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亡国の騎士  作者: 黒夢
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謁見の間の攻防

遅くなりましたが更新です。今月にはいってから天気がはっきりしませんね。

片頭痛持ちにはつらい毎日です。

 両脇に控えた騎士により、重々しく扉が開かれる。不屈と博愛といきなり言われて混乱したが、ベルクが耳打ちでトランスに伝える。


「この国に仕える騎士団長の二つ名だぜ。トランスさん。それぞれその名前に由来する魔法や技能を有してる」


 それにしても博愛か……。とベルクが渋い顔をして呟いたが、薄暗い廊下から、明るい謁見室の光に真っ白に視界が奪われ、その言葉は誰の耳にも入ることはなかった。


 先導した騎士に従い前に進み出ると、若干見上げなければいけないところに、豪華な玉座に頬杖をついた王と思われる()()()が鎮座していた。


 トランスは若干首を傾げ、『豚の餌になりたくない』という、言葉とともに、賢者の顔が脳裏に浮かんだ。視線を滑らせると、玉座の横に肥満を通り越した図体をした男が、見下すような視線をトランスに向けている。


「控えろ」


 何故か王でなく、横にいた男が前に出ると、冷ややかな声で言葉を投げかける。ベルクとサラは即座に床に片膝をつき頭を下げるが、トランスだけは微動だにせず立ち尽くしていた。その光景に一瞬静寂が支配するが、次の瞬間ざわざわと喧騒が支配し、怒鳴り声が響き渡った。


「貴様! 無礼だぞ!」

「お、おい。トランスさん、何やってんだよ!」

「トランスさん、不味いですよ! リーゼちゃんも何とかしてくださいよ!」

「あぅ?」

「き、きさまらー!」


 ベルクが縋りつくように足を引っ張るが微動だにせず、みかねたサラがリーゼにも助力を乞いマントを引っ張るが、何が問題なのかわからないと言った表情でキョトンとしている。その光景が余計馬鹿にしているように見えるのか、肥えた男は顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいた。


「なん……だ?」


 トランスは混乱していた。頭ではわかっているが、身体が動かないという奇妙な感覚に弁解を発する余裕すらない。静まるばかりかボルテージの上がっている場を鎮めたのは、現状の場にそぐわぬほど若い男の声だった。


「あっはっはっは! ダンツよ。これで振られるのは二回目だな」

「なっ!? 王よ。笑いごとではありませんぞ! 冒険者といえどたかが銅級! 無礼にも程がある!  

 お前たちもなぜあのような無礼を……。なぜ制しているのです!」


 今まで玉座に頬杖をつき、静観を決め込んでいた若き王の笑い声が、謁見の間に響き静寂が支配する。前に進み出ようとしていた、後方に控えていた騎士二人を手で制しており、威厳すら感じる声でトランスへと告げた。


「仕えてもおらぬものに下げる頭はないか、宰相ダンツの大声にもひるまないとはな。どこぞの騎士だったかなどは問わん。お前のことが気に入ったぞ。だが、それだけで納得しないものもいよう。トランスといったか、抜剣を許可する。ナーシス、命令だ。剣を交えよ。ガウディ……見極めよ」

「やっとかー。待ちくたびれたよ。正直男に興味はないけど、そこの女の子には興味があるなぁ。これが終わったらデートしてくれないかな?」

「……ナーシス。真面目にやれ。危なかったら止めてやる」

「はっ、ガウディの出番なんてないよ。まっ、僕がやりすぎそうになったら止めるぐらいはあるかもしれないけどね。そこの君、僕と剣を交えることができるなんて、光栄に思うといいよ」


 不屈と博愛と呼ばれる騎士が王の前へと進み出る。歴戦を思わせる、傷だらけの鎧と槍を携えた男がガウディと呼ばれ、軽薄そうな声の煌びやかな鎧を着た男がナーシスのようだ。


 謁見の間で抜剣を許可するという暴挙に、宰相であるダンツは呆気に取られるものの、若き王はくつくつと余興を見るかのように笑顔をうかべている。トランスは戸惑うものの、ナーシスから剣を向けられ、視線でサラとベルクに離れるよう促すと、仕方なしに剣を構えた。


「さーて、いっく――よっ!」

「くっ!」


 力試しというには容赦のない刺突がトランスへと襲いかかる。踏み込んだと思ったら目の前へと迫っていた剣を辛うじて弾くようにして反らすが、折り込み済みかのように、淀みなくナーシスの剣は背中から斬りつけるような軌道を描く。すぐさまトランスは前へと跳ねるように距離をとり、振り向き様に剣を振ると、すでに肉薄していたナーシスが剣を受け、口笛を軽く吹くと後ろへと飛び退いた。


「へぇ、素人構えの割にはやるね。子供を盾に背中は無防備だと思ったんだけどな」

「……盾ではない」

「うーうー!」

「あはは、子供が背中にいたら躊躇するの狙ってるんじゃないの? 逆にそうじゃなかったとしたらただの馬鹿だと思うんだけど。自分でそう思わない? そう思うでしょ? ねぇねぇ」


 トランスは眉間に皺を寄せると、自然と剣を握る手に力が入る。けらけらと笑いながらリーゼをけなされたこともあるが、ナーシスの発言を聞くと、身体に違和感を感じたからだ。その違和感の正体を探る隙も与えぬかのように、ナーシスの剣はトランスに止むことなく襲いかかった。

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