バルトロの過去
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図体がでかく、力だけが取り柄だった俺は、喧嘩がめっぽう強かった。元々小さな村で、少し不作などが起きれば、口減らしで子供が売られるなんて当たり前に起こる。身体が丈夫だった俺に関しては、力仕事などを期待され、売られたり捨てられるなんてことはなかった。だがそんな俺でも子供は子供だ。
「くそぉおおおお! 放せ! なんでだよぉお!」
「こらっ! バルトロ! いい加減諦めろ!」
売られていく幼馴染、友人、兄弟。いつの間にかいなくなっていた優しかったじいちゃん。不穏な気配を感じて起き出してみた光景は、人間が人間を売るという理解が出来ない行為だった。泣きながら俺に手を伸ばす家族同然の子。まるで達観したかのような表情で俺を見つめる知り合い。奴隷商に殴りかかった俺は大人たちに抑えつけられ、何も出来ずにそれを見ていることしか出来なかった。
ちょっとガタイのいい子供など大人や、数には敵わない。理不尽を突き付けられた俺は、生きているのに死んでいるような気持ちを抱えたまま、村であいつらと同じように、同郷の人間を売るような真似をして生きなければいけなくなるかと思うと何度も嘔吐した。
そんな俺にも転機が訪れる。小さな村と言え商人が立ち寄ることもある。その時は珍しく豊作で、村長がホクホク顔で商人と商談をしているのが印象的だった。護衛として一緒についてきていた冒険者が、暇だったのか訓練しているのを目の当たりにしたのだ。
一言でいえば衝撃だった。殴るや蹴るといった喧嘩ならしたことはある。だがそこに殺意などはない。そこで見たのは殺意の乱舞。暴力の嵐。自らが正しいのだ、間違ってなどいないと主張しているかのように、お互いがお互いをぶつけ合う。喧嘩などただの駄々のこねあいにしか思えなくなるほどに、その剣戟は美しく、心を震わせた。気づけば俺は、涙を流しながら手に持っていた鍬を振り回していた。訓練が終わったのか、お互いに礼を言い合う冒険者に、俺は気付けば駆け寄って問いかけていた。
「冒険者なら……、理不尽を叩き潰せるか? 俺は間違ってないってわからせられるか?」
面食らったように、きょとんとしていた冒険者達は、顔を見合わせると不敵に笑って見せた。
「あぁ、お前がその道を信じて突き進めばきっと、結果がついてくる」
「白金級にでもなれば、国だって動かせるかもな!」
冒険者と意気投合した俺は、手引きしてもらい荷馬車に紛れ込み、小さな世界を脱出して、冒険者となった。
様々なところを巡り冒険した。途中最初にあった冒険者達と別れることにはなったが、道中気の合った仲間たちとパーティーを組み順調に階級をあげていった。
「はぁ、お前さんは突っ込みすぎだ。足元の罠すら踏みつぶしていくんだから始末に負えん。上や横だってあるんだぞ? まぁ、代わりに気を付けてやるしかないか……」
ぶつぶつと小言を言ってくる年配のシーフであるオラン。
「バルったらまた怪我をして! 避けるか逃げるかしなさいよ! えっ? 避けたら私が怪我をするかもしれない? もぉ……馬鹿」
放浪しながら修行をしていたという修道女、メロ。
「ふふ、お父様とお母様はいつも仲が良くて僕は嬉しいです。もっと強くなって守れるようになりますね!」
そして……、俺とメロの子、ロメオ。
理不尽に屈することを拒んだものが集まった、金級パーティー【叩き潰す者】。その名は知る人ぞ知るものとなっていた。
王都にしばらく滞在し、迷宮に潜ることを続けていた時、ある異常事態が発生する。迷宮深層の魔物が浅い層に現れ、王都周辺にまで普段現れない魔物が出現し始める。ギルドではまことしやかに、大氾濫の予兆とささやかれていた。
普段であれば王都の騎士も定期的に迷宮の魔物を間引きにやってくる。だが、戦争の準備でもしているのか、ここしばらくは姿を見せず、それが原因ではないかと結論付けられた。
王都の騎士団が動かなければ迷宮の間引きは間に合わない。個々の力が冒険者がいくら強くあったとしても、良質の訓練や装備、数を揃えた戦力は馬鹿にならない。さらに、戦争のような負の感情が高まるような行為は、迷宮を活性化させてしまう。ギルドの見解を伝えに、当時在籍している中では最高位であった俺達とギルドは直訴に行く。だが、それがかなうことはなかった。
「余は忙しい。迷宮漁りなど冒険者達にやらせておけばよい」
謁見を拒まれ、何度も訴えたうえ、数日待たされた上に帰ってきた返事。心して聞けと、伝令と思われる兵士から伝えられた言葉は、たったそれだけだった。