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亡国の騎士  作者: 黒夢
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即興コンビ

「8人ってところか?」


 聖堂の入り口に立つ2人をぐるりと囲い込むように、黒ずくめの人物達は悠々と歩い包囲をする。そちらに視線を向けながらベックが呟く。手は短剣に添え警戒は絶やさない。構えもしないサラは、まるであえて全員に聞こえるように返事を返した。


「いいえ、1()0()()です!」

「なにっ!?」


 警戒していた相手が一瞬動揺を隠せずぴくりと反応したかと思うと、聖堂の屋根より飛び降りるようにして黒ずくめの2人組がサラを頭上から襲う。振り向いたり顔も向けることすら出来ないサラに、ベックは助けようと2人組に向かって短剣を投げるが、片方に弾かれてしまった。


「サラ! 避けっ――」

「吹き飛べ!」


 サラが片手を振るようにして横に突き出すと、その方向に不可視の力が働いたかのように、襲い掛かった2人は弾き飛ばされ地面に投げ出された。一瞬の静寂が場を支配するが、弾けるようにして取り囲んでいた者達が動き出す。


「ふっ、はっ! ちぃっ、多勢に無勢は変わらねぇ。数の優位があっても不意打ちで魔法使いを狙うあたり、人と戦い慣れしてやがる。気を付けろ!」

「はいっ!」


 牽制するように、次々と短剣をベックが投げる。倒れた2人の機動力を奪う為に投げた短剣を防いだり守ろうともせず、そのまま突き刺さろうと、感情の動きのようなものさえ見せない。そのほかの短剣は全て避けられるか弾かれるかしてしまい効果はなさなかった。


「俺もどっちかっていうと後衛よりなんだがなぁ」

「私は大丈夫です。戦いやすいように戦ってください」

「だが……」

「元々冒険者っていうのはそういうものでしょう?」

「あぁ、ったく……。援護はするが身体張って守るってのは無理だ。頼んだぜ!」

「はい!」


 いい笑顔で答えるサラに気圧されるように、足を止めていたベックが走り出す。短剣で切りつけてきた相手の間をすり抜けるようにして背後を取ると、それを止めるべく4人が振り向き向き合った。


「半分釣れたか。それでも女相手に4人も向けるなんて、臆病ったらねぇな。――っとあぶねぇ」


 挑発の言葉をかけるが、サラに向かった4人の足が遅れるようなことはなく。相手取る4人は無言で切りつけてくる。ベックがベテランの冒険者であるにも関わらず、迎撃するベックの短剣はかすりもせず、鍔迫り合いになると押されてしまう程だ。軽快なフットワークで4人を相手取るものの、場は膠着状態、むしろ相手からすれば、魔法使いを仕留める時間を得られる以上勝ちであっただろう。かすり傷が徐々に増える中、ベックは憮然とした表情で相手の時間稼ぎともとれる状態を維持し続けた。


「ここは通しません。教会に懺悔をしにきたようには見えませんしね。話もせずいきなり相手を殺そうとする人たちなんて、転んで頭でもぶつけててください!」


 表情が窺えなくても、妙に幼稚じみた発言に若干の戸惑いが黒ずくめの人物達から感じられた。しかし、さっきの不可解な現象が警戒心を引き上げているようで、一気に全員がかかるようなことはなく、1人が仕掛けると、何かに足をとられた。


 警戒が功を期したのか、無様に転ぶようなことはなく、そのまま前転するようにして受け身をとりつつ前方に飛び出し、サラに短剣を突き付け……ることなく崩れ落ちた。


 リーダー格と思われる1人が片手をあげ、追撃を試みた2人を静止する。下がれと言う合図に2人が後ろに飛び退くようにサラから距離を取ると、足を滑らせるようにして転び、後頭部を強打し意識を手放した。


「い、いったい……、何が……」


 ずっと黙り込んでいたが、黒ずくめのリーダー格から、くぐもった声で動揺の言葉が漏れる。得体の知れないものを相手にしたかのように、その声には恐怖の色が浮かんでいる。狼狽していると、その横を駆け抜けるようにしてベックが走り抜けていった。


「うおぉぉ、はぁ、はぁ、あいつら殺しなれもしてやがる。急所ばっかり狙いやがって……。はぁはぁ。いちいち一撃一撃が心臓に悪いんだよ……。サラ、ちょっとかしてくれ」


 逃げ回っていたからか、汗だくで息切れしながら、サラの肩に手を触れ息を整えるベック。


「いいですよ。あれ? ベックさんまだ1人もですか? 私に譲ってくれるんですか?」

「馬鹿言え。俺は、()()()()()()()()()()だ」


 まるで世間話をしているかのような2人の会話に、追いかけていた者は苛立ちを、リーダー格のみ背筋に寒気のようなものを感じ、撤退を指示しようとするが、すでにその判断は遅かった。ベックがサラの肩に触れていないほうの手を握りしめる。


 まるで体中が圧迫され、縛られるかのように動けなくなると、距離がある程度離れていた10人の襲撃者は、聖堂から追い出された不届きもののように、一塊になって捕縛されていた。


「やるじゃねぇか」

「ベックさんも、さすがです」


 静まり返った街に、2人のハイタッチが響き渡っていった。

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