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亡国の騎士  作者: 黒夢
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旅立ち2

 街の入り口に馬車が停まっている。商人と思われる線の細い男と、革鎧を着た軽装の冒険者が、弓と矢筒と担いだ冒険者、トニーと話をしていた。トニーが何かを訴えているが、冒険者が首を横に振っており、もめごとか何かとトランスは顔をしかめる。すると、トニーがトランスたちに気付いたようで、駆け寄ってきた。


「あ、サラちゃーん、トランスも聞いてくれよ! 全然融通が利かないんだぜ?」

「ちょっとー、困ってるじゃないですか? どうしたんですか?」


 呆れたような表情をして、軽装の冒険者が歩み寄ってきた。


「いやいや、俺が代わりに残って、こいつを乗せてけっていうから無理だって話をしてたんだよ」

「だってさぁ。サラちゃんに俺まで行っちゃったら、ハガイの戦力下がりすぎちゃうじゃん? 名案だと思うんだよなぁ」

「なんでトニーさんが行く前提になってるんですか……」


 ハガイに滞在中に、お礼も兼ねてトランスはトニーとも何度か話をしたり、食事をした。生まれたときからハガイから離れたことがなく、王都に並々ならぬ憧れを抱いているようだった。お調子者のように見えて、サラを心配して仕事度外視で一緒にいったり、ゴブリンソルジャーとオークファイターの討伐料を受け取らなかったりと、芯はしっかりした若者だ。今回も、行きたいなら行くことをギルドが止めることは出来ないにも関わらず、変に気を回しているところがトニーらしい。だが、バラックは想定していたらしく、トランスにあるものを渡していた。荷物から羊皮紙を取り出し、トニーに放り投げた。


「トニー、バラックからの預かりものだ」

「おわっと!? なんだこりゃ? うぇ! 護衛依頼じゃんこれ!」

「ギルドマスターバラックからの依頼だ。俺たちが抜けたぐらいで特に変わりはないそうだ。これで問題ないだろう?」


 依頼の完遂は評価にもつながる。同伴兼護衛で行こうと思っていたわけだが、依頼書には、バラックより四名の護衛をつける依頼内容で判が押してあった。本当に気の利く人だ。馬車の前で様子を窺っていた商人に声をかける。


「えぇ、ギルドのほうから出るというのであれば問題ないですよ。あなたたちを含めて、わたしの護衛で四名は過剰すぎますからねぇ」

「なんだよ、決まってたんなら早く言えよ……ここに残らないといけないんじゃないなら文句ねぇよ」

「わりぃわりぃ! じゃ、道中よろしくな!」


 さっきまで少し険悪な雰囲気だったにも関わらず、悪びれた様子もなくトニーが冒険者の肩を叩く。彼のいいところであり悪いところでもある。ムードメーカー的な存在なのだ。少しごたついたものの、一行はハガイの街を出発した。しかし、ここで一つ問題が発生した。


「すいません……」

「いや、迷惑をかける。すまないな」

「どのみち速度も出せないので大丈夫ですよ。立派な鎧なので、盗賊などには牽制になりますし……。疲れたら言ってくださいね?」

「承知した」


 トランスは馬の横を並んで歩いていた。軽量化の効果があるため、自覚がなかったが、トランスが乗り込むと重みで馬車が沈んだのだ。あまり大きい馬車でないので仕方ない。元々護衛としては外にいたほうがいいので、トランスは気にしていない。申し訳なさそうに謝る商人を不憫に思うぐらいであった。


 辺境故か、整備されているとも言えない街道を、馬車はゴトゴトと音を立てながらゆっくり進む。見晴らしのいい草原が続き、風にはかすかな花の匂いを感じる。とても気持ちのいい気候だ。ちょっと前まで死にかけていたのが嘘のように感じる。リーゼは良く背中ですやすやと眠っている。呪いを跳ね返し続けている影響で眠いのだろうとバラックは言っていた。トランスは、常におんぶをしている状態にも関わらず、装備の効果を同調しているおかげか全く疲れを感じず、むしろ調子がいいぐらいであった。


 ずいぶん静かだなと、トランスが馬車の荷台に目をやると、冒険者三名は、揺れのせいかぐったりとしており沈黙している。護衛がそれでいいのかと苦笑していると、商人と目が合いお互いに肩をすくめた。沈黙に耐えかねたのか、背中のリーゼに目をやり、商人が口を開く。


「お子さんですか?」

「まさか、訳ありだ」

「そうですか、ずいぶん懐いているようですね」

「たまたまだ」

「ははは、子供はたまたま懐くようなものではないと思うんですが。わたしも王都に娘がいましてね。ちょうど同じくらいでしてね……」


 他愛のない会話をしながら、一行はゆっくりと、街道を次の村に向かって進んでいった。

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