表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国の騎士  作者: 黒夢
13/142

大猪と娘

 少々森が深くなってきたと思うと、所々に木が伐採されたりなど、開墾の跡が見られるようになってくる。その森の様子を確認すると、ロブが声をかけた。


「そろそろ村につきますよ。わたしが交渉しますので、皆さんは武器から手を放しておいてください」


 少しづつ森が開かれていくと、質素な木で出来た家が見えてくる。作りがしっかりしているとはいえず、ところどころに補強したような跡も見られ、あまり発達しているとはいえない村のように見える。


「おかしいですね、いつもならすぐに誰かくるんですが、何かあったんでしょうか?」

「おぃおぃ、なんだぁありゃ?」


 人の気配があまりせず、ロブが訝し気に村を見渡していると、ベックが村の一角の騒がしい様子に気付き、全員でゆっくりと向かっていく。すると、牙を二本携えた大きな猪と村人達が相対し、その後ろで倒れた15歳ぐらいの女性を子供たちが心配そうに囲んでいる。


「このやろう! アーシャをこんな目に合わせやがって!」

「あっちへ行きやがれ! なんだってんだよ!」

「おねぇちゃん、おねぇちゃぁぁぁん、死なないでよー」

「きゅうううう、きゅううう……」


 アーシャと呼ばれた女性の顔色は悪く、片足があらぬ方向に曲がっており、かなりの重傷であることがわかる。息も荒く、意識もない様子だ。大猪は村人が放った矢だろうか、あちこちに矢が刺さっているが致命傷を避けているのか、呼吸が荒いものの、退く様子が見られない。村人達は恐れと怒りの入り混じった様子で、剣や弓、鍬や鎌などを持ち牽制していた。

 

 いまいち状況がつかめず、一同が困惑していると、リーゼがトランスの背から急に飛び降りて、大猪の前に飛び込むと、村人達の前に立ちはだかった。


「ぬ、リーゼ!」

「うーう゛ー!」

「おぃっ! あぶねぇぞ! どこの子だ!?」

「きゅうう、きゅうう……」


 リーゼに攻撃する様子のない大猪に、何か事情がありそうだとトランスが声を上げ割って入る。


「すまないが、事情を知らせてくれるか!」

「えっ? き、騎士様がなんでこんなところに!」

「って、ロブさんか? た、たのむ。回復薬をくれないか! アーシャが死にそうなんだよ!」


 乱入者に場がざわつくが、ロブとは知り合いがいる様子だった。すぐにロブがアーシャと呼ばれる女性の所に駆けつけるが、渋い顔をして村人たちに告げた。


「これは……、すいません。手持ちの回復薬ではまともに回復できるような傷ではありません……」

「そ、そんな……」


 回復薬とは、薬草を掛け合わせて傷などを治すことが出来る水薬である。しかし、あくまで回復の促進であり、本人の体力や傷の深さによっては効力を発揮することはない。アーシャはすでに死に向かう程の傷であるらしかった。トランスはリーゼの力強い瞳と目が合うと、何かに背を押されるようにアーシャに歩み寄った。


「あ……、き、騎士様……何を……」


 明らかに周囲から浮いている全身鎧の男を村人達が見つめる。トランスは、アーシャの傍にかがみこみ、全身状態を確認する。取り囲んでいた子供たちが恐れるように離れるが、その動向を見守った。右足は骨折、左足は腫れあがっている。両腕には打撲跡が痛々しいほど見られ、服がボロボロに破れているものの、打撲跡は少なめだ。しかし、ヒビが入っているのだろう。呼吸が苦しそうだ。アーシャに手の平を向けると、頭に思い浮かぶ魔法を唱えた。


「彼の者の傷を癒せ。<ヒール>」


 光の粒子がトランスの手の平から降り注ぎ、アーシャの身体を包み込む。体中にあった打撲跡が消え去り、腫れがひいていく。折れ曲がった足も正常な形に、まるで逆再生をするかのように戻った。荒い呼吸はまるで眠っているかのように穏やかになり、顔色も幾分かマシになったようだ。呆気にとられるように村人達はトランスとアーシャを見やる。それを意に返さず、トランスは立ち上がると、大猪のほうに歩み出しながら、村人に指示を出した。


「その子の右足は添え木で固定してやれ。まだ完全に治ってはいない」

「は、はぃ!」


 大猪へ向かうトランスを、村人達は避け、まるで道を開くようになっていく。


「あーうー!」

「よくやった。さて、俺に身を任せてはくれるか?」


 リーゼがトランスの足に抱き着くと、トランスは優しく頭を撫でる。鼻息荒くする大猪の目を見つめながら、声をかけた。


「きゅうぅう、きゅうう……」


 まるで、安心したかのように大猪が座り込み、目を閉じる。それはまるで全てを委ねるようであった。


「よし、いい子だ。少し痛いが、我慢してくれ」


 トランスは大猪に刺さった矢を一本一本抜きながら傷薬をぬっていく出血を少しでも抑えるためだ。かなり痛いはずだが、びくっと震えるのみで暴れる様子はなかった。全て抜き終えると、ヒールを唱えて傷を癒した。


「き、奇跡だ……」

「騎士様が奇跡で救ってくださったぞ!」

「あ、ありがとうございます騎士様ぁ!」


 わあっと村人達から歓声があがる。トランスは村長と思われる老人に手を握られ拝まれながら、全員に聞こえるように声をあげた。


「彼女を傷つけたのはこの猪ではない! まずは双方を安静に出来る場所へ! そして詳しい状況を説明してくれ!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ