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亡国の騎士  作者: 黒夢
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交戦する鎧

 ゴブリン達が一斉に走り出した。逃げた子供を追うつもりなんだろう。トランスは恐怖に震える身体に鞭を打って、ゴブリンの一体に向かって走り出す。


「おぉおおおおおおおおおおおおお!」

「グギャ?!」


 トランスは大声を出し自分を鼓舞しながら、ゴブリンの一体に肩から体当たりを仕掛けた。いくらボロボロとはいえ、全身を包むこの鎧は鉄の塊であり、全力でぶちかませば凶器となる。切りつけようとしたゴブリンの剣は鎧の肩口で弾かれ、トランスの体当たりをまともに受け止めると、情けない声を出して押しつぶされた。


「うああああああ、死ね、死ねぇぇ!」

「ガッ、ガァァァ!」


 すかさず折れた剣で、無茶苦茶に顔面を斬るというより叩き伏せる。ピクピクと痙攣しながら、一体のゴブリンはこと切れる。


「はっ……はぁ……」

「ギャギャギャ!」

「ギャギャ!」


 ゴブリン達は脅威と捉えたのか、追うのをやめて旋回するようにトランスの様子を窺う。冒険者の足をかじりながら観戦していたオークは、つまらなそうに顎でゴブリン達に攻撃するように指示した。


 トランスはゴブリンが使っていた剣を左手に拾うと、半身になって構えた。さっきのような戦法はもう使えない。相手が勝利の後で油断していたうえに、標的が自分でなく、ある程度の距離が離れていたから出来たにすぎない。全力の特攻はなけなしの体力を削り、今だ3対1と状況は悪い。この鎧の()()()()()をもってしてもこれだった。体当たりを外して馬乗りにでもされたら終わりだ。


 トランスはとにかく時間を稼ぐことにした。幸い防御力だけはある。オークも暇つぶしなのか、手を出すつもりはないようだ。もっとも、動き出されたら終わる。あの鎖帷子に剣が通るとも思えない。オークを必ず視界内に捉え、油断なくゴブリン達の動きを目で追った。


 明らかにゴブリン達の動きは、戦い慣れているものだった。片方が仕掛け、そちらに気を取られていると、死角から剣がふられる。その小さな体躯からは想像もつかないほどの力で振られた剣は、鎧の横合いを叩きつけてくる。すぐに剣を振るって応戦するも、その低身長を生かし、するりと避けていってしまう。


「ギギッ」

「ギギギィ!」


 忌々しそうに睨みつけてくるゴブリンからは、鎧の防御力に苛ついているようだった。しかし、トランスは生きた心地がしない。全身鎧だから生きているものの、生身であれば何度殺されたかわかったものではない。しかも、間髪入れずに仕掛けてくるゴブリン達の攻撃は、裂傷さえ身体にもたらさないものの、振動となり鎧の内部に伝わり、体力を削り続ける。呼吸は荒くなり、腕も軋む。だからといって剣を振るわなければ、ゴブリン達は、鎧の隙間を狙うかのような動きを見せ始めている。


 助けが来るかわからない。あの子供も知らせずに逃げたかもしれない。知らせたところで見捨てられるかもしれない。だが、わかることがある。自分がここで粘れば粘る程、誰かが助かる可能性が増える。ならば今度こそ、死ぬその瞬間まで騎士であろうと、トランスは剣を振り続けた。

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