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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
第三章 あちらとこちらと、この世界
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8.予想不可能な未来

シーディが、霧化した黒魔女とそこそこハードな戦いを強いられている間、ミラージュの部屋に閉じ込められた百合香は、()()()()に頭を悩まされていた。


 敵に対抗するためにミゼリコルデに変化したベルベットのアイデアは、すごくイケてたと思う。けど、そのせいで、ミラージュの前でハダカになるなんて、間抜けもいいところだし、第一、恥ずかしすぎる!


「魔法で出来たドレスも素敵だったけど、何かもっと()()()着れる物を探さなきゃ」


 体に巻き付けたシーツをずるずると引きずりながら、百合香は部屋にあったクローゼットの扉を開く。


 ベルベットといえば、ミゼリコルデに変身した姿のまま、ベッドの上で、ふて寝している。せっかく気を利かして、敵に情けの一撃を送るドラマチックなミゼリコルデに変化してやったのに、百合香から褒められるどころか盛大にクレームをつけられてしまった。はいはい、安全でなくてゴメンねと。


 そんな気持ちには露ほども気づかず、百合香はクローゼットの中を物色中だ。


「外套に開襟シャツ、礼服、騎馬服。ふぅん、ミラージュって見かけ通りのお洒落さん。衣装持ちねぇ。あっ、この正装用の軍服なんていいかも。派手な肩章エポレットを外して、長めの丈をベルトで引っ張り上げてやれば、ドレスコートみたいに着れるわよ」


 そこのところは、さすがにコスプレーヤーの本性発揮で、百合香は、赤地にロイヤルブルーの袖がついた軍服をクローゼットから引っ張り出すと、あれよあれよという間に改良を加え、自分サイズに合ったドレスコートに仕上げてゆく。


 そして試着。

 クローゼットの鏡に姿を映してみると、


「あっ、良い。お洒落なワンピースみたい」


 衣装問題が解決して安堵すると、今度は眠気が襲ってきた。そういえば、ミラージュが部屋を出て行って以来、外からの音が何も聞こえなくなってしまったが、どうなっているんだろう。

 気にはなったが、眠気に逆らえずに、百合香は新しい衣装を着たままでベッドに突っ伏した。


 逢魔が時はあと少しで明ける。

 けれども、明けの金星が東の空に昇る前に、百合香は寝落ちしてしまったのだ。


 すやすやと気持ちよさげな寝息をたてている少女。ベルベットは、仕方ないなぁと、再び魔力を発動した。

 ミゼリコルデの刀身が銀色に輝く。次の瞬間、それは光を纏いながら宙に浮き、柔らかな羽布団に変化した。そして、


”だって、そのまんま寝たんじゃ風邪をひくよ”


 今や、保護者本能が身に付いてしまった魔法の布地(ベルベット)は、少女の上にふわりと舞い降りてくるのだった。



*  *  *


「助けてぇぇ!捕まえてぇっ、みらーじゅゅぅ……」

「女王陛下っ!」 


 上空から吹き下ろしてきた突風に巻き上げられ、叫びながら、こちらへ手を伸ばす黒魔女。だが、近衛兵長ミラージュは、一旦、伸ばしかけた手をあえてズボンのポケットの中へしまい込んだ。


 叫ぶ金切り声が次第に小さくなってゆく。

 

 唖然と空を見上げていると、裂かれた黒雲の隙間から恐ろしく巨大な少年が顔を覗かせ、つぶらな瞳でこちらを眺めている。


「なっ、何だっ、あれはっ!?」


 ミラージュは宙を仰ぐ。天上から見下ろす巨人と思しき人物。


 まさか、あれが魔法大皇帝マジックエンペラー……? 白魔女の勝手気ままな振る舞いに業を煮やして、ついに魔法の国に鉄槌を下すつもりか。


 ミラージュは恐怖に震えた。だが、胸の奥の秘めた場所に湧き上がる仄かな期待。


 ― どうか、どうか、そのまま、黒魔女を吹き飛ばしてくれ。二度とこちらへ戻って来れない遠い場所へ ―


 だが、彼の傍らに倒れているシーディは、そんな近衛兵長の繊細な気持ちなど、どこ吹く風で空に叫ぶのだ。


「こらぁっ、京志郎っ! こっち、来んな! お前に関わられると、ややっこしくなるって、言ってんのにっ!」


 まだ、黒魔女の黒霧に巻かれた悪寒が続いているのか、おえっと嘔吐えずいて立ち上がることもできない小柄な魔法使い。


 こいつの無神経な振る舞いは、いつも不愉快なこと甚だしい


 ミラージュはシーディの襟首を捕まえると、近くにいた白鹿姿のリンナイに向かって冷やかに言った。


「選択肢は2つだ。お前の主人はこれから俺が地下牢にぶち込むところだが、ここで、俺に斬られるか、お前の主人と一緒に地下牢に入るか。もう答えは決まっているよな」


 ミラージュが疲労困憊のシーディを引きずりながら、城の中へ戻ってゆく。リンナイは今はその後ろを大人しく着いてゆくことに決めた。


 逢魔が時が過ぎ去った時、

 その時、黒魔女を失った白魔女は、どんな顔を見せるのだろうか。


 夜が明ければ、雪だるま姿に戻るであろう近衛兵長にとって、それは、予想不可能な未来だった。




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