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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
第一章 ジオラマの国
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8.近衛兵長 ミラージュ 

「俺の気楽な森生活ウッデイライフを乱す奴は斬る!」


 シーディの手前の首が一つ、飛んだ。


「白魔女に媚びる奴も斬る!」


 二つ目の首も飛んだ。


「だ・か・らっ、とっとと消えろっ、この雪玉野郎っ!」


 三つ目の首が氷の塊になって、吹っ飛んだ。


 吹きすさんでいた雪嵐が止み、ホワイトアウトの”白い空間”に閉じ込められていた視界がようやく開けてきた。バスタブの後ろで事の成り行きを見守っていた百合香は、また、あんぐりと口を開いてしまった。

 シーディが挑んでいた”敵”から削ぎ落された五角形や菱形の雪の結晶が、ちらちらと輝きながら目の前に流れて来る。


  ここは京ちゃんが作ったジオラマの国……何が出たって不思議じゃない。けど……。


 前方に並んでいる”大中小の雪だるま”には、さすがに驚かずにはいられない。


「ゆ、雪だるまぁ……近衛兵って、雪だるまなの?!」


 その中で一番、大きな雪だるまと対峙したシーディは、流星刀ミーティアソードを正面に向けるとふんと鼻を鳴らした。


「近衛兵長ミラージュ! そのふざけた姿で、俺の前に現れんなって言ってるだろ!」


 一直線に大雪だるまに斬り込む。流星刀の名の通り、シーディの剣先は流れ星のごとく厚い氷も貫通させる。ところが、


似非えせ剣士! お前も魔法使いの端くれなら、もっとそれらしく魔法で攻撃してこいっ!」


 ”近衛兵長ミラージュ”が吐き出した吹雪に気圧されて、攻撃を阻止されてしまった。


「くそっ、デカ雪だるまがっ」

「ふん、”シーディ” その名の意味を俺は知っているぞ。― とるにたらない者 ―  。()()が、なぜ、そんな名をつけたのかは知らないが……ちっぽけなお前には、お似合いの名だ!」


 皮肉な笑みを浮かべたミラージュは、 縦は3倍、横幅はシーディの5倍以上もあるだろうか。そのボディは一点の汚れもない白で、瞳は、ただの石炭? の割には、えらく眼光が鋭い。反対にシーディは、身長では百合香と同じか、へたをすれば小さいかもしれない。


 俺の名前にケチまでつけやがって……でも、このままじゃ、絶対に勝ち目なんかないぞ。


 シーディは、吹雪にさらされて体温が下がり、徐々に感覚が無くなってゆく自分の体を慮った。ミラージュが大きく息を吸い込んだ。


 次に氷風の攻撃を受けたら、俺は完全にノックアウトだ。


 大雪だるまの近衛隊長が、息を吐きだそうとした瞬間、


「ごめん、ユリカ!」


 シーディは、今はファーコートに変化している魔法のマントに命令した。


「あの吹雪を止めてくれ! ええっと、”Shield(シールド)”! 」


 百合香の体をするりと離れて、シーディの元に飛んだファーコート。それは、吹雪を阻止する()()()に変化した。


「きやぁぁぁああああ!! 何てことすんの!」


 再び、バスタイム姿に戻ってしまった百合香は大慌てで体をバスタブの裏に隠した。寒いっていうか、その時、彼女の方向に目を向けたミラージュに、()、まる見られじゃんか。

 案の定、


「ほぉ……、何かと思ったら、可愛らしいお嬢さん。しかも、こんな場所で大胆な姿で、シーディも隅におけないな」


 ミラージュは、低音の魅力たっぷりの声でそう言った。百合香は不覚にも、その時、胸がときめいてしまった。なぜって……こちらに向けられた石炭の? 視線が、やけにかっこいい。


 雪だるまに、ハダカを見られて、可愛いって褒められて、嬉しいって……カオスすぎる!

 いや、だめでしょ。このまま、倒錯の世界に入るわけにはゆかない。


「シーディ! 負けちゃ駄目! あんな漫画みたいな敵に負けたら、末代までの語り草よ!」


 その時だった。百合香が後ろに隠れていたバスタブから、大量の熱湯がミラージュに向けて浴びせかけられたのだ。


「あっ、くそっ!」


 見る見るうちに溶かされてゆく体。百合香に驚いたような視線を向けると、雪だるま”のミラージュ”は、口元で微かに微笑んだ。(くっつけられた枯れ木の口だが……)


「お嬢さん、なかなか出来る。それに愛らしい。……その男の嫁になるくらいなら、俺がさらってゆきたいくらいだ」


 そんな”素敵”な台詞を吐きながら、ミラージュは”撤退”の合図を他の近衛兵に送り、雪の大地に消えていった。


 寒風が収まり、青い空と日の光が戻って来た。

 シーディは、盾に変化した魔法のマントに、再びファーコートに戻ってもらう。それから、百合香の上にそれを投げかけた。


「ごめんな。百合香、寒かった? でもさ、俺、ちょっと、気が付いたんだけど……」

「……気が付いたって? 私のこと?」


 百合香に、小柄な魔法使いは首を振る。


「ううん、そうじゃなくて、そのバスタブ……」

「このバスタブ?」

「うん。それってさ……」


 はぁ?と、隠れていたバスタブの後ろからきょとんと顔を出し、眼を瞬かせた少女。シーディは、その茶色の瞳に快さを感じながら、四隅に突いた金の猫足をパタパタし始めたバスタブを指さして言った。


「魔法の力を持ってるぞ」

「はあぁぁぁっ!!」


 そんな魔法使いと、少女の様子を近くの木立の中から、一羽のナイチンゲールが眺めていた。首を少し傾げてから、褐色の尾をふるふると震わすと、その鳥は甲高い声で歌を歌った。



”嘘は真実まことか、真実まことが嘘か


 暮れぬ朝、明けぬ夜を飛び越えて


 雪の宴は真っ盛り”

 

 

 そして、雪空の向こう ― ジオラマの国の支配者がいる場所に、くるりと身を翻した。

 


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