銀級冒険者 ベック 1
ベック視点です
初めて会った時の印象は、正直良くはなかった。何故か背中に子供を背負ってはいるが、ボロボロの鎧から、逃亡騎士なのだろうと思ったからだ。まずこんな辺境に騎士がいること自体おかしい。
騎士はその身を捧げ、退くことは許されない。仕えた主君が滅びるときは、共に亡びるべきだからだ。命欲しさに逃げ出し、生き延びた騎士を、侮蔑を込めた蔑称として、逃亡騎士と呼ぶ。
「よぉ、立派な鎧だな。俺はベック。よろしくな。騎士さん」
「トランスだ。道中よろしく頼む」
敢えて鎧を指摘し、騎士を強調したが、何の感情のゆらぎも感じなかった。それがなんだか余計感に触り、俺は名前で呼ぶことをしなかった。
「すごく良い人ですよ。リーゼちゃんが懐くのもわかります」
「ありゃ、お人好しすぎるだろ。有り金全部渡してたみたいだぜ。自分が死にそうな顔しておきながらよ」
色々教えて欲しいと頼まれ話す内に、サラとトニーとはすぐに打ち解けた。それとなく騎士のことを聞くと、どうやら相当なお人好しらしい。孤児で誰にも相手にされなかった子供に、有り金をほぼ全部渡して、薬草なんて集めていたと聞いた。
「うー」
「俺は大丈夫だ。お前だけでも荷台に行ってもいいぞ?」
「あー!」
「そうか、ならいい」
なんであれで意思疎通できるのかと、馬車に付き添い歩く騎士を見る。どうせ自己満足で助けただけだろうと、目の前の、無邪気に笑う子供から目を反らした。
道中何度か魔物からの襲撃を受ける。俺からすればゴブリンなんて楽勝だか、今は臨時とはいえパーティーだ。一人で突っ込んだりせず、銀級である自分が指示を請け負った。
「騎士さんの鎧ならたいして痛手は受けないだろ。牽制頼むぜ」
「承知した」
ふと、カタカタと金属がぶつかりあう音が聞こえる。おいおぃ、震えてやがる。大丈夫かこいつはと、呆れていると、背負ったままの子供がマントから顔を出した。
「あー、あー」
「すまない、大丈夫だ」
背の子供が兜を、ぺしぺしと叩くと震えが止まったのだ。文句や嫌みの一言でも言おうと思ったが、そのやりとりに毒気を抜かれてしまった。戦闘時には、魔物らしい魔物の相手は避けてやろうと思った。ガキがお守りをさせられちゃかわいそうだからな。
野営時、初めて兜を取ったところを見たが、思ったよりも若いなと思った。だが、その眼に折れた者特有の色を見た。不覚にも目があってしまったが、何事もないふりをして目を反らした。交代で不寝番を行ったが、あいつは横になる様子はない。木に寄りかかって座り、いつでも剣を抜ける状態にしている。そういえば、用を足しに行くところも見たことがない。不審に思い、なんとなしに声をかけてみた。
「どうした、寝られないのかよ? ってか小便とかどうしてんだ?」
「訳ありでな、いつものことだ。気にするな」
「そうはいってもな、俺からすればお前の方を警戒しちまうんだけどな」
「すまない。訳ありなんだ。こればかりは信じてもらうしかない」
「ちっ、まぁいいや……」
ついに朝まで寝ることもなく、用を足しに行くこともなかった。あとから聞けば、装備の効果だったらしいが、その時は、気になって熟睡することができなかった。あいつは、時々、震える手を抑え込むように呻く。不幸自慢でもするものなら、嫌いになれたのにな。ひどくあいつに拘る自分が、ちっぽけな気がしてしまった。
ツンツンベックさん