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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
最終章 たった一つの世界
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3.いいね♡無双!

 頭上で羽ばたく大鷲を見上げて、百合香は怒りの声をあげた。


「ミラージュっ、マウザーのことをポンコツって言うのは止めて。 それに、何で、あいつをおいて、こっちに来ちゃたのよ」


 その言葉に賛同して、ベルベットも大きくうなずく。だが、巨大雪だるまの影が、蛇が這い寄るように丘の下にいる近衛兵たちに伸びてきた。

 魔力を宿しているベルベットは、誰よりも早く邪悪な魔力を感じとることができた。それが主である灰色猫グレイ・マウザーを目の敵にしている()()()のモノならば尚更だ。 


「みんな、退がって! あれには絶対に触れないで!」


 影の先端がずるりと五つに分岐した。

 呪いまみれの暗くて巨大な五本の指の影が、雪の丘に指を広げる。両腕を斬られてもなお残る白魔女の執念……灰色猫が大雪だるまの首を斬ろうと悪戦苦闘している隙をついて、白魔女が送り込んできた虚影。それが、むくりと白い雪の上に指先をもたげて近衛兵たちを手招いた。

 

 ― 汝らの女王の御手に口づけよ。そして、日々すがら、母のようにお前たちを導いた我に、変わらぬ忠誠を誓うのだ ―


 上空からミラージュの絶叫した。


 ― お前たちっ、後へ退がれっ!! あれは白魔女の送り込んできた呪いだ。あんなものに飲み込まれるなっ ―


 だが、それには耳を向けず、近衛兵たちは、夢遊病者のように大地に膝まづくと、雪上の手の影に口づけた。


「ううっ」

「ひぃっ」

「うわぁ」


 その叫びと共に、近衛兵たちの姿が、突然、消えた。

 そして、ずらりと姿を現した ― 白くて、丸くて、固くて、冷え冷えして、見ようによれば、可愛い…… ―


 大中小の()()()()()


「いやぁああ、また、それ!?」


 百合香の背筋に悪寒が走る。

 美しかった白薔薇城を、見るも無惨に破壊し朽ち果てさせた雪だるま兵と、シーディとのすったもんだの戦いを思い出してしまったからだ。

 雪だるまに変貌した近衛兵たちの口元が、一斉に、まとの少女に向けられる。

 かつて、その攻撃を最前線で指揮した近衛兵長ミラージュは、彼らの性能を知り尽くしていた。


― 逃げろっ、姫っ、雪毒玉で体を溶かされてしまうぞっ ―


「ひやぁあ、また、あのねちっこい()()()の攻撃がくるの? ベルベットーっ、どうにかしてええっ」


 乙女型を解いたベルベットがくるりと体を翻す。


「頼まれれば応える! 私は、大魔法使い、灰色猫グレイ・マウザーの命を受けた()()()()()()


 白い甲冑(アルヌアブラン)


 布地の襞に百合香を包んだベルベットが白光スパークする。


 聖女ジャンヌ・ダルク仕様の白銀色のバシネット付き甲冑(プレートアーマー)


 白薔薇城の戦いでお目見えした伝説の防具に変身したベルベットが、再び、がしりと百合香に装着し、重くて鈍い音を響き渡らせる。そして、間一髪のタイミングで、雪だるま兵から吹き付けられた毒雪玉を弾き飛ばした。

 同時に、武装した百合香の耳の中に流れてきた甘ったるい声。


 いいね♡ いいね♡ いいね♡ いいね♡ いいね♡


 何っ、これ。けどっ、急にやる気がみなぎってきた。


 第二弾の雪毒玉が、雪だるま兵から放たれる。つい先程まで、怖いと恐れていた敵の攻撃が今は何だか嬉しくてたまらない。

 百合香は、白銀の甲冑籠手ガントレットの拳を握りしめ、腕をぐぃんと後ろに引いてから、飛んでくる雪毒玉に、


「おおりゃぁあああっ!」


ストレートパンチを食らわせた。


「あははははっ、楽しいっ」


 雪だるま兵が連射した雪毒玉を素早いパンチを繰り出して、砕く、砕く、砕きまくる! 百合香に壊された雪玉は飛び散って、アイスクリームが溶けるみたいに光の中に消えていった。


 爽快! 私、今、怖いもんなんて何もないしっ。


 戦いに酔いしれた百合香は一歩、二歩と前に進み出ると、後退あとずった雪だるま兵に拳を向けて、声高々に言ってみせた。


「どこからでも、かかってきなさあぁぃっ! 体育はオマケの3だなんて、前に言われたこともあったけど、そんなの全部、撤回させるっ。白魔女の側についてマウザーを虐める奴は、この私が木端微塵に叩き壊してやるんだからっ」


 意気込みが凄すぎる武装の少女。

 

 ― ああなった姫は誰にも止めれない。雪だるま兵は、後でまた修復してやるとして、今は傍観するのが得策か ―


 大鷲姿のミラージュは、半ば呆れ、半ば期待混じりに、空を旋回しながら、次に来るであろう不測の事態に備えるのだった。



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