グリフォンの長と不屈の騎士
PCが壊れて執筆できていませんでした。遅ればせながら投稿します。
「小僧、遅れるなよ」
「……善処する」
白き鎧と、鈍鉄の鎧が並走するように駆け抜ける。訓練をし始めてから呼び始めた、未熟者へと向けた呼び名がトランスの気を引き締めた。ハーピーの群れを剣や槍で払いのけながら、岸壁へと少しづつ近づいていく。その先には、他の個体よりも明らかに大きいグリフォンが、二人を睨み付けていた。
「キエエエエエエエエエエ!」
「なんだ!」
「ちっ、こっちへこい」
大柄なグリフォンの声が響き渡ると、先ほどよりも統制の取れた動きとなったハーピーとグリフォンが、二人の背中に回ろうと動き出す。それを察したガウディは、トランスのマントを力任せにひっぱると、死角のないように背中を合わせた。
「ぬ、お……、おおおぉぉぉぉ!」
「小賢しい……真似を!」
まるで餌に群がるかのように、周囲にいた敵が一斉に襲い掛かる。周囲から見れば、そこに急にドームが出来たかのように見えただろう。これでもナーシスの周囲にいる敵の密度は変わらないのだから、敵の数の多さが窺える。
トランスは視界一杯になった敵の群れに、必死に剣を振り続けるしかない。敵の群れしか見えない視界の不安を払拭するかのように叫び、剣を振る。ガウディは目を守りつつ、槍で的確に敵を貫いていく。時折混じるグリフォンの重い一撃を、お互いの背で支えるようにして凌ぎ続けた。
いつまで続くのか、そんな不安が頭をよぎるなか、不意に攻撃の手がやみ、敵との距離が空く。安堵すら感じ、気の抜きそうになったトランスに、ガウディの警戒の声が意識を覚醒させた。
「気を抜くでない! 足場を死体で取られた! 次が来るぞ!」
「ちぃっ!」
ハーピー達が取り囲んだまま、剣と槍の間合い外を回転するようにして羽ばたき、魔力を収束する。何かに気づいたガウディは、頭を抱えるようにして身を丸めた。
「耳を塞げ! スクリームがくるぞ!」
慌てて兜の上から同じようして身を竦める。その瞬間、戦場に、声にならない声が響き渡り、周囲を無音が支配した。
「ぐはっ……!」
「なんだ……これは……」
まるで全身を殴打されたかのような衝撃が身体中を突き抜ける。ガウディは吐血し、トランスは吐血こそなかったものの、全身に苦痛が走り、まるで酩酊したかのように視界が揺らぐ。音、それは爪や牙を通さず、二人を守り抜いていた鎧を、まるでなかったかのように貫いた。
魔力を大量に消費し、ドーム型に旋回していたハーピー達はいくらかは気絶するように倒れ、散開し散っていく。倒れたハーピーと、離れたハーピー達が割れるようにして出来た道を、まるで自らに捧げられた供物を受け取るかのように、大柄なグリフォンが、悠々と歩く。
トランスは焦る。回復を、と頭に命令するものの、身体が動こうとしない。スクリームによって乱された魔力は、意思を汲むことなく動き出さない。歪む視界の中、グリフォンから視線を反らさないものの、手は剣を握りしめることしか出来ない。その視界に、鈍鉄がのそりと立ち上がる姿は入った。
「ごふっ……。鎧を無視とは、ずいぶんと騎士泣かせな魔物だ。我らのほうを脅威とみなし、リスクを顧みぬ手段に出たところを見ても、ただのグリフォンとは思えんな……」
信じられなかった。自分自身が着ているのは、だれからも言われるように特殊な鎧であることは間違いないだろう。訓練でも散々言われた通り、ダメージを恐れる必要がないようなレベルの代物であり、多少のダメージも治癒魔法で回復できる。そのアドバンテージをもっていながら、膝をついている自分がいるのに、目の前に立つは傷だらけの鉄の鎧を着た老兵。やっと立ち上がったというのがわかるほど、槍を地面につけて無理やり立っている。だが、その立ち姿は微塵もそうは感じさせなかった。勝敗は決したといった雰囲気であったグリフォンですら、信じられないような視線を向け、後ずさる。
「我が名はガウディ、不屈を冠する王都の一槍也。獣風情にやる命は……ない……」
「キ……キエエェェェェ!」
ドンっと、地面が爆発するかのようにして蹴り上げられ、鋭い嘴を向けるグリフォン。次の瞬間に吹き飛ぶのは老兵……とはならず、槍を滑らせるようにしてその攻撃をいなした。
「キエ? ギィアアアア!」
まるで風を切ったかのように感覚に、一瞬惚けながらも、爪や嘴の攻撃を次々といなしていく。憤怒から焦りへと変わりつつグリフォンが目を向けたのは、もう一人の白い鎧だった。まるで活路を得たかのようにトランスへと飛びかかるグリフォンの耳に、ぞっとするような低い声が、まるで耳元で囁いたかのように響いた。
「――それは悪手だ」
グリフォンの背に、ガウディの投げた槍が突き刺さり、勢いの落ちたグリフォンの頭に、赤い刃が振り下ろされた。
「衝撃≪インパクト≫!」
「最近の若いもんは休んでばかりでだらしがない……とでも言えばいいか?」
「勘弁してくれ。そんなに元気な年寄りと比較されたら体がもたない」
ガウディが稼いだ時間に回復を終えたトランス。ガウディの、ぼろぼろの体を何でもないように出た軽口に、苦笑を浮かべながら言葉を返した。
ガウディのトランスへの呼称の変化は、関係の変化を表しています。