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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
第六章 白魔女 vs 灰色猫
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1.白魔女”第二形態” (挿絵あり)

「外は派手にやってんなあ。もう、ちょっと静かにしてくれないと、気が散ってたまんないんだけど」


 魔法大皇帝マジックエンペラーこと相良京志郎は、半壊してしまっている皇宮の地下で、模型用のニッパーを手にしながら盛大に顔をしかめた。


 とはいえ、静かになりすぎるのも、かえって不安か。


 騒音が響いているということは、白魔女と、灰色猫グレイ・マウザーやミラージュたちの戦いがまだ続いているということだ。けど、あいつら、ちゃんと姉ちゃんを守れてるんだろうな。

 

 防空壕から持ち出してきた作業袋の中には、どういうわけだか、京志郎愛用のミニチュアゲーム用のジオラマキットが一通り揃っていた。作るのを楽しみにしていたミリタリーモデルのセットもだ。

 灰色猫に真っ二つに斬られてしまった机をどうにか立て直して、その上で作業を続ける。


 姉ちゃん、待ってろよ。今、作っている()()()()()()が完成したら、すぐに助けにゆくから。


 ふと、頭の上にむず痒いような視線を感じて、京志郎は上に目を向ける。すると、天井の梁に止まった小鳥が褐色の尾をふるふると振るわせ、もの珍しそうに、こちらを見下ろしていた。


「ナイチンゲールっ、性懲りもなく、また、戻ってきたのか。あの英語教本の話の中では、お前は恋する少年のために、命まで捨てたんだろ? 少しはそれを見習って、灰色猫にも情けをかけてやれよ」


 何のこと?と、言いたげに、ナイチンゲールはチチチッとさえずる。


 恋する少年……か。

 少し考えても、浮かぶのは姉の顔くらいだ。アホらしい。僕は、色恋にかまけている暇なんて、今はないんだから。


 そんな少年の肩に止まろうとナイチンゲールが天井の梁から下に降りてきた。

 京志郎は、あっちへ行けと、それを直ぐ様、手で追い払った。


*  *

 

 北の丘の頂上では、灰色猫の突風スコールで吹き返された雪塊が、崩落寸前の雪の堆積場のようにうず高く積重なっていた。

 その中央部分がボロボロと崩れ落ちたのだ。すると、その奥からわなわなと体を震わせた白魔女が姿を現した。

 両の瞳を赤くたぎらせ、クールビューティを気取っていた氷の微笑は怒りの熱で溶かされ、顔は醜く歪んでいる。ミラージュに切断されて右腕は無く、もう片側の破れたベルスリープの袖から出た左手は、だらんと下へ垂れ下がっている。


 灰色猫が甲高い声で敵をせせら笑った。


「白魔女よ、口ほどでもないな。もう、魔力切れか」

「おのれ、おのれ、おのれ……灰色猫グレイ・マウザーっ。このままで、済むと思うなよっ」


 青空の向こうから近づいてくる雷鳴の音。

 白魔女のぜいぜいと喘ぐ声が、丘の下にまで響いてくる。


 酷く恨めしげで、執念深い音が。

 

 固唾を飲みながら、戦況を見守っていた百合香と近衛兵たちの背筋に悪寒が走る。()()()()()()()()()()()()のだから。

 案の定、 空が突然、稲光った。だが、白魔女が次の攻撃を仕掛けてくる前に、灰色猫はぴょんと後ろに飛びのき、入れ換えに、ドームの後ろから眩い光が迸った。その中から現れたのは……


 ― させるかっ、お前の息の根はここで止める! ―


 緑の瞳を輝かした一羽の巨大な大鷲。


― 近衛兵長ミラージュ?! お前っ、まだ生きておったか! だが、我に断りも無く、その姿になるとは、言語道断っ ―


 ― 俺にも子細はよく分からん。ただ、俺は願った。こんな場所で負けるわけにはゆかないと!  ―


 その時、俺はすぐさま、奴の言葉を思い出した。


 ”流星刀ミーティアソードは大魔法使い、灰色猫グレイ・マウザーの剣。持っていて損はないぞ。その切っ先は、必ず、何らかの魔力的な奇跡を起こす”


― 流星の奇跡が俺を大鷲の姿に変えたのならば、その力を享受するまでだっ。まずは、貴様の目を潰すっ、その淫乱な赤目を二度と俺に向けるな! ―


「ぎゃあああっっ」


 大鷲の鋭い爪が、白魔女の両目をえぐりとる。いや、それは、かつて近衛兵たちをいたぶった()()()()()()()だ。


「ミラージュ、貴様あっ」


 痛みと怒りで、きりきり舞いをし始めた白魔女。崩れだした顔面の口元からあげる咆哮は、ケダモノの雄叫びとしか思えない。

 居合わせた者たちは恐怖で怯えだした。

 ただ一人だけ、風に乗って、一つ、二つ、三つと、手元に集まりだした流星の光を受け取った大魔法使い以外は。彼は器用に光をこね合わせて、それらを一本の剣に再構築する。


「おかえり、流星刀ミーティアソード! ミラージュに貸してやったけど、やっぱ、お前の使い手は、()()()ゃなくて、()()()だな」


 灰色猫は目にも留まらぬ速さで愛剣を構え、


「白魔女っ、お前の左腕ももらうっ!!」


 白魔女の左袖を狙いすまして斬り込んでゆく。


「ぐアアあああああっっっ、おのれ、灰色猫ぉ!」


 右腕を失くし、両目を大鷲に潰され、左腕は灰色猫に斬られ、全ての力の源を封じ込まれた白魔女が、断末魔の悲鳴をあげる。

 ついに戦いの雌雄は決した……誰もがそう思った。

 ……が、

 

「まだじゃっ、まだ、我は負けてはおらんぞぉおおおっ!」


 凄まじい揺れが北の丘を波打つように震わせた。盛り上がる雪塊が、白魔女の体を覆い始め、それが見る見るうちに巨大化してゆく。

 顔に雨あられと降ってくる氷の欠片が、睫毛まつげを凍りつかせる。それらをぬぐい、真正面に生まれつつある巨大生物?を目にした時、百合香と近衛兵たちは、上を見上げて、あんぐりと口を開けた。


「あ、あれって、もしかして……」


 3階建ての建物くらいの高さのある巨大な雪だるまが、炭団の眉を吊り上げて、彼らを睨みつけていた。

 仕切り直しか。チッと舌を鳴らすと、灰色猫グレイ・マウザーは、流星刀を再び構え直す。


「白魔女”第二形態”は、クソっでかい雪だるまか。確かに、あの姿なら今の白魔女にはうってつけだ。なんたって、手足が必要ねぇからな」


 灰色猫の腰に絡みついていた一本鞭は、すでに主の命令に従うべく、灰汁色あくいろの光を放ちだしている。空には大鷲に変化した近衛兵長が旋回し続けている。


「ベルベット、丘の下に退避している皆を守れっ。近衛兵長ミラージュっ、白魔女は俺が倒す。その他の指揮はすべて、お前に任せた!」


 流星刀を強く握りしめる。そして、灰色猫は、大雪だるまの方へ、疾風の如く斬り込んでいった。





                       挿絵(By みてみん)



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