走った。まともに食事をとってこなかった身体は重く、ところどころでつまづきながらも必死に走る。気づけば、涸れたと思っていた涙が頬を伝っていた。
登録には銅貨が3枚必要だ。登録しなければ依頼を受けることはできない。なら、冒険者に頼めばいいというのは、受付のお姉さんがなんとなく教えてくれた。だから頼んだ。顔をしかめながら受け取る人、笑いながら飄々と受け取る人といた。だが決まって渡されたのは、依頼額に満たない端金だった。表情に出てしまった時は、殴られたり、お金事態もらえないこともあった。それからは黙って受け取ることにした。
いつしか、食事さえとれればいいと諦めに似た感情が頭を支配していた。そんなときだ。換金をしてくれそうな人を探していた時、窓口に見慣れない人物が現れた。ボロボロの鎧を着た男の人だった。最初は打算だったんだ。いつものように薬草を渡すと、受付のお姉さんが鉄貨5枚にも満たない量を銅貨1枚と言って手渡した。気遣ってくれたんだな、でもどうせ……とぼぅっとしてると。
思っていたよりもずっと優しい手付きで手を開かれ、何故か手の平には3枚の銅貨が握らされていた。驚きのあまり手のひらの銅貨を見つめていると、鎧の人は行ってしまった。これで、登録できるのだろうか、もう嫌な思いをせずに済むのだろうかと考えていると、受付から声が聞こえて来た。
「ねぇねぇ、サラちゃん、さっきのってさ、やっぱりあれかな?」
「あれってなんでしょうか?」
「ほら、どっかで国が滅んだって噂、ちらほら聞くじゃない?」
「あー、そういえば聞いたことありますね」
「なんか目もやばそうだったしさ。死に場所でも探してたりして」
「あんまり物騒なこと言わないでくださいよー」
「あはは、ごめーん」
その話を聞いた時、自分の鼓動がドクンっと高鳴った。帰る場所がないの? 自分も一緒なのに? それなのに助けてくれた? そして……死に場所を探してる……?
気づけばいつの間にか駆けだして、彼を追っていた。いなくなって欲しくなくて、ただただもう一度会いたくて、走っていたんだ。焚火の傍で震える彼を見つけた時、思わずマントを握って寄り添ってしまった。起きることはなかったけど、すごく暖かくて、いつの間にか震えが止まった彼に安心した。
今もそう、いなくなって欲しくない。もう一度会いたい。そう思いながらも、今度は街に向かって走っている。今は遠ざかることが彼に近づくことであると信じて。小さな体がもどかしい、遅い足が憎らしい。こんな気持ち初めてだった。声に鳴らない声を上げながら走った。
「あ゛……あ゛ぁ……」
声が出ないのにどう伝えたらいいのかなんてわからない。ただ、あの人を助けたいんだ。もう一度会って、ありがとうって伝えたいんだ。転んでも転んでも立ち上がった。不思議と彼からもらったマントが暖かい。まるで力を貸してくれているかのようだ。やっと見えてきた冒険者ギルトの扉に飛び込んで、私は叫んだ。
「だ……ず……げ……て!」
鉄貨<銅貨<銀貨<金貨です
鉄貨10枚で銅貨1枚以後同じような感じ。
貨幣設定は面倒なので適当です。