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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
最終章 たった一つの世界
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6. 最強兵器現わる

 北の丘では、百合香の体を鍵爪で掴んだ大鷲が、停止飛行ホバリングを続けていた。

 眼下では、大雪だるまが、自分の体内に閉じ込めた魔法使いをあざ笑うように、小刻みに体を揺らしている。

 そう、非常事態なのだ。今、助けてやらないと、氷点下の雪玉の中で灰色猫グレイ・マウザーは、間違いなく凍え死ぬ。


「ミラージュっ、もっと、もっと、あの大雪だるまに近づいてーっ!」


― 姫っ、落ちなくなければ、暴れるな。 それに、姫を掴んだ俺の足元がもの凄く熱いんだが ―


「そんなことは、どうでもいいからっ、ミラージュ、誓って! 何があっても、絶対に、絶対に、私のことを離さないって」


― お、おうっ……誓う ―


「ありがとうーっ! 私はあなたを()()()()()信じてるっ」

 

 ミラージュは焦ってしまう。これまでは、自分が一方的に仕掛けるアプローチを百合香が慌ててかわすのがお約束で、ある意味、それに快感カタルシスを感じていたのに。


 だが、この娘、一体、どうなっているんだ。体が焼きこてみたいに熱くなってゆくぞ。それに、重いっ。いや、誓いをたてた限り、俺は、絶対にこの娘を離すわけにはゆかない。


 風切羽を下ろすと、大鷲姿の近衛兵長は、敵に向かって急降下していった。


 空からの襲撃を察知した()()()()()()()が、ぎりりと首をこちらに向ける。


 ― ううっ、あつっ、姫っ、どうするつもりだっ、このままでは、こちらも白魔女の攻撃を受けるぞっ ―


 さすがに、呻き声をあげずにはいられない。ミラージュが足元に目を落とすと、少女の顔は真っ赤で、頬はきんきんに膨らませた風船みたいに膨らみ、目は血走って……これ、ヤバいんじゃないのか!


 大雪だるまが炭団の口から氷柱の弾丸を吹き出した。それと同時に、百合香の胸の【RINNAI】の文字が、黄金色に発光スパークした。

 大鷲に身をまかせ、両手の拳をぎゅっと握りしめた少女が、敵に向かう。


 見よ、自宅風呂と一心同体となった、少女の心意気を!

 最大値にまで煮あがった、24時間風呂の効能を!


 氷柱の弾丸を、ミラージュが斜め飛行でかわした瞬間、


「ぷうぅぅううううううっっっ!!!!!!」


 百合香の口から、凄まじい勢いで吹きだれた間欠泉かんけつせんまがいの大量の熱湯。


― 貴様ぁああああっっ!―


 大雪だるまの怒号を、もうもうと立ち込める湯煙が圧倒的な熱量で打ち消してゆく。

 ほどなく、溶け始めた大雪だるまの体から、小柄な魔法使いの体がぽとりと雪の丘に吐きだされた。


「あっ、マウザーがっ! ミラージュっ、放してっ、私を早く放してぇっ!」


― おい、おい。さっき、絶対に放すなと言った言葉はどこへ行った? ―


 けれども、俺が瀕死で白薔薇城の城門に落ちた時にも、形振りかまわず、この娘は俺のことを助けてくれた。


 これこそが()()()()()


 ミラージュは百合香を雪面にぶつけないように低空飛行し、下へ下ろしてやった。雪の上に倒れた灰色猫が微かに動く。そちらへちらりと目を向けると、ミラージュは再び空に舞い上がっていった。


 爛れた鉤爪の足がぢくぢくと痛む。だが、休んでいる暇はなさそうだ。

 体の半分を溶かされた大雪だるまから、怪しげな寒気が漏れだしている。崩れた雪塊をかき集めて、白魔女が自分の体を再構築し始めているのだ。ミラージュが鉤爪でえぐり取った両目は潰れたままだったが、ベルスリープの袖から出た両腕が元の位置に作り直されていた。


*  *


「マウザーっ、しっかりしてっ」

 

 ぎゅっと抱きしめられた感触が、あったかくて、柔らかい。……というか、熱い!

 凍結の憂き目から開放された灰色猫は、涙目で彼を抱き起こしてくれた少女の顔をまじまじと見た。

 半端なく真っ赤だった彼女の頬の色が、徐々に薄れてゆく。白魔女に凍りつかされる前に、諦めがちに見た赤い星の色とそれが重なる。

 

 ユリカ、お前は……


 だが、その名前を口にする前に、


「ん、何だ、これ?」


 灰色猫は、百合香の胸の上で輝いていた【RINNAI】の文字に気づいて、無遠慮にそれに手を伸ばした。


「いやぁああっ、どこ、さわってんの!痴漢っ」

「えっ、違うっ、俺は()()()()()()()()が気になっただけでっ」

「そんな言い訳、聞かないからっ」

 

 百合香の剣幕に押されて、灰色猫はなす術もない。その時、激しく羽ばたく音と共に、空から叫ぶ声が聞こえた。


― お前たち、遊んでないで逃げろっ、白魔女の攻撃が来るぞ!―


「ミラージュっ?」


 慌てて顔をあげた灰色猫が、百合香の背中越しに見たモノ。

 それは、再構築され、氷の体を得た白魔女が歪んだ笑みだった。次の瞬間に振り下ろされた、鋭利な刃物めいた氷柱と化したベルスリープの両の袖。それが、白魔女の胴体を離れて、百合香の背中へ飛んできた。


「ユリカっ、伏せろっ!」


 だが、間に合わない。

 灰色猫は万事休すかと、目を閉じる。


 守りきれないっ

 

 ()()()()()()()()()という負の言葉が、脳裏を過る。


 ところが、絶望の魔法使いの耳に響いてきたのは、氷柱に貫かれた少女の悲鳴ではなく、耳をつんざく砲撃音だった。

 氷柱の袖と白魔女の氷の体を打ち砕き、頭上に雨あられと降ってくる氷の残骸。そして、狂ったような焦熱の連続砲撃。

 少女を胸に抱いた姿勢で、灰色猫は皇宮の方向を唖然と見る。

 突進してきたのは、厳めしい大型戦車と、砲塔の出入口をパカッと開いて姿を現した黒ロングエプロンの少年。


 相良京志郎っ? ……で、あの乗り物は何なんだ!?


「京志郎っ、てめェっ、何を持ち出してきやがったっ。魔法の国をぶっ壊すつもりかっ」


 驚きを隠しきれない中世の魔法使いに、第二次世界大戦・ノルマンディ上陸作戦仕様の戦車に乗り込んだ少年は、勝ち誇った雄叫びの声をあげた。


「ははははっ、見たかっ、弱者どもめ! これが僕が作った最大・最強の秘密兵器、”タミヤ1/48 ()()()()()()()()クロムウェルMk.Ⅳ”なのだあぁあっ!!」


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