表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
第三章 あちらとこちらと、この世界
29/85

7.ラスボス登場

 皇宮から()()してきた黒霧に包まれ、シーディは焦りに焦っていた。反撃といっても、こちらから()()した覚えは、自分では全くなかったのだけれど。


「だ・か・ら、俺は派手な戦いは嫌だし、勝手に流星が隕石になって皇宮の屋根に飛びこんでいったんだ!あれは、俺の仕業じゃないっ」


 黒霧の中は、 右も左も上も下も斜めも横も、光と呼べるものは何も見えない。その上、湿気のあるねばねばとした触手がチクチクと肌を刺し、体中を撫でまわしてくる。

 どうにか、それを振り払おうと手や足を動かしても、感触はなく、まるで虚空を浮遊している気分だ。

 おまけに、


「あっ、こらっ、変なところを触るなっ」


 この闇は、破廉恥はれんち極まりない。おまけに刺された箇所が熱を持ち、頭がくらくらする。何だか吐き気もしてきた。


「ううっ、くそっ、おえええっ」

 

 白鹿に変化しているリンナイの首にしがみつき、シーディは嘔吐く。


 違うんだ。俺が望んでるのは、こんな情けない”俺”じゃなくて……


 図書館で聞いた京志郎の声が脳裏を巡る。


― 灰色猫グレイ・マウザーを名乗れよ。そしたら、お前は最強なのに ―


 この胸のつかえは、黒霧の毒気のせいだけじゃない。

 分かってる。分かってるんだけど、まだ、俺の内側で何かがわだかまっている……。

 

 とうとう、シーディは、我慢できずにリンナイの背から地面に落ちてしまった。


*  *


「ふん、似非魔法使いが。この不落の城を攻めようなんて、身分不相応なことをするからだ」


 ここに蔓延る黒霧は大人の姿をとれぬ黒魔女の欲求不満の塊だ。免疫のある俺でさえ手に負えないものを、あんなちっぽけな奴に耐えきれるものか。


 丘の上にある皇宮の門から眼下にうごめく一面の闇。

 隕石襲撃時の轟音と砂煙は今はどこへやら、静寂が支配しはじめた空間からシーディが呻く蚊の鳴くような声が聞こえてくる。

 その声がぱたりと途絶えた。


「やれやれ、部下の近衛兵たちは夜明けにならないと戻らないし、あいつの屍を回収するのは俺の役目か」


 けだるい足取りで、近衛兵長ミラージュは皇宮の門を出た。

 ……が、ふと壊された皇宮の屋根に目をやった。


― 似非魔法使いが使う魔法で、空から隕石を降らせれるものなのか ―


 どうも納得がゆかない。その時、


「……!?」


 空から怒号のような凄まじい轟音が聞こえた。

 突然、差し込む閃光。

 そして、


 闇が二つに裂けた!

 

「ぎゃぁああああっ、飛ばされるぅうううっ!! ミラージュっ、捕まえてぇええ!!」

「女王陛下!!」


 裂け目から吹き込むハリケーンなみの暴風。くるくると螺旋を描きながら吹き込んでくるその風が、黒霧を吹き飛ばした。それと同時にゴスロリ姿に戻された黒魔女が、上空に吹き飛ばされてゆくのが見えた。

 慌ててその方向に目を向け、ミラージュが驚愕の表情を見せる。


「な、何だ……? あれは!?」


 無理もないのだ。晴れた夜空の向こうから、ひょっこりとこちらを覗き込んできた()巨大な顔(150倍スケール)を見てしまったのだから。


 さらさらの茶色がかったボブヘア―

 色白で艶やかな肌。少し憂いを含んだ黒い瞳。


 最近、loftで買ったお気に入りの携帯扇風機を手にしながら、その巨大な顔が、丘の上に倒れた”とるに足らない魔法使い”を応援……というか……叱咤激励していた。


「こらっ、シーディっ! 負けてるじゃんか。僕が姉ちゃんをしっかり守れって言ったこと、忘れたのかよ。もっと、頑張れよ!」


 その名は、相良京志郎。

 もとい、この国では、最上級に畏れられている魔法大皇帝マジックエンペラーと呼ばれるラスボス的な存在。

 ついに正体を現した最大の敵に、ミラージュは驚愕し身震いする。けれども、シーディの方は、


「こらぁっ、京志郎っ! こっち、来んな! お前に関わられると、ややっこしくなるって、言ってんのにっ!」


 まだ、こみ上げてくる吐き気を懸命に抑えながらも、けっこう鷹飛車な態度を()()()()に取っているのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
この小説を気に入ってもらえたら、クリックお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ