森の異変1
急に押し黙ってしまったアーシャを怪訝に思いつつも、トランスは詳しく話を聞こうと話しかける。
「嫌なことを聞くのはわかっているが、森で何があったか話せるか?」
「えっ……、あ、あぁ、大丈夫だよ」
「そうか、辛いことは端おってかまわない。頼む」
力強く、しかし、気遣うような優しい声色にしばし耳を奪われながらも、アーシャはぽつぽつと森での出来事を話し始めた。
アーシャはいつものように、森の薬草や木の実などを集めに出かけて行った。大猪であるウリとは、小さい頃から出会い、森で過ごす時はいつも一緒に過ごしていたらしい。どんどん大きくなったウリは、ゴブリン程度であれば体当たりで倒してしまえるほど強く、一緒であれば安全に過ごすことが出来ていたそうだ。しかし、いつものように森に出ると、何故かウリが見当たらず、何かあったのかと不安に思って探していると、ゴブリンの群れに見つかったらしい。
走って逃げたものの、途中で今度はオークと出会ってしまい。足を折られて逃げられなくなってしまった。あわや犯されそうになったが、ウリがどこかともなく現れ、ゴブリンを蹴散らし、オークに体当たりを喰らわせ、アーシャを担いで逃げかえってきたようだった。
「この子がいなかったら今頃わたしは……」
「きゅう、きゅうぅうぅ」
アーシャがウリを撫でると、嬉しそうに声を震わせてウリが擦り寄っている。ベックが疑問を呈する。
「だが確か、森には主がいて、魔物はある程度駆逐されていたよな? たまに出ることはあったが、単体でいる程度で、ゴブリンの群れやオークなんてよっぽどでないとでなかったと思うが」
「この子は、森の主様の子なの。でも、すぐに会えなかったり、助けてくれた時すでにボロボロだったから、もしかして何かあったのかも……」
「うーうー、あーうー」
「きゅきゅ、きゅうぅうぅ」
リーゼがウリのほうに手を伸ばしたので、トランスが身体を近づけると、まるで会話をしているかのようにうなづきあっている。
「どうした?」
「あーあー」
ウリはくるりと踵と返すと、顎でしゃくるようについてくるように促す。
「ついてこいってか? どうするベックさん?」
「追いかけてきている可能性もあるからな。日が暮れる前に様子を見に行ってみるか? 二人もそれでいいか?」
「いいだろう」
「賛成です!」
一行は、ウリの後ろを並んでついていくことにした。アーシャが心配そうに声をかける。
「あ、あの……。気を付けて!」
それぞれが頷くと、ウリを先頭に、その姿は森の中へと消えていった。