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亡国の騎士  作者: 黒夢
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王城への誘い

「トランス様宛に手紙が届いておりました。ギルドマスターより言伝と、王城についたら渡すように預かった手紙があります」


 シン達との件があった翌日の夕刻に差し当たるころ、宿へと手紙が届けられた。トランスは久しぶりに孤児院の子供達と依頼を済ませたところであり、タイミングの悪い事だと思いながら、食事を待っていた席から立ち上がる。見るからに高級そうな真っ白な紙に、王家の紋章があしらわれた封蝋がしてあるのが見て取れる。よほど急いできたのか、銀の長髪の乱れを手で直しつつ、眼鏡を片手で軽く上げると、ギルド職員のレンリが直接トランスへと手渡した。


「わざわざすまないな」

「いえ、期日がないのと、マスターより言伝がありましたので」

「そうか、言伝とは?」

「『困ったら老騎士を頼れ』だそうです」

「老騎士?」


 あえて名前を出さず曖昧な言伝にトランスは首を傾げる。その様子に気付いた出来る受付嬢レンリは、補足を続ける。


「先程手紙をギルドへ持ってきた使いは、明日の早朝が予定となっているので、早く渡すようにとせっついてきました。まぁ、色々と助言などを受ける時間を無くすためでしょう。そこで急ぎ私が言伝と共にやってきたのです。老騎士というのは、騎士団の良心と呼ばれている方です。名をガウディ。敢えて名を出さなかったのは、()()()()()()からでしょう」

「ふむ……。了解した。バルトロがそういうのであれば、そうなのだろう。わざわざすまないな」

「いえ、仕事ですから」


 ふぅと息を整えると、レンリはすっと身を引くようにして去っていった。その所作はどこか美しく、レンリと話をするトランスを羨ましそうに見ていた冒険者達は、名残惜しそうにしてその後ろ姿を目で追いかけていた。


「それで、行くのかい?」

「女将か……。あまり気は乗らないが、目的の為には仕方がないだろう」

「リーゼちゃんか……」


 すやすやとトランスの背で眠るリーゼを見やり、リゼットはため息をつく。手紙には、使えれば登用してやるから、明日の早朝に城まで来いとだけ偉そうに書かれている。城からの要請を無視すれば、いいことにはならないだろうが、行くことも良いことになる予感は全くしない。


「あんまりおすすめはしないねぇ。前も言ったけどさ、ここの騎士は腐ってる。あんたたちが行ってろくなことになる気がしないよ」

「直接見たり会ったりしたことがないから何とも言えないが……。気は引き締めておこう」


 食堂で話をしていると、ボロボロになったサラが丁度帰ってきたところだった。トランスが手にもっている手紙に気付くと、パタパタと足早に近づき話しかける。


「やっぱり来たんですか?」

「ん? やっぱり?」

「あ、えぇっと、そうなるんじゃないかって聞かされてて」

「あぁ、なるほどね。だから妙に落ち着き払ってたんだねぇ。普通は呼び出しくらったりしたら慌てふためくもんだからさ。変だなとは思ってたんだよ」


 納得がいったという感じでからからと笑うリゼットに、少しだけ重かった空気が晴れた気がした。


「さてと、いつまでも話してちゃしょうがないね。気に入らなかったらぶっとばしてきていいからね」


 大きな手の平で、トランスの背を叩くと、厨房へと戻ったリゼットはシチューとパンを運んでくる。いつもより多めに入った肉に、サラとトランスは女将に感謝しつつ綺麗に平らげた。


「いってきな。気を付けるんだよ!」

「いってらっしゃい! 美味しいご飯作って待ってるからね」

「あぁ、行ってくる」

「あうあう!」

「いってきまーす!」


 次の日の早朝、宿の前で女将達に見送られるリーゼを背負ったトランスとサラ。無論招待されたのはトランスなので、サラは入城できない可能性が高いが、道がわからないことに気付き、サラに道案内を頼んだのだった。


「ベックさんに結局会えませんでしたね」

「あぁ、騎士のことを少しでも聞いておきたかったんだがな。元々話したがらなかっただろうし、仕方がないだろう」


 夕方も朝方も部屋はもぬけの殻だったためベックとは会えずじまいだった。【騎士嫌い】などという二つ名がつくぐらいなのだから、詳しいと思い、少し話を聞いてみたいとトランス達は考えていたが、姿すら見ていない。確かこっちだったはず、と独り言を呟きながら早朝のためか人通りの少ない道を歩いていると、目の前を塞ぐように一つの人影が道を阻んだ。


「待ちな」


 咄嗟に構えるトランスだが、サラは首を傾げ、リーゼはきゃっきゃっと手を伸ばし何故か大喜びだ。フルフェイスの兜を被り、所々に板金を張り付けた軽鎧というアンバランスな男がそこにいた。明らかにサイズが合っておらず、頭でっかちといった様相だ。


「何やってるんですか? べっ――」

「ベルクだ!」

「いや、どう見ても」

「俺の名前はベルク! 迷える子羊を城へと誘ってやろう!」


 サラの発言を遮るように、ベルクと名乗った男は捲し立てるように喋り、サラとトランスの背を押し出すようにして先を急がせた。

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