栄光への道
「いや、サラに道案内を頼んでいるから大丈夫だ」
「えぇっ?」
「……遠慮するな! うろ覚えっぽいではないか!」
さらりとトランスはベルクと名乗った男の道案内を断る。だが、そんなことはお構いなしにぐいぐいと背中を押され、サラは困惑するばかりだ。
「なっ?! そうだろうサラと呼ばれる者よ!」
「えっと、普段行かないとはいえ、あれだけ大きい城への道ですし……」
「でも忘れちゃったりするだろう?!」
「いや、そうでもないというか……」
対応に困ったサラがしどろもどろになっていると、それに付け込むようにぐいぐいと自分を売り込むベルク。兜の下は多分ベックだろうと確信するものの、その必死さに仕方なく意見を曲げることにする。
「……そうでもあるかもしれないので、道案内お願いします……」
「よぉっし、任せて置け!」
「む、そうか。すまないな。道中頼む」
「あうあぅ!」
がっくりとうなだれて渋々と了承するサラ。トランスに至っては全く気付いていないようで、親切な者もいるものだと感心している。リーゼはどことなく気付いている様子で、ニコニコと笑いながら、ベルクの兜をぺしぺしと叩いた。道中明らかに孤児院の子供達とすれ違い。
「あっ! べっ……ベルクさんだ!」
「こんにちはべっ……ルクさん!」
「えっと、みちあんないをまかせたら、みぎにでるものはいないべるくさんだ~」
「はっはっは! ここであったも何かの縁。これをやろう!」
やらせ感抜群の絡みが目の前で行われる。どう見ても依頼をしてその報酬をその場で渡しているようにしか見えない。サラがジト目でベルクを見やるが、トランスは、知り合いなのか?と呑気に子供達に聞く始末。ここまで手を回してベックでなくベルクとしてついてきたがることに、サラは【騎士嫌い】という二つ名が関係しているのだろう思い、気にするのを止めることにした。
城に近づくにつれて、舗装されたしっかりとした道となり、住人の衣服からも上流階級になっていく様子がうかがいしれる。路地を抜け出たところで、明らかに広い通りへと出る。人通りが少ないというより、1人もおらず、露店などもない今までの道と比べると異様とも思える空間だった。
「ここまでくればまぁ、迷うことはない」
「ここって、栄光への道ですよね? 通って大丈夫なんですか?」
「何か不味いのか?」
「あーうー?」
城へと向かってなだらかな上り坂になっており、下を見て見れば遠くに大きな門が見える。上を見上げれば関所のように門が設置されており、威圧感すら感じる道であった。サラが心配そうにあたりを見渡し、トランスとリーゼは何もわからずきょとんとした様子でベルクへと視線を向け説明を求める。
「この道は招かれた客とかを馬車事通す道でな。言うなれば城への直通経路だ。後ろ暗いことがないんであれば、ここを通ったほうが迷うこともないし堂々としてりゃいい。少なくともあんたたちは招かれた立場なんだろう?」
「まぁ、来いと言われたから来た訳だしな。解釈としては間違っていないだろう」
「あぅあぅ」
「私は付き添いですけど……あぁ、ほら、来ちゃいましたよ?」
「はっ、問題ないから任せとけ」
立ち止まって話をしていると、甲冑を着た騎士が駆け寄ってくるのがサラの視界へと入った。間に身体を滑り込ませるようにして、ベックが相対する。
「貴様ら、ここがどうゆう場所かわかっているのか?」
「あぁ、はいはい、ちょっと失礼、手紙貸してくれるか?」
「うん? あぁ、構わない」
トランスから招待状を受け取ると、割れた封蝋が見えるようにしながら、手紙の城へ来いという文言が見えるようにして重ねて見せつける。
「ほらよ、俺達は来いと言われたから来た。見るならこのまま見ろ。わかるだろ? 俺達はここを使う権利があると思うが?」
「訳知りか……確かに間違いはないようだ? お前たちは護衛か?」
「そうだ。この道なら襲って手紙をとろうなんて馬鹿はいないだろ?」
「はぁ……。妙な動きをしたら叩きだすからな。話を通してやるからついてこい」
何故かサラを見やったあとに、護衛の話を持ち出す騎士。サラは、騎士が何か勘違いしている。もといベルクがさせていることに気付き、批難するような視線を向けるが、当のベルクは鼻歌混じりで騎士の後ろをついていく。
昔の話であるが、招待された手紙を検めた騎士が、その手紙を紛失、いや隠蔽し、その女性に手を上げたという事件があった。その事件をしっている者として訳知りといい。手紙を手渡さない理由とすることで、ベルクは護衛として同行することに成功したのだった。