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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
第六章 白魔女 vs 灰色猫
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12. 俺は天才級の魔法使い 

「マウザーっ、 立ちションなんて小学生にも劣る所業よっ、し・か・も、敵の目の前で! そ・れ・も、戦闘中に!」


 背中越しに聞こえる百合香の声を知らぬ顔で受け流し、灰色猫グレイ・マウザーはチュニックシャツの裾をわざとらしく、めくったりする。


「あ~、ダメだあ。もう、漏れそう~」


 さすがに、これには、白魔女も黙りを決め込むわけにはゆかなかった。


「は、灰色猫っ、我の神聖な氷壁のドームに、かようなけがれを放出するなど、下衆の極み! そんな真似をすれば、お前に”吹雪”と”雪崩”と”落雪”に閉ざされる()()()()()()()極刑が下るぞっ」

 

 激昂した白魔女の声が大きくなるにつれ、籠っている氷のドームの壁の厚みが薄くなる。

 そうそう、もっと、怒れ。怒って貯めた力を失ってしまえ、灰色猫がにやりと笑う。


「”吹雪”と”雪崩”と”落雪”に閉ざされる()()()()()()()極刑? くすっ、勿体もったいつけやがって。それって、結局は同じことを言ってるだけじゃん。”雪に埋めてやる”で事足りるんじゃね? お前さ、もっと、簡潔な言葉を使えよ。それに、この雪降る国じゃ、そんなの今更、怖くもないし」


「ううっ、その不遜な口を閉じないと、お前にもお前の仲間にも、()()()()()()がもたらされるぞ!」


「はっ、それは、底辺の魔女や占い師が、脅しに使う套常句だ」


「くっ、お前の愛する者には最大の災いを……」


「おお、人にとっての最大の弱みをついてきたか。だが、及第点にはほど遠い。せめて”骨の髄まで呪う”とか、”髪の先まで凍りつかせる”ってなフレーズを入れないと、具体性に欠ける」


「ええいっ、イラつく奴めっ」


 ついに白魔女の我慢が限界を通り過ぎてしまった。その証拠に、固く体の周囲を守っていた氷のドームの壁が見る見るうちに溶けてゆく。白濁し、中を見通せなかった氷の内側に、わなわなと憤る白い姿が現れる。つり上がった眉の下で、白魔女が黒魔女から借りた両の赤目が、ぎらりと嫌な光を放った。

 邪心を穿つ灰色猫の漆黒の視線と、毒気まみれの赤目の視線が交わる。その瞬間、白魔女を覆っていた氷の壁がどろりと溶けた。


「今だ、ミラージュっ、白魔女の袖をぶった斬れっ」

「了解だっ、灰色猫グレイ・マウザーっ!」


 その瞬間、氷のドームの後ろに控えていたミラージュが跳躍した。白魔女の背後からベルスリープの右袖に向けて、袈裟懸けに流星刀ミーティアソードを振り下ろす。


「イアアアアアアッッ」


 振り抜くだけで、胴体から斬り放された白魔女の右腕がするりと宙を舞った。氷柱のフリルで固く強化されているにもかかわらずだ。さすがは大魔法使いの至極の剣と、ミラージュはその斬れ味に心躍らす。


『よく聞け、ミラージュ。流星の欠片で鍛えられた流星刀ミーティアソードを以てしても、白魔女の凍りついた体を一刀両断にすることはできない。だが、白魔女の放つ吹雪は、すべてドレスの袖から吹き出している。だから、あのクソ女の両腕を斬ってしまえ、スパッとな。そしたら、白魔女の攻撃力はないも同じだ』


 灰色猫に、耳打ちされた言葉が、ミラージュの脳裏に蘇る。


「よしっ、次は左腕をもらうっ」


 しかし、そうは上手くはゆかなかった。


「おのれ、ミラージュっ、この裏切り者めがあっ」


 左のベルスリープの袖口から、ミラージュに向け放たれた氷柱つららの弾丸。


「ぐああっ!!」


 それは、彼の胸元を真っすぐに貫いた。


「ああっ、ミラージュがっ!!」

「隊長ーっ」


 灰色猫グレイ・マウザーの後ろで、様子を見守っていた百合香と近衛兵たちが絶叫する。……が、彼ら自身にも猛吹雪の脅威が襲いかかってきたのだ。


 怒り心頭の白魔女は腕をぐるぐると回しながら、辺り構わず氷点下の突風を吹き散らす。しかも、低温火傷を引き起こすドライアイスの弾丸までを混ぜ合わせて。

 地吹雪が辺りに巻き上がり、ホワイトアウトの危険な空間が、北の丘に広がってゆく。


 灰色猫は後ろに向かって声を張り上げる。


「全員、息を止めて伏せろっ、あの吹雪に巻かれると、ドライアイスの毒素と低温火傷で、あの世行きになっちまうぞ!」

「マウザーっ、無理っ、息を止めてたら、それだけで()()()!」

「ちょっとの間くらいで死ぬかよっ、うだうだ言ってねぇで、俺の言う事を聞けっ」

「でもっ、ミラージュが……」

「あいつは、なるようになるっ」


 灰色猫は、慌てふためいている百合香をどんと後ろに突き飛ばすと、狙いすます敵を指さして声を荒らげた。


Squall(スコール)!(突風)」


 ホワイトアウトの白で塗りつぶされ、方向感覚も距離感も掴むことができなかった北の丘。その不可視の視界が、灰色猫グレイ・マウザーの呪文がおこした風に払われ、一瞬にして大きく開けた。


「俺ってやっぱり天才級の魔法使いだな」


 小柄な大魔法使いは、どうだと言わんばかりに、雪景色に向かって自画自賛した。


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