謁見へ
一カ月に1~2話が限界みたいです。お家時間? 外出自粛? 休みがないのはなぜでしょう(泣
上へ上へと向かうようにして道は続いていく。元々しっかりした道であったが、徐々にその道は更にしっかりとした作りへと変貌していき、汚れ一つない真っ白な道は、足を踏み入れるのに心がとがめられているかのような気分にすらさせた。
「こうゆう汚れ一つない道を汚してもいいっていのが、上流階級の特権なんだそうだ」
城に近づくにつれ、明らかに声色に不機嫌さが混じるベルクの雰囲気をサラとトランスは感じながらも、何個も潜った門や装飾の意味を淡々と説明していくベルクの声に耳を傾けていた。
「敵が攻めて来たときに、門や騎士達の配置があるから防げるというのはわかるが、魔物に関しては大氾濫などがあったらやはり危険ではないのか? これでは直通だぞ」
「それに関しちゃ道にふんだんに魔物避けが施されてる。魔物の嫌がる素材から魔法的効果の高いものとかな。それこそ城へ向かうルートに大氾濫が来たとしても、それを避けた魔物は市街地へと反れてくだけだよ。……市街地へな」
「……そうか」
「ベルクとやら、あまり気軽にそういったことを言ってくれるな。これから先は特にな」
「へいへい」
含みのあるベルクの説明に、トランスも意味を理解することは出来た。城が体勢を整える間、市街地は時間稼ぎとして蹂躙されるという事実は、ある意味機能的ともいえる。城やこの道が避難先として使えればの話ではあるが、仰々しい鉄柵が囲んでいたことを考えれば、それは望みは薄いだろう。全く入れないことはないが、混乱の最中使うような経路ではない。むしろ溢れた魔物が抜けていくような穴ともいえる構造は、その役目を暗に物語っている。貴族街へと入ると、その鉄柵から華やかな装飾へと変わっていくことも、案に選別のような意図を感じさせる。
案内をかってでた騎士も思うところはあるのか、注意というよりも、身を案じて諫めるという声色でベルクの説明を遮った。いくつもの門を通ることになったが、騎士の案内もあってか、驚く程すんなりと城門へとたどりつく。さすがに城門前とあってか、手紙をちらつかせるだけでは問題があり、中身を検めている。案の定門番である騎士から兜上からでもわかる疑念の視線を感じた。
「子連れの騎士とあるが、貴殿がそうか?」
「あぁ、トランスだ。背中にいるのがリーゼ。早朝に来るようにあったので来た」
「ふむ、後の2人は?」
「あの、私は道案内――」
「道案内と子守兼護衛だ」
「うー? あぅ」
ベルクがすかさず口をはさみ込む。予め聞かれることを想定していたようで、しれっと答えたベルクにサラは呆気に取られている。ここまで連れて来た騎士もぎょっとした様子でたじろいでいたが、門番の視線に軽く頭を下げると、逃げるようにして持ち場へと戻っていった。リーゼは首を傾げたあと、ベルクの視線の感じると門番に向かって首を縦に振る。
「……あくまでここには、子連れの騎士に対しての命令しか書かれていないが」
「謁見したりなんだりするのに、子供が泣いたり騒いだりしたら大変だろ? それにこの子に何かあったら、こいつが大暴れするかもしれないから大変だぞ?」
「一理は……あるか? まぁ、子供の相手が得意なものがいるとも思えないか。余計な真似はするんじゃないぞ」
トランスの鎧をまじまじと見つめたあと、軽くため息を吐き、城内の案内を1人呼び出すと、ついていくようにして先を促した。対応から渋々といった感じがしたものの、リーゼが笑顔で手を振ると、戸惑いながらも小さく手を振り返したところから、子供が嫌いという訳ではないようだ。
「案内を務めさせていただくビクトーと申します。トランス様と……、護衛兼子守のお二人ですか? 急な呼び出しでしたし仕方ありませんか。王の前で粗相のないようにお願いしますね。後ろを付いてきてください。広いですから下手に歩き回ると迷ってしまいますよ」
執事のような服を着た男、ビクトーが複雑そうな城内を迷うことなく歩いていく。質の良い絨毯は踏み心地がよく、丁度品も豪華でありながら派手過ぎず、自然と身が引き締まる。絵画など自慢の一品と思われるところで視線を奪われ、足が自然と遅くなることもあるが、ビクトーはそれを咎めることなく不自然さを感じない程度に歩を緩めたりと、出来た執事であることが窺えた。
謁見の間と思われる威圧感の感じる扉の前で、ビクトーは立ち止まる。簡単に謁見者の情報を伝えると、扉に控えていた騎士が中へと入り、すぐに戻ると扉への道を空ける。
「さぁどうぞ」
「武器を預けなくてもいいのか?」
何事もなく道を進めるビクトーに思わずベルクが疑問を呈する。しかし、ビクトーはニコリと笑顔で返しながら答えた。
「謁見には、騎士団長である【不屈】と【博愛】が同席するため、王が不要とのことです」
聞いたことのない二つ名にトランスは首を傾げる。ベルクの兜の下から、ギリリと歯を食いしばる音が密かにしたことに、誰も気づくことはなかった。