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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
第三章 あちらとこちらと、この世界
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1.決戦の予感

 ナイチンゲールの後を追って、ジオラマの中に飛び込んだシーディ。

 元々小柄な姿が、宙で螺旋を描きながら小さくなり、パウダースノースプレーで仕上げられたジオラマの雪景色へ吸い込まれてゆく。


 目の前で起こっていることがまだ信じられない。

 そんな曖昧さが心にわだかまっているのが物凄く気持ち悪い。京志郎は、自分が製作したジオラマに向かって、溜まった不満を吐き出した。


「シーディっ、もし、そちらの敵と戦う覚悟があるなら、”取るに足らない者”なんて名は捨てて、灰色猫グレイ・マウザーの名を名乗れよ! そうすれば、無敵だ。この世の魔法は、全てお前の手の内だ!」


 だって、僕が作ったグレイ・マウザーっていうのは、そういう設定のフィギュアなんだから。


 ジオラマの中から答えは返ってこなかった。言いたいことを言って、気持ちは良くなったが、ただ、シーディが真の名前を名乗ったとたんに、今まで彼の存在を軽く見ていた敵から総攻撃を食らうのは目に見えている。

 しんと静まり返ってしまった館内で、京志郎の胸の鼓動だけがとくとくと高鳴っていた。


 ものすごいことが、今、起こってる。

 

 これは、僕のジオラマの国で、”魔法と魔法”の一大合戦が見られる大チャンスだぞ!

 

 それにしても……と、京志郎は、【英米文学】の書棚に歩み寄り、初代のグレイ・マウザーが誤って召喚したという()()()のことを考えてみた。 


 シーディが魔法書だと言って持っていた”ナイチンゲールと紅の薔薇”はイギリスの児童文学だ。子どもの本と魔法は、確かに相性がいいと思うが。ええっと、ここにある本で、白魔女が出てきそうなのは……


 京志郎は過去の読書記憶を頼りに、棚の本の背表紙を一冊ずつ目で追ってゆく。


 あった。これ、これ!

『The Lion,the Witch and the Wardrobe(ライオンと魔女と洋風ダンス)』


 和名は『ナルニア国物語』。 この話に出てくるナルニア国を支配してしまう白魔女は、創造主のライオンのアスランを滅ぼしてしまうほどの極悪な冬の魔女だった。それに、白魔女っていうと、『滅びの歌』でナルニアに来る前にはチャーンの国を消滅させてしまってるんだよな。

 うわぁ、これは難敵だ。でも、敵は強ければ強いほど、対戦のしがいがあるってもんだ。

 

 興奮が冷めやらぬまま、自作のジオラマの前に戻って中を覗き込んだ京志郎は、瞳を何度も瞬かせた。シャツの袖で二・三度、瞼を拭いてみる。


 おいおい、フィギュアが動いているぞ。


 北の丘の城に、騎馬のフィギュアの一団が走ってゆく。おまけに先頭の馬の近衛兵長は、白いドレスの姫を腕に抱えている。


 あれは、姉ちゃんだ! 姉ちゃんが北の城に連れてゆかれる!


 もう解禁とばかりに、支配者オーナーの京志郎に憚ることなく、ジオラマの国の住民たちが自分勝手に活動し始めたのだ。

 それが、京志郎の心にまた火をつけた。


「シーディっ、どこへ行ったあっ? 僕にそっちに来るなって言ったのは、お前なんだからな。責任とれよ! 責任とって、さっさと姉ちゃんを救え!」


 だって、お前は、


 灰色猫グレイ・マウザーなんだろっ!!



***


 魔法の国はとっぷりと闇に染まっていた。

 雪雲の後ろに身を潜めながら、”それが逢魔おうまが時なのだ”と、月が言った。

 雪原の中に落ちた白い薔薇の一枝だけが、純白の光を放っている。

 その花を拾い上げた魔法使いは、小柄な体を北に向けて、ちっと舌を打ちならした。北の皇宮へ続く坂道に、無数の馬の蹄鉄の跡がついていたからだ。


「くそっ、近衛兵の奴らにユリカを攫われた」


 近衛兵長のミラージュの高笑いが耳に聞こえるようだ。

 だが、すぐにでも後を追って、ユリカを奪還したいが、だだっ広い雪原に一人で放り出されたシーディには、移動するための足がない。何かいい魔法の呪文がないかと、ポケットから”ナイチンゲールと紅の薔薇”を取り出しても、ページの7割ほどは文字が消え失せていて、使えそうな言葉が見つからない。

 シーディは途方にくれてしまった。


 その時、前方にもうもうと湯気を舞い上げながら、北の丘を猛スピードで走ってゆく白い物体を彼は見たのだ。


 四つの足には、金の猫足。


 はっと、大きく目を見開き、シーディは顔をほころばす。


 足が……あった。おまけに、あいつは一端の……いや、()()()()()()使()()だよ。


 シーディはあらん限りの声を出して、その名を呼んだ。


「リンナイっ! 俺はこっちだ! 皇宮に殴り込むなら、俺も一緒に連れて行けぇっ!!」



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