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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
第五章 名乗りの時
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7. 北の丘の戦い~余計な参戦者 

 北の丘。

 

「行けっ、逆さ雷(レッドスプライト)! クソ目障りなあの氷柱つららの塔を叩き壊せっ!」


 パシッと乾いた一本鞭の衝撃音。

 灰色猫グレイ・マウザーが、白魔女に返した雷電の通り道には、ジグザグ模様の発光した地割れが出来上がり、その熱は周囲の雪を瞬く間に溶かしてゆく。


 ”あれっ? もう春?”


 雪解けの春が来たのかと勘違いしたオサムシや、フキノトウの芽が、一瞬、地面から顔を出した。だが、全身に闘気をたぎらせた灰色の魔法使いと、根本から輝き出した氷柱の塔を見比べ、”これはヤバい”と、慌てて地面の中に逆戻りした。

 稲妻色にライトアップされた氷柱の塔は美しかったが、塔の中ほどで”逆さ雷”から生み出された赤い光が点滅する様は、緊急事態の赤色灯めいて怖気を引き起こした。


 大轟音が響き、雷電の光に氷柱の塔が貫かれた。粉々に砕けた氷の破片が四方八方に飛び散った。



「はははははっ! 潰れろ、潰れろっ! 邪魔者を消すっていうのは本当に楽しいな! やるじゃないか。”逆さ雷” ― またの名を赤い妖精(レッドスプライト)


 灰色猫は北の丘に向かって、これ見よがしに高笑いの声をあげて笑う。


「気に入った、赤い妖精! 今日から、お前は俺の必殺技にしてやるよ!」


* * *


「おのれ、おのれ! だが、このままで済むと思うなよ」


 氷柱の塔を粉砕された白魔女は、寸でのところで塔の上の厚雲に飛び乗って難を逃れていた。けれども、内心ははらわたが煮えくり返る思いだった。

 白魔女は、()を睨めつけ両腕を振り下ろした。すると、ベルスリープの袖から、氷点下を大幅に下回った極寒の風が吹き出した。


「憎っくき灰色猫! お前に()()()()()青い炎と氷をお見舞いしてやったわ。その炎に埋もれて焼け爛れろ! お前は、楽には殺さない。二目と見れぬ姿になって、のた打ち回るところを見てやるわ!」


 すると、灰色猫の上へ超低温の氷が次々に降り注いできた。


「痛ぇっ、何だよ、この氷っ、顔にくっついて離れないっ。まさか、これってドライアイスかっ?」

「ドライアイス? 何じゃそれは? さては、お前の奥の手か!」

「阿呆っ! ドライアイスっていうのは、二酸化炭素を-78.5℃で冷やした氷だ。触れると皮膚が爛れるのは、火傷じゃなくって凍傷だ。雪と氷を司る魔女とうそぶいてるくせに、てめぇは自分の武器の製法や性質もろくに知らずに闇雲に魔力を使ってやがんのか! 」 

「……」


 一瞬、フリーズしてしまった白魔女。だが、


「ええいっ、ごちゃごちゃと五月蝿うるさいわっ! 」


 白魔女のドレスの袖から矢継ぎ早に攻撃してくるドライアイスの瓦礫。それが、灰色猫の長い髪に樹氷のようにへばりつく。


「痛っ、くそっ、前髪が凍って目まで凍傷になりそうだ。この髪はやっぱり邪魔だ」


 初代グレイ・マウザーを名乗っていた、あの爺さんは、大魔法使いのスタイルに拘っていたが、戦闘においては、そんなものよりも機能性が大事なんだよ。


 灰色猫は、背中の鞘から愛剣の流星刀ミーティアソードを引き抜くと、ドライアイスがこびりついた自分の長い黒髪をばさりと切り落とし、その髪を空に投げ上げた。


「 Alteration(变化)!」


 大音響で叫んだ呪文。その瞬間、灰色猫の長い黒髪の一本一本が先端に”青の炎”を携えた長い棘に姿を変えた。


「白魔女よ、お返しだ! 受け取っとけっ」


 行けっと、灰色猫の号令一下で、”青の炎”を先端につけた長い棘は、一気に上空の白魔女へ向けて猛進する。


「ややっこしいし、どうせ、火傷するなら、熱い方の火でしとけよ。もう一つ、 Alteration(变化)!」


 長い棘の先端の炎の色が”青”から”赤”に替わる。そして、火の束となった無数の棘が、白魔女がいる厚雲の中へ飛び込んでいった。


「ぎやぁああああっっ、火が、火があああっっ!!」


 避難場所にしていた厚雲の中で、白魔女はドレスの裾についた火を慌てて氷の息で吹き消した。

 息をつく間もなく、送り込まれてくる炎の棘に白魔女は苛立ち、敵に対抗する策を考えることが面倒になってしまう。元々、考えるより先に行動してしまうタイプなのだ。


「ええいっ、しゃらくさいっ。もう、こんな無駄な戦いは止めじゃっ。”滅びの歌”! そうじゃ、我は”滅びの歌”を歌うぞ。小賢しい灰色猫もろとも、こんな世界は消し去ってやるぅ! この魔法の国に蔓延る馬鹿どもよ、 覚悟はいいか。う・た・う。ぞ!」


 と、その時、


 白魔女が口を開いたままフリーズした。

 そして、白魔女がいる空よりもっと遥か上の方から、不満げで高飛車な声が響いてきたのだ。



― だ・か・ら、”滅びの歌”は反則なんだってば。それをやったら、この話が終わっちゃうじゃないのよ ―


― はいはい、106,990文字目。また、この戦いの続きからやりなお……


……が、


― 痛っ! な、何っ、何なのっ、これっ? ―



 声の主は、足元から叩き込まれた静電気のような痺れに、握っていたシャープペンシルを床に落としてしまった。こんなことはあり得ない。だが、そうではなく……

 


 下界では、


「お前か……俺たちの国をこんな風にややこしくしてやがるのは」

 

 灰色猫が、ぎらついた瞳で空を睨めつけていたのだ。


 

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