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亡国の騎士  作者: 黒夢
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業突く神父と護衛騎士

師走というだけあって本当に忙しい毎日です。

急激に寒くなって来たので、皆さん体調に気を付けてくださいね。

更新を続けられるように頑張ります。

「神父よ、助かった。危うく私の大切な息子に傷が残るところだったよ」

「すごい、すごいよ父上! 痛くないし傷が跡形もなく消えてる!」

「ふぉふぉふぉ、これぐらいなんてことありませんよ。全てはあなた方の寄付《信仰心》のおかげです」


 見るからに高価そうな服を着た親子が、これもまた高価そうな服を着た神父と笑顔で向かい合っている。雰囲気は明るいが、どちらからも相手を下に見ているかのような空気を感じるのが不思議だ。終始笑いながら話を終えると、金貨の入った袋を神父に投げ捨て、高笑いしながら親子は入り口へと向かう。途中トランス達とすれ違う際、明らかに嫌悪の視線を向けるが、少し遅れてついてきたシンが睨みを利かせると、視線を逸らし逃げるように帰っていった。シンは兜の下で鼻を鳴らすが、その状況を見たトランスが思わず疑問を投げかける。


「いいのか?」

「何がだ?」

「相手は貴族だろう? 神父はあんなに下出に出ていたようだが?」

「ふっ、私まで舐められたら誰が神父を守るんだ?」

「お前がもう少しうまく立ち回れれば、わしもここまでへりくだらなくていいんじゃがなぁ」


 さも当たり前というようにシンが答えると、割り込むようにしてしゃがれた声が割り込む。先ほど貴族と話していた時とは思えない程に砕けているが、覇気のある声だった。


「困るのはあっちなんだから、強めに吹っ掛けたっていいだろうに」

「ふぉふぉふぉ、世の中そんなことでは上手く回らんのじゃよ。さて、お客人かな?」


 神父はシンと旧知の仲のように、気軽に話すと、目尻の皺を一層深め目を細め、トランス達を見やった。


「あぁ、身なり的に大した期待はできそうもないけどな。通行りょ……寄付も大した額じゃない。普通だったら追い返しているところだ。マイラの紹介じゃなかったらな」

「それでも寄付はしっかり取られましたけどね? 神父様お久しぶりです。本日は、日頃お世話になった冒険者である、トランス様のお願いを聞いて頂きたくお目通しをお願いした次第です」


 マイラはジト目をシンに向けた後、神父の前に一歩出ると、見事なカーテシーを見せた。その仕草から、形だけでなく心から神父を尊敬していることが見てとれる。


「そうかそうか、ご苦労。孤児院のほうが世話になったというのならば、わしも無下にはできんなぁ。そちらの御仁がトランスさんか、わしのことは神父と呼んでくれていい、そちらの可愛いお嬢さんの名前も聞いても?」


 好々爺のように親し気に歩み寄り、トランスの手を取ったあと、肩に乗るリーゼに柔らかい表情を向ける。とてもマイラに聞いたような印象がなく、トランスは戸惑ってしまった。


「あうえ、あうえ! あうー!」

「ふぉふぉふぉ、そうかそうか、アウエというのか、ふぉふぉふぉ」

「いや、リーゼだって、喋れないんだそうだ」

「なんと! それはなんと不憫なことか……」

「力を貸して欲しいことの一つはそうだ。もう一つは俺の装備についてだ」


 トランスはリーゼの状況、自分自身の鎧のことをかいつまんで神父へと説明する。うんうんと頷きながら神父は聞き届けると、思案したような表情を浮かべながら一度背を向け、祭壇のほうへと歩み寄る。くるりと振り返ると、先ほどまで見せていた笑顔が嘘に見える程良い笑顔で言った。


「金貨100枚といったところかの?」

「――なっ!」

「神父様……」

「あっはっは、ふっかけるじゃねぇかじいさん。よっぽどだなこりゃ」


 あまりの高額請求にトランスは絶句し、リーゼは目を白黒している。アイラはこめかみを手で押さえ、シンはより口調が砕けて素がでてしまっているようだ。


「問い合わせるにしても、調べるにしてもそれぐらいが最低ラインじゃのぉ。その表情から見るに手持ちはなさそうじゃな? ま、がんばるんじゃな?」


 神父はつかつかとトランスに近寄ると、肩を叩き、話は終わったとばかりに奥へと戻ろうとする。だが、それを遮るように焦ったような声が教会内に響いた。


「し、神父さまぁ! 俺の子を助けてくれぇ!」

「ちっ、めんどそうなやつがきたな――」

「――よい。ふむ、何用かな?」


 明らかに水ぼらしい格好をした男が、両手で線の細い少女を抱えて教会へと飛び込んできたのだ。シンが追い出そうと歩き出したところを神父が一喝して止める。慌てているせいか、男は抱えていた少女を床にやや乱暴に降ろすと、地面に頭をつけ神父へと願う。


「娘が怪我をして意識が戻らねぇんだ! このままじゃ死んじまう! 助けてくれ!」

「ふむ……」


 神父が眠るようにして動かない少女を見やり、しばらく黙り込む。ふっと男のほうへと顔を向け、さも当たり前のように言い放つ。


「金貨1枚じゃな」

「うっ……、死にかけてるんだぞ! てめぇそれでも神に仕える神父なのかよ! 俺みたいな奴が払える訳ねぇだろう! 頼むよ……助けてくれよぉ……」


 まるで返答にがっかりしたという表情を神父が浮かべると、シンに目配せする。やれやれと肩を竦めたシンが、男の襟首を掴んで引きづり始めた。


「うぉっ! は、はなせぇ! この人殺しが! 金の亡者どもめぇ!」

「はいはい、聞き飽きたよそんな言葉は。もう少しレパートリーを増やしてくれって」


 唾を吐きながら罵詈雑言を神父へと浴びせる男を気にも留めず、シンは入り口へと向かっていく。このまま男が追い出されて終わりと思われたその時、トランスが声をあげた。


「俺が……、治そう」

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