今後の方針
祝100話 ユニーク2000突破しました!
しばらくバタバタしてますが、更新は続けられるよう頑張ります。
「馬……だな?」
「馬……ですね?」
「あうあう……」
トランスの隣に佇むどうみても顔つきがロッシーであるが、馬としか言えない風貌に思わず確かめるかのように疑念の声を上げるトランス達。聞こえているのかいないのか、素知らぬ顔でロッシーの面影を強く残した朧げな輪郭の馬が、顔をそっと背けている。
「ふぅん? その様子だと知った顔同士ってところかな?」
「こいつは驚いたな。精霊化してるのか?」
「森でオーガに倒された猪の森の主と、つい最近世話になった老ロバのロッシーだな」
「「ロバ?」」
「あぁ、ロバだ」
トランスの説明にバルトロと賢者が思わず声を上げる。どう取り繕っても聞こえているだろうと言えるほどに、またロッシーと思われる馬はとぼけた顔をして視線を逸らした。老ロバとは思えない程精悍な顔と体つきに、トランス達の疑念を共有したようだ。魔獣化したときのロッシーの姿が一番それに近いと言えるだろう。
「ロバと猪ねぇ……。いや、睨まないでよ。わかったわかった。馬と猪ね。強い精神と繋がりがあれば精霊化するってことはままあることか。それより問題はこっちだね……」
ロバと言うと鼻息荒く睨みつけるロッシーに気圧される賢者だが、鋭い視線を幻影のように揺らめく女性の姿に移す。共有された感覚からか、寒気と眼球の痛みを覚え、賢者以外からうめき声が上がった。
「別に害を与えようって訳じゃないんだけどね。そっちがその気ならこっちも少し手荒に行かせてもらおうかな? ……存在侵入」
賢者の瞳から、体感でも感じ取れるほどの濃密な魔力が吹き荒れ、黄金色に瞳が輝く。朧気だった女性の輪郭が心なしかはっきりとし出すが、女性が顔を徐にあげたと思った瞬間、何かが視界が遮るようにして暗転する。
「ちっ! 逆に侵入し返してきた!?」
「おいっ! 大丈夫か!」
「賢者!?」
「賢者様大丈夫ですか!」
うずくまるようにして賢者が両眼を押さえており、閉じた瞳から血を流している。脂汗を大量にかいている様子から尋常ではない痛みのようだった。
「今、回復を」
「いい。これは反動みたいなものだから。肉体的損傷とは別だから無駄だよ。それより慌ててリンクを切ったけど、大丈夫だった?」
「あぁ、俺は大丈夫だぜ。お前さんらは?」
「問題ない」
「大丈夫です」
「あぅあぅ」
「……そう、それは良かった」
両目を閉じたまま賢者は立ち上がると、フードを被り直し、何事もなかったかのように話を続ける。
「そっちの女の子の手がかりは教会……出来れば本部のある聖都が望ましいね。鎧君に関しては……すまないが、これですらこの状況では、根源的要素を明らかにする手がかりは難しいかもしれない。鎧の物質的な物ならドワーフに見てもらうってのもありかもね。まぁ、見境なく攻撃するならともかく、見境なく守るって感じだから、害はないと思うよ。性質から迷宮装備に近いものがあるけど……そっちに関してはバルトロのほうが詳しいから聞いておくといい」
つらつらと見解を述べる賢者に、トランス達は一様に頷く。
「まずは近場から迷宮……だろうか。その後聖都を目指すのもありだろうが」
「駄目元で教会に当たってみますか? 王都だし決して小さくはないですし」
「うーうー」
「ちょっと待ってくれない? 君も鎧君についていくのかい?」
「「そう(ですよ)だ」」
何を当たり前のことを、という顔で声をハモらせるトランスとサラ。賢者は少し考えた素振りをすると、バルトロに何かしら耳打ちをする。驚愕の表情を浮かべるバルトロを尻目に、賢者は一方的に条件を突きつけた。
「今のままじゃ必ず大事故が起きる。これが直接修行してあげるから、君は……そこの女の子と一緒に来なさい。鎧君はバルトロと迷宮に行ってもらうから」
「えっ? 賢者様に修行をつけてもらえるのは嬉しいですけど……」
「偶然間に合ったからいいけど。これがいなかったら大量殺人だったんだよ? わかる?」
「うっ……。よろしくお願いします。でもリーゼちゃんはなぜ? あとあまり離れると……」
「それなら問題ない。さっきので少しわかった。これが近くにいればリンクしておけるから大丈夫」
もはや決定事項というかのように話が進んでいく。トランスがどうしたものかと佇んでいると、まるで獲物を逃がさないかのようにバルトロがしっかりと肩を組んでくる。
「お前さんは俺と迷宮に行くぞ。何、白金級の賢者に修行をつけてもらう依頼料みたいなもんだ。何事もなけりゃそれでいい。何事かあれば尚いいがな……」
含みのあるバルトロの言い回しに疑問を覚えるトランス。しかし、サラの魔法のことから、選択肢はないようなものだと気づき、首を縦に振ることしか出来ないのだった。