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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
最終章 たった一つの世界
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15.ラスボスの正体は?

 ベルベット、城下町から南の森まで一足飛びに瞬間移動だ!


 愛用の魔法のマントと一緒に、”時の間”に滑り込んだまでは良かったが……。


「どこもかしこも真っ白で、全然、出口が見つからない。白薔薇城に向かうどころか、これじゃ、迷子と同じだ」


 ユリカ、せめて、俺の名前を呼んでくれよ。そうしないと、俺はお前の元へは、たどり着けない。


 そんな中で、灰色猫の耳に響いてきた懐かしい少女の声。


灰色猫グレイ・マウザー! 私はここ! だから、早く()()()()()!」


 それは、どんなナビより正確な道標みちしるべ

 呼ばれる方に引っ張られてゆけばいい。ただ、それだけなのだから。


 眼下に見えるのは、白薔薇の城のバルコニーだ。こちらに向かって広げた白いレースの袖の両手と、花弁を開いた白薔薇たちが、共に俺を手招いている。


 ”ユリカ”


 灰色の空から、粉雪を彗星の尾のように引き連れて、小柄な魔法使いが降りてくる。


「灰色猫っ、こっちーっ、ここよっ、ここっ! 私の腕の中に落ちてきてぇえええっ!」

「えっ、そこ?」

「大丈夫! 私が、がしっと受け止める!」

「いやいやいや……お前、確か、体育はオマケの3だろ」


 少女が頑張っているのはよく分かった。あの腕の中に抱きしめられるのも悪くはない。

 けれども、地面に落ちてぺしゃんこになる確率の方が絶対に高いと、灰色猫は、マントの裾を両手で掴み、膨らんだマントをパラシュート替わりにゆっくりと少女の元に降りてゆく。

 

「ユリカ、俺の愛しの姫」


 小柄な魔法使いの漆黒の瞳と、少女の甘茶色の瞳が見つめ合う。

 気の早い姫は目を閉じて、騎士ナイトからの口付けを待っている。


 感極まる瞬間だった。このバルコニーで、最初にユリカに騎士の誓いを立ててから、とてつもなく長い時間ときが経ってしまった気がする。

 灰色猫は、やけに纏わりついてくるマントを、そっと後ろにはらって、ユリカの頬に手を触れた。

 バルコニーの白薔薇たちも、甘い香りを盛大に醸し出して、彼の後押しをし始めた。


 そう、『ナイチンゲールと紅い薔薇』なんてクソくらえだ。

 いまの俺には、赤い薔薇なんて、一片の花びらさえもいらない。


 薄桃色の少女の唇に顔を近づけてゆく。

 そして……次の瞬間、


 ズドオオオオオンンンンッ!!


 バルコニーの床を城ごと突き上げるような破壊音が、南の森で炸裂した。


「なっ、何だ!」


 百合香を自分の背に回し、バルコニーの手すりから音の方向に身を乗り出す。南の森の中ほどから、もうもうと巻き上がる白煙と、その後方に見える騎馬隊の姿に、灰色猫はちっと舌を鳴らした。


「京志郎かっ、あの戦闘狂めっ、よく考えもしないで、ミラージュたちと南の森の()()()()()()を攻撃してやがる」

「えっ、京ちゃんが、また、何かやってんの! ちょっと、待って。私が持ってる宝の塚歌劇用のオペラグラスで、もっとよく見……」

「ユリカっ、それ、ちょっと貸せっ」


 百合香が取り出したオペラグラスを引ったくって、白煙があがっている建物を見やってから、灰色猫は眉根を寄せた。


 煙をあげているのは、2階建ての一軒家か……けど、この辺りの煉瓦の家とは、随分と違った外観だ。2階の部屋の窓には、小花の地模様が入ったクリーム色のカーテン。窓のすぐ近くには木製の机……。

 ん? あのカーテンって、どこかで見たことがあるような気がするが……。


 その瞬間、灰色猫はあっと驚きの声をあげた。

 以前、京志郎と初めて出会った時に、ナイチンゲールに導かれて訪れた”開かずの館長室”のことを思い出してしまったからだ。


「待てよ、待て、待てっ。あの南の森の家って、京志郎がいた図書館の2階の……謎の館長の部屋じゃねぇのか!」


 その時、オペラグラスを奪い返した、百合香が言った。


「あららっ? あの部屋のカーテン、()()()()()()()()()()


 灰色猫はますます表情を険しくする。


「……そういえば、あの時」


 京志郎は言ってた。「この館長室と”姉ちゃんの部屋”は全く同じだ」と。そして、俺たちが訪れた時に机の上に見つけたノートには、この魔法の国の出来事が、事細かに記されていた……。


 激しく打つ心臓の鼓動をどうにか抑えて、灰色猫は百合香に問う。


「ユリカ、謎の館長って、やっぱり、お前だったのか? まさか、お前が俺たちの国をこんなにややこしくして、未だに、そんな話を書き続けている”張本人”か!」

「え? 何のことか、私、ぜんぜん、分からない」

「本当に……本当かっ、 お前がこの茶番劇のラスボスってわけじゃないんだな」

「んっ? ラスボス?」


 きょとんと瞳を瞬かせている少女。

 灰色猫には、ユリカがそんな奸計かんけいを巡らすような輩には、どうしても見えなかった。よくよく考えてみれば、ミラージュにさらわれたり、”滅びの歌”で消されたりで、あのノートの続きを書く時間など、なかったはずだし。


「ならば、あの部屋にいるのは、いったい、誰なんだ?」


 その時、再び、南の森の方から爆音が響いてきたのだ。


「京志郎を止めるんだ! あの謎の館長に下手に攻撃すると、多分……いや、絶対に、後でもっと面倒なことになっちまう」


 灰色猫はバルコニーの手すりに飛び乗って立ち上がり、南の森に向かって、右の拳を差し出した。京志郎たちを今はとにかく、ここに呼び寄せるんだ。

 目を閉じて拳の中に力を蓄えてゆく。そして、左手を右手に添えると、高く声を上げた。


「移動魔法! われが名を呼ぶ儕輩さいはいたちよ。来よ、我の元に!」 


 灰色猫が右の拳を開いた瞬間に、南の森に向かって走りだした魔力の光。

 バルコニーの上に座って、光の軌跡を見届けている魔法使いのマントの裾をつんと引張り、少女が尋ねた。


「ねぇ、ねぇっ、灰色猫グレイ・マウザー、今のって、すごいわ。あれ、あんたのオリジナルの魔法の呪文? でも、”さいはい”ってどういう意味?」


 感心することしきりのユリカに、こんな切羽詰まった状況の中でも、気分はけっこう高揚する。

 灰色猫は、後ろを振り向くと、


「俺に呼ばれた”儕輩おともだち”は、さっさと、ここに来いって、ことかな。まぁ、京志郎やミラージュたちは、”お友だち”ってわけでもないけど」


 そう言って、くすりと笑った。




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