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亡国の騎士  作者: 黒夢
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賢者の意図

『さて、今のうちに魔力を補充しておくといい、サラ君頼むよ』

『わっ、ほんとに戻って来た!』

『あうーあうあう!』

「どうなっている……?」


 がやがやと騒がしくなった頭の中と、突然消えた兜に、トランスは困惑するが、状況が状況だけに視線をアンデットからきることはない。こちらの都合などどうでもいいかのように、淡々と賢者は語る。


『君とこの子の繋がりを利用させてもらってね。一部始終観察させてもらっていたんだよ。今のバルトロなら……とも思ったけれど、精神的な攻撃で攻めてくるとは、いやはや迷宮は汚い』

「見ていたならなぜ――」

『おっと、批判される謂れはないね。これが迷宮に行くのはあまりいい判断ではないからそうしただけだから。だからこそこうやって保険をかけさせてもらったんだ』

「しかし……ぐ……」


 トランスの言葉を賢者がすぐに言葉を被せ黙らせる。まるで何も知らないことを鼻で笑うかのような声に、トランスはただ黙ることしか出来なかった。


『そろそろいいだろう、サラ君。彼に戻してあげるといい。そして、微力ではあるが力を貸してあげよう。()()よりはいいだろう?』

『えっと……、トランスさん! 頑張ってください! リーゼちゃんと応援してます!』

『うーうー!』

「……感謝する」


 暗にトランスを無力であると賢者が言うが、現状頼ることしかできないトランスは反論の言葉を呑み込み頷く。サラにより魔力が充填された兜が戻り、そこに賢者の魔力を感じたことも、反論するだけの材料を失わせていたのだった。ただただサラとリーゼの言葉が暖かった。


『その兜には魔眼系の能力があるだろう? 強力すぎて上手く扱えないとサラ君から聞いているよ。そこをここから補佐しよう。しっかり制御することだ』


 じわりと眼の周囲が熱くなると、急激に視界が眩い明りに支配されるが、少しづつであるが視界が戻る。アンデットやスケルトン達に眩く光り輝く部位が見え、まるで血管のように細い光が身体中に巡っていた。少しづつその光も落ち着きを取り戻し、最も眩く光る部位のみが見えるようになった。さらに、今まで見えていなかったが、レースの布に、苦悶の表情が浮かんだようなものが多数浮いている。


「これは……一体どこから、それにあの輝きは魔石……核か」

『その通り。無駄なものまで見えていたのは調整した。それに、そいつらは初めからいたさ。レイスだね。物理的に危害を加えることはないが、精神的にダメージを与えてくるのさ。バルトロはそれにやられたんだろう』


――またお前だけ、生きるのか――

――自分が行きたいがために、俺達を殺しに来たのか――


 先程まで聞こえていなかった声がトランスの耳へと届く。レイスが可視化したことで、その声が聞こえるようになったようだ。


――一緒に、一緒に行こう――

――仲間だろう? 仲間になりにきたんだろう?――

――さぁ、さぁ、さあさあサアサアサアサア!――

――おまえも、一緒にいベシ――


 トランスのほうにまで向かってきたレイスを、青白い猪が突進して吹き飛ばし、青白い馬? が蹄で叩き潰した。続けて、バルトロに二匹が近づくと、躊躇せずげしげしと踏みつけ始める。焦り止めようとするが、その足は物理的にバルトロを傷つけることはなく、苦悶の表情を浮かべたレイス達が、わらわらとバルトロの体内から出てくると消滅する。説明を求めるよう賢者に思念を送るが――


『……さすがにこれは予想外だね。まぁ、結果的には良かったんじゃない?』


 若干焦りを隠せていない冷静を装った声が聞こえ、トランスは深く突っ込まないことにした。


「しかし、核が見えたところでこの数は……」

『あくまで核を可視化したのは、最大限に効力を活かすために過ぎない。スケルトンはともかくアンデットは厄介だからね。これからちょっとだけ引っ張り出すから、()()()()()()()()()()()()?』

「何を――がぁっ! ああ、うあああ!」

『ちっ、さすがに静観はしてないか、なんとか凌げ!』


 ゆっくりと歩いていたはずのスケルトン達が一斉に走り出す。急激に襲った頭痛に苛まれながら、トランスは我武者羅に剣を振るう。バラバラになった骸骨が地面へと放り出されるが、意に返さぬように、次々とスケルトンが周囲を埋め尽くし、トランスを呑み込んでいく。


 バラバラになった骨で出来たステージの上で、剣を支えにぐったりと項垂れたトランスを、アンデットの暗い眼窩が見下ろす。メロとロメオがしっかりと腕を押さえ、死刑執行のようにオランの短刀が首へと吸い込まれ――トランスが囁いた。


「足の……付け根……」

「うがああああああ!」


 自らの核の場所を言い当てられたオランが、警戒し短刀を構え直すと、獣のような咆哮と共に、飛び上がったとバルトロが、上空から戦斧をオランに叩きつける。しかし、身体の半ばまで戦斧を食い込ませ、ロメオがその一撃を受け止めていた。にちゃぁと、腐った液体が糸を引きながらその口元を歪ませる。しかし、バルトロは特に焦ることもなくオランに告げた。


「前ばっか見てるとあぶねぇってよ。お前はいつも言ってたよな」


 その瞬間、足元より眩い白い輝きが周囲を埋め尽くした。

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