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亡国の騎士  作者: 黒夢
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老騎士の特訓

 冒険者で雇うという条件を守ったのか、各自に部屋が割り当てられたものの、会食などに呼ばれることはなく、食事は各部屋に届けられた。サラは賢者に修行の続きをどうするかを確認したものの、そのままトランスについていくようにと念話で指示を出したようだ。宿についてはなぜか賢者が使うというのでそのままにしておく。


 翌朝の早朝、トランスの部屋に一人の騎士が訪れる。


「起きているか、ガウディだ」

「ん? あぁ、何の用だ?」


 起きているというより、寝ていなかったトランスであるが、意外な訪問者に少し反応が遅れるものの、招き入れる。老騎士と聞いていたが、目の前にすると感じる覇気に、ピリピリと背筋に電気が走るかのようだった。


「練兵場に行くぞ。お主の実力では些か不安だ」


 有無を言わさぬ圧力に、トランスは何も言い返せず、黙って後ろを付いていくしかなかった。


 日がやっと登ろうかという時間。練兵場に立つのは白き鎧の騎士と傷だらけの鎧の騎士。異様な静けさが場を支配する。ただ対面しているだけだというのに、肌を刺すようなプレッシャーがトランスを襲う。


「これを使え。その姿では恰好がつかんだろう」


 古ぼけてはいるが、しっかりとしたマントをガウディが放る。それを受け取ると、トランスは無言で羽織り、剣を構えた。


「行くぞ」

「あぁ」


 二人は多くを語らない。トランスが斬りかかるが、ガウディの槍はたやすくそれを受け流す。斬っているのに斬っている感覚すらない。まるで水や風を斬らされいるのではないかというほど巧みに受け流されていく。


「ただ力だけで剣を振るうな。ただ強いだけの力は容易く受け流される」


 鉄と鉄が擦れ合う音が響く。リーゼはサラの所で休んでいたため今はいない。妙に背中が軽く。寂しささえトランスは感じていた。


「守るものがなければ力が発揮できないと? そんな体たらくでは何も守ることはできんぞ。」

「ぐっ……」


 トランスが上段から振り下ろした剣を、更に上から叩きつけるようにして地面に叩きつける。そのまま槍先を地面に突き刺すようにすると、棒高跳びのように飛び上がると、トランスの後ろに回り込み石突で背中を叩いた。元より前へと重心を持っていかれていたトランスはそのまま前へと倒れ伏す。


「背中への警戒が薄すぎる。立て。若輩者に稽古をつけてやろう。ゆらゆらふらふらと揺れるその軟弱な精神を、叩き直す」


 不屈と称される騎士の眼光が、地に伏したトランスを射抜く。まるでそれは、魂までも射抜かれているようで、トランスは寒気さえ覚えた。


「あれ? いないのかな?」

「あぅ~?」


 朝日が差し、今日はどうするかを訊ねに、サラがトランスを訪れる。ノックしても現れないことに首を傾げていると、ベルクが後からやってきて声をかける。


「おぅ、トランスさんならガウディと一緒にいたぜ」

「えっ? ガウディさんってあの槍の?」

「あぁ、朝から訓練だとよ」

「あっぅ」

「はは、心配すんなよ。あの人なら大丈夫だ。無茶はしないはずだ」


 ベルクは自信ありげに、心配そうにしているリーゼに話かける。練兵場につくと、サラとリーゼがベルクへと視線を向けた。


「いや……無茶は……してない……はず」


 練兵場につくと、床に這いつくばるトランスを、見下ろすようにしてガウディが立っている。


「はず……なんですよね?」

「あーう?」

「……はず」


 途端に自信がなさそうに縮こまるベルク。呆然としていると、ガウディの視線がサラ達を捉えた。


「……連れが来たようだ。今回はここまでにしておいてやろう。これから早朝、同じ時間に訓練をしてやる。お前にその気があれば……だがな……」

「……助かるが。なぜ」

「いっただろう。背中を預けるかもしれないのだ。それなりの腕になっていてもらわなければ困る」


 トランスがどうにか顔を上げ答えると、ガウディは言うことを言うと、後ろを向いて去って行ってしまった。


 それからというものの、早朝はガウディとの特訓。サラは近くで魔法の特訓を繰り返す日々が続いた。ベルクはリーゼと一緒に、その特訓を眺めるというある意味平和な日々であった。

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