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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
第二章 白魔女の逆鱗に触れる
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10.魔法大皇帝の正体

 館長室から図書館の地下に戻ってきたシーディと京志郎。


 ”開かずの館長室”が、百合香の部屋とまるで同じ……。その謎は、解くことができなかったが、シーディは京志郎には内緒で、ライティングデスクの上に見つけたノートをちゃっかりポケットに忍ばせていた。もちろん、棚で見つけた”電子辞書”も一緒に。

 目新しいモノが大好きで探求心が強いシーディは、頭もよく回った。


 これは”魔法”じゃなくって”科学技術”ってやつか。


 少し触ってみただけで、彼はこの小さな機械が”日本語”を”英語”に変換してくれることに気がついたのだ。これがあれば、”日本語”で書かれたノートの内容を読むことができるぞ……いや、これを参考にすれば、”翻訳魔法”の呪文を作れるかもしれない。


 とはいえ、今は、


「とにかく、話を整理してみようか」


 シーディは、京志郎にそう言った。

 今や白魔女に蹂躙されようとしている魔法の国。彼がこよなく愛する、中世英国風の城下町と全く同じ造りの1/150スケールのジオラマを背にして。


「まず、俺がユリカから聞いた情報では、お前の名前は京志郎。ユリカの()で不登校だけど、()()()()がとっても良い()()()()()()()()()らしいな(まあ、確かに顔はいいな) ……で、この玩具(おもちゃ)を作ったのもお前ってわけか」


 その言いっぷりが、そこはかとなく皮肉っぽい。

 京志郎は、不快感を露わにして言葉を返した。


「僕がそうだけどって答えたら、何かいけない理由でもあるのかい」

「いや、ただ、一つ二つ、質問があるんだが」

「質問? 」

 

 こちらを見返してきた京志郎の顔は、百合香とよく似ていると、シーディは思った。けれども、京志郎の方が姉よりもずっと鋭くて油断ならない瞳をしていた。


「質問っていうのは、……京志郎、お前、少し前に皇宮……北の丘にある城を増築したりした?」

「城の守りを固めるために、矢狭間やざまを多くしたけど」


「やっぱり……で、近衛兵と野党を戦わせたりしたか」


「退屈だったんで、敵のフィギュアを作って、近衛兵団とミニチュアゲームをさせたかなぁ。でも、それが何だっていうんだよ?」


 半信半疑だったシーディは、この時、完全に納得がいってしまった。


 間違いない。こいつが、俺たち、魔法の国の住民がずっと、畏れて奉っていた魔法大皇帝マジックエンペラーだ。モデラ―かなんかは知らないが、俺たちの国は、こんな子供に好きなように遊ばれてたってわけか。


 仏頂面をして腕組をしたまま動かなくなってしまった魔法使い。すると、今度は京志郎の方がシーディに質問を投げかけてきた。


「今度は僕に質問させろよ。お前はグレイ・マウザーか。僕が作った大魔法使いのフィギュアの」

「俺の名前は……シーディだ。フィギュア? 言ってる意味がよく分からねぇが、確かに俺は爺ちゃんから灰色猫グレイ・マウザーの名を継ぐのはお前だと言われて育ってきた。けれども、俺の魔法はまだ未熟で、グレイ・マウザーを名乗る資格なんて俺にはないよ」 

「シーディ?……”とるに足らない者”って意味だよね。驚いたな。初代のグレイ・マウザーは、後継ぎにそんな名前をつけたのか。お前って、もしかして、誰かヤバい敵でも狙われてるのか」


不意に飛び出した京志郎の台詞に、シーディは驚きを隠せない。すると、京志郎はしたり顔で、


「前にこの図書館で名付けに関しての本を読んだことがあったんだ。大切な子供が、命を奪おうとする()に目をつけられないように、わざと、良くない呼び名をつけて、その子の力を封印したり、目立つのを防いだりするっていう風習は、古の時代には、けっこう色々な国で行われていたそうだ」


 そんな風習があるなんて、迂闊にもその知識は収集していなかったと、シーディは波打つ心臓の鼓動を止められなくなってしまった。


 俺の名前はシーディ(とるにたらない者)。

 今まで俺は、それは、ポンコツな俺の魔法に呆れた爺ちゃんが、俺を揶揄してつけた名前だと思い込んでいた。

 でも……もしかしたら、それって、


 俺の勘違い?


 京志郎は、明らかに戸惑っているシーディを少し上目線に見ながら言った。


「お前ってさ、随分、自分に自信なさそうだけど、そろそろシーディなんて名前は捨てて、”灰色猫グレイ・マウザーを名乗ってもいいんじゃないの。その恰好は、オンボロになった前のフィギュアを捨てて、僕が()()()()()()してやったグレイ・マウザーに間違いないんだから」


「リニューアル?」

「うん、前のは古くなったんで、もう捨てたけど」


 直後に、魔法の国の創造主である魔法大皇帝マジックエンペラー……もとい、現実世界では、モデラ―の相良京志郎が指さした段ボールのごみ箱の中。

 そこに捨てられていた小さなフィギュアの灰汁色あくいろのマントは、あちこちが剥げ、片足は削げ落ちてしまっている。


 シーディの脳裏に電気のような衝撃が走った。


「これは……爺ちゃん?! くそっ……リニューアルってそういうことかっ。京志郎っ、お前っ、初代のグレイ・マウザーをこんな場所に捨てやがったな!」


 それで……それでっ、俺は爺ちゃんの代わりにこいつに()()()()()()()お人形(フィギュア)ってわけなのか!


 俺たちの命って、こいつの玩具にすぎないのか。


 シーディは、京志郎に対する怒りにも似た感情を抑えきることができなくなってしまったのだ。




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