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亡国の騎士  作者: 黒夢
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迷宮とスライム狩り

遅くなりました。更新頻度をあげたいのですが、時間が足りません……。夏休みとかお盆休みとかってない人からすればただの拷問ですよねー。

 戦斧を背にした大きな背中を見つめながらトランスは歩く。時々冒険者と思われる姿が会釈をして通り過ぎていく。目線だけ向け軽く頷くバルトロを尻目に、後ろをついて歩くトランスには、皆一様に怪訝そうな表情を浮かべていた。


「あぁ、あんまり気にすんな。俺が一人じゃないのが珍しいだけだろ」

「そうか」


 賢者と楽しそうに話をしていた姿とは裏腹に、言葉少ななバルトロと、元々寡黙なトランスの会話はすぐに途切れる。周囲から見れば、強面の男と屈強な鎧の男が、無言でずんずんと進んでいるのだから、自然と道を空いていくのは道理だった。


 賢者はサラとリーゼを連れて修行に行くとギルドから出ていき、トランスはバルトロと二人で迷宮へと向かうことになった。それが修行の対価なのだということに疑念が尽きなかったが、白金級の冒険者の修行代金など払えるような持ち合わせはなく、言われるがままに後をついていくしかなかったのだ。賢者が何かをしたらしく、離れて出歩くことに不都合が起きることはなかった。


「おう、ちょっくら通らせてくれ」

「うん? またお前か……。ふんっ、さっさと行けっ! おっと、そいつはなんだ?」


 狭い路地や雑踏をいくつも通り抜けると、門と思われるところに到着する。鈍色の全身甲冑を着た騎士が立っており、兜で顔が確認できないが、明らかに不機嫌そうな声がトランスを呼び止めた。


「ただの新人教育だよ。プレートを見せてやれ」

「あぁ」

「……ぷっはは。そんな御大層な鎧を着こんでて銅級? せいぜい迷宮に呑み込まれないようにするんだな。いっていいぞ」


 トランスがプレートを見せると、銅級であることを知るや否や警戒を解き馬鹿にしたように口調が軟化する。バルトロの顔色を窺うと、慣れているのか澄ました顔をしていたので、それに倣い会釈をしつつ通り抜けた。


「ついたぞ、ここが王都の迷宮だ」


 しばらくすると、大きな洞穴へとたどり着く。まるで全てを呑み込まんとするような真っ暗な入り口に、思わずトランスは息を呑む。先ほどからすれ違う冒険者達は怪我を負っていたり、ほくほく顔でメンバーと帰ってからのことを相談していたりするのだが、それらがまるで気にならないぐらいに、暗い洞穴に意識を奪われていた。


「ねぇ、大将! そいつ大丈夫?」

「おぅ! しっかりしろ!」

「…大丈夫だ」


 いつの間にか立ち止まっていたようで、バルトロのことを大将と呼ぶ小さな冒険者の声に、バルトロも気づいて背中を大きな手でバシッと叩く。その衝撃で意識を戻すと、顔を軽く振りながら前へと進みだした。パラパラと天井から小さな小石が落ちるのを、煩わしそうにしながらバルトロも先導へと戻る。


「ちーすっ!」

「大将ちわっす!」

「マスターこの前はありがとー!」

「おぅ」


 まだ小さな冒険者達が口々にバルトロへと声をかける。それらに一言だけ返してずんずんと歩みを止めない。まだ子供とも言える年の冒険者達の首には鉄のプレートがぶら下がっていた。柄のついたザルのようなもので、時折迷宮の壁や床からぬるりと生え出てくる透明な液体から石を掬い出す。石を失った液体は原形を保てなくなり、そのまま迷宮へと吸い込まれていく。時折ゴブリンがふと現れることがあるものの、年長者と思われる者が必ず側で見張りをしており、危なげなく倒している。


「あれは?」

「スライム狩りだな。魔石の核を抜くと原形を保てなくなる。ガキどものいい小遣い稼ぎだ。小粒過ぎて大した額にはならないが、危険も少ないし丁度いいのさ。ここいらのゴブリンは丸腰だから、そこそこの腕のあるやつがいればそうそう危険はない」

「なるほど」

「そういや、孤児院のことを聞いた。正直助かった。迷宮にかまけてそっちまで手が回らなくてな」

「出来る事をしただけだ」

「そうか、ありがとよ」


 聞くことを聞き、言いたいことを言えば会話もなく進む。その重苦しい空気に、若干スライム狩り中の子供達が気圧されているが、当の二人はどこ吹く風だ。時折現れるゴブリンやスライムに、トランスの身体は強張り動きが停まるのを、バルトロは目を細めてみていた。


「お前は……」

「なんだ?」

「いや……、何でもない。行くぞ」


 バルトロが一瞬立ち止まり何かを話しかけようとするが、すぐに逡巡するように視線を逸らすと、黙々と歩き始めた。


 しばらくスライム狩りする冒険者達の合間を抜けて進むと、視線の先に赤みを帯びたスライムがぬるりと床から出現する。近くには背を向けてスライムの魔石を取っている最中の冒険者がおり、見張りをしていた冒険者が油断なく剣を構える。それをみたバルトロが血相を変えたように叫んだ。


「なっ!? おいっ! 逃げろ! そいつはユニークモンスターだ!」

「……! 疾走スプリント!」


 バルトロの声に、冒険者は驚愕の表情を浮かべ、飛び掛かって来た赤いスライムに対し剣を振るうがまるでと溶鉱炉で溶かされたかのように触れたところから剣が崩れ落ちる。咄嗟にトランスは新しいグリーヴの力を発動すると、はためから見れば一瞬で移動したかのような速度で駆けた。それでも間に合わず、冒険者との間に割り込むように突き出したトランスの腕を、赤いスライムはまるで呑み込むかのようにして纏わりつき……爆発した。

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