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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
第一章 ジオラマの国
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7. 魔法使いより剣士

 魔法ジオラマの国の雪の森。

 シーディは、ファーコートに身を包み、足湯を楽しんでいる百合香を目の前にして、頭を痛めていた。こんな娘はさっさと見捨てて、家に帰ってしまいたい。でも、この娘が()()()()()()に連れてゆかれて、”性悪の魔女”の拷問にあったりしたら、余計に後味が悪い。


「なぁ、ユリカ、とりあえず、俺ん家に来る? ここにそんな恰好でいたら絶対に近衛兵に見つかって、しょっ引かれてしまうから」

「シーディの家に?」

「うん、ここからすぐだから」


 むっつりと黙り込んでしまった百合香。近衛兵……もしかしたら、あのイケメンのフィギュア隊長がいたりして? 弟が作っていたフィギュアのことを思い出して、ちょっと胸がときめいた。……が、それは別として、こんな得体の知れない男の家に行ってもいいものだろうか。

 でも……


「変なことしないなら、行ってもいい」

「……おいっ、親切で言ってやってんのに、何で俺がそんな風に疑われなきゃいけないんだよ!」

「だって、一応、念は押しておかないと」

「何もしません! さっさと後を着いて来いよ……。えっと、お前、そのバスタブ以外に持ち物ってないの? 」

「今、持ってるのは、この『ナイチンゲールと紅い薔薇』の英語教本だけなんだけど……」

「マジか……靴とかは?」

「ない。でも、シーディは、魔法使いなんでしょ。なら、魔法でササっと靴くらい出してくれればいいのに?」

「……無理。さっき出した風呂の泡が、今の俺の力じゃ精一杯だ。俺の魔法は気まぐれにしか発動しないから。頼りのマントはもう、そのドレスに変化させちまったし……」


 百合香は眉をひそめる。仕方がないだろと、シーディは口を尖らせたままだ。


 シーディの魔法の力は、並以下……というか、彼の言うようにとても気まぐれだった。

 一度使った呪文は、二度は発動しなかった。おまけに呪文の効果が現れるのに時間がかかった。それなのに、時にとてつもなく大きな魔法が使えてしまうこともあるのだ。

 

しゃくに障る。魔法に関しては、おじいちゃんの形見のマントの方が俺より有能だなんて」


 シーディは口を尖らせた。実は彼は大魔法使い”灰色猫グレイ・マウザー”の孫で、ゆくゆくは、3代目”グレイ・マウザー”として、その名を継承するはずの男なのだ。けれども、今一つ、自分の魔法力に自信の持てない彼は、今だに3代目を名乗る覚悟が出来なかった。


「え~と、俺の家まで雪道を歩くのは……さすがに裸足じゃ辛いか……俺のブーツでも履くか」

「でも、それじゃシーディは?」

「ん、靴下はいてるから、何とかなるだろ」

「そんなの、足が凍えちゃうじゃないの」

「家、近いから」


 ほらっと、仏頂面で脱いだブーツを百合香に投げると、雪の道を歩き出した魔法使い。手招きする青年の姿は小柄で、足元はものすごく冷たそうだった。


 こいつって、意外と、いい奴かも。


 百合香が表情を和らげたのもつかの間、


 キィンンン……


 日の光が翳り、乾いた風切音が聞こえてきた。

 雪混じりの鋭い風が吹いてくる。気温が一段と下がり、突然、視界が遮られた。やっと、見慣れたはずの雪景色が、あっという間にホワイトアウトした。


「ヤバいっ! 近衛兵たちに見つかったんだ! あいつら、吹雪を操るんだ。あれに取り囲まれたら、ひとたまりもないぞ!」

「近衛兵っ? そ、そんなこと言ったって、ど、どうすればいいのよ?!」

「とりあえず、ユリカはバスタブの後ろに隠れとけっ!」


 百合香が大慌てで、バスタブの後ろに回ったのを見届けると、シーディは、目にもとまらぬ早業で、背中の鞘から流星刀ミーティアソードを引き抜いた。流星の欠片で打たれた剣で、これも祖父の遺品の中から見つけたものだ。

 流星刀を目元で構えると、シーディは耳元を過ぎてゆく風切り音に耳を澄ませ、見えない敵の位置を探る。


 真正面から来る!


 第一陣に飛んできたひょうの塊。それをひょいっと飛びかわし、第二陣の白い息吹を潜り抜け、流星刀で第三陣の大雪玉を真っ二つに斬り裂く。


 その見事な剣技を披露した間は、わずかに5秒。その瞬く間に、周りには切り取られた雪の残骸が積みあがっていった。

 魔法を使うより、剣で戦った方がよほど早い。


「シーディって……魔法使いよりも、剣士の方が向いてるんじゃないの」


 バスタブの後ろに隠れていた百合香は、そう思わずにはいられなかった。



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