謁見の間の攻防2
時間を作って書くことができました。一度に書かないと流れというか勢いがでないんですよね。でも、ちょっとづつ時間を見つけて書いて繋げていくしかなさそうです。
剣と剣がぶつかり合うが、初手の斬り合いとは打って変わり、打ち合う音に鋭さが欠ける。その原因は、トランスが怪訝に思う程撫でるように斬りかかるナーシスの太刀筋だった。その代わりと言わんばかりに、口撃がトランスとリーゼを襲う。
「子連れ騎士って何を狙ってやってんの? 女性受けとか? 哀れんでもらおうなんてせっこいやつだなぁ。あっ、それともそれぐらいの子が好きなの? 変態かな? あっ、でもこのまま成長したら美人にはなりそうだよねぇ。そうだ、それより、隣に侍らせてる女の子の名前教えてよ。いいこと思いついた。二人とも僕がもらってあげるから、ここはひいてよ」
「……おしゃべりなやつだ」
軽い剣に軽い口、あまり感情を前に出さないトランスだが、勝手な物言いに自然と剣を握る手に力が入る。軽いとはいえ、鉄と鉄が打ち合う音は、ナーシスの口撃の大半を周囲には聞こえぬよう打ち消していた。
「だんまりってことは認めてるのかな? 手をつけちゃってたとしても気にしないでいいよ。なんたって僕は博愛の称号を持つ騎士だからね。どんな女性だって分け隔てなく愛するつもりさ。いや、僕が愛されるんだけどさ。きっと君みたいな堅物なんかより僕のほうがいいと思う。子供の生活が心配なら無用さ。僕は稼ぎがいいからね。美しく育つまできちんと養ってあげる。そこの子は魔法使いでしょ? 危ない冒険なんてしなくていいように計らうよ。安全な家で何不自由なく過ごせるように手配してあげよう」
勝手な物言いに受けに徹していたトランスの剣が、徐々にナーシスに向かって振るわれ始める。激しくなっていく剣と剣の打ち合い。しかし、ナーシスは怯むことなく涼しい顔で剣をいなす。鍔迫り合いに持ち込まれ、兜同士が触れるのではないかというほど近づくと、これまでの罵倒が嘘のように凪いだ声となり、するりとトランスの耳へと運ばれていく。
「っと、言いすぎたね。ごめんよ。試すようなことを言って悪かった。君の彼女達への想いは本物のようだ。今までのはさ、そうゆうやっかみもあったんじゃないかなって。僕の想像さ。聞けば君は、記憶もなく不安なまま過ごしてきたそうじゃないか。そんな中子供を面倒見ながら大変だったね。でも安心するといい。背中の子も彼女のことが心配なんだろう。君は君の事だけを考えていればいいんだ。博愛の名のもとに誓おう。後は僕に任せてくれ」
何を言っているんだ、という怒りに近い感情がトランスを襲うと同時に、ぞわりと纏わりつくようにしてナーシスの言葉が身体中を駆け巡る。怒りが強制的に鎮まり、腕に入っていた力が自然と抜けていく。罵倒のような言葉を浴びせ、今の今まで斬り結んでいた相手に、全てを委ねていいような幼馴染の親友のような想いを――
「あぅ!」
「ぬっ!?」
「え?」
リーゼが思い切りトランスの兜を小さな両掌で挟むようにして叩く。その衝撃にハッとしたようにしてトランスは飛び退き、動揺から剣を取り落とす。気づけばナーシスの左手にもった短剣が、トランスの胸部である鎧の穴に、そっっと添えられていたのだ。避けられるとは思わなかったのか、ナーシスの気の抜けた声を最後に、斬り合いは終わりを迎えた――ように思えた。
「しぃっ!」
ナーシスの刺突が、動揺から復帰しきれていないトランスに襲いかかる。初手の刺突、それよりもさらに鋭い刺突に、トランスは反応が出来ない。
「あうーあー!<反転>」
すかさずリーゼが刺突を跳ね返すが、それすら織り込み済みといった動きで、反動を利用した回転を加え、トランスの顎にアッパーをしかけるようにして、兜の隙間目掛けて短剣が滑り込む。明らかに殺意の含んだその一撃。連続使用できない反転も間に合わない。
「ぎゃぁぁぁぁあ!」
謁見の間に最期に響き渡ったのは、槍に貫かれた左腕を押さえるナーシスの姿だった。
「が、ガウディ……! きっさまぁぁあ! 僕の、僕の腕になんてことをぉぉぉ!」
槍に腕を縫い付けられたようにするナーシスに、何事もなかったかのように歩み寄るガウディ、立ち位置から全く動かずに、投げ槍で腕を狙いうったことに、トランスは驚きを隠せなかった。
「止めるといっただろう。トランス殿といったか?」
「あっ、あぁ」
「治癒魔法が使えると聞いた。いい機会だから見せるといい」
「ぐっあああああ。血が、血がぁぁぁ!」
躊躇なく槍を引き抜くガウディ、ナーシスは貫かれた腕からドクドクと血を流し、半狂乱になっている。その様子にトランスは戸惑いながらも、言われた通りに傷を治すことにした。
「治癒魔法」
「おぉ、これは……」
血痕はのこるものの、みるみるうちに塞がった傷に、周囲から感嘆の声が響く。ナーシスは慈しむように自らの腕を抱きしめるようにすると、さっさっと場を離れてしまった。
「よし、実力はちょっと不満が残るが、これだけの治癒が出来て自衛もある程度出来るなら合格だろう。騎士団への加入を――」
「ちょっと待ってくれ」
王の発言を遮るという不敬に不敬を重ねるトランスに、ベルクとサラは真っ青になるが、気にせず言葉を続けるトランス。
「俺は誰にも仕えない。冒険者として雇ってくれ」
不遜にも聞こえるその言葉に、宰相は真っ赤になり怒鳴り、王の笑い声を更に引き出した。