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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
第一章 ジオラマの国
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2.ナイチンゲールとジオラマの町

「……で、どういう緊急事態が起こったの? 姉ちゃんがこんな時間にこっちに来るなんて、よほどの”難敵”が現れたんだろ」


 百合香の弟の京志郎は、とても勘がいい。良し悪しは別として。


「うん、あのね……学校で出された宿題なんだけど、この本のやく、分かる?」

「それ、前に姉ちゃんがこの図書館から借りていった童話だね。イギリスの作家、オスカー・ワイルドの”ナイチンゲールと紅い薔薇”。でも、それって、バッドエンドだぞ」


 つまらなさそうな顔をした京志郎だったが、突然、瞳を輝かせ、


「ねぇ、ちょっと図書館の地下に行かない? 前から作っていたジオラマが完成したんだ」

「え~、今から? 宿題を先にやらないと」


「宿題は後で僕がささっと片付けてあげるって。そんな本より、僕のジオラマの方がずっといいぜ。だから、ねっ、着いてきてっ」


 京志郎の押しはとても強い。百合香は弟に手を引かれるままに、受付カウンターの後ろにある螺旋階段を下りてゆく。すると、


「わぁ……!」


 トンネルを抜けたとたんに開けた広大な景色のように、京志郎が日々、精魂こめて作り上げた巨大ジオラマが、百合香の目の前に姿を現したのだ。


*  *

 

「すごいっ、前よりずっと広くなってる」


 今や、図書館の地下のほぼ全域を占拠しているジオラマの城下町。それは、百合香の想像をはるかに超えた出来栄えに仕上がっていた。


 町の北側の丘の上には、これぞ中世イギリスの古城! といった風の2つの塔を持つ石造りの城が建ててあった。塔の下には、矢を射る矢狭間やざままで作ってある。

 広い中庭には、一面に芝生が敷かれており、2cmほどの大きさのフィギュアの近衛兵たちが、きっちりと整列して城を護っている。


 城門と町を隔てた川には石造りの橋が架けられていた。橋には、唐草の装飾のある街灯が等間隔で付けられていて、中世の雰囲気がより高められていた。

 川を渡って城下町に入ると、聖堂を中心に、赤い煉瓦造りの家々が規則正しく並べられている。町の南側は、緑がこんもりと茂った深い森になっている。


「どうだい? 北側の丘の上に建った城はまさに不落の城塞って感じだろ。で、こんな風にスノーパウダースプレーをひと吹きすれば……」


 満面の笑みを浮かべて、京志郎は自作のジオラマにスノーパウダースプレーをシューッとふりかけた。見る見るうちに、小さな国の城の尖塔や家の屋根が、明るい白に染まってゆく。ミニチュアの雪の国の出来上がりだ。けれども、百合香は、


「あっ、この兵隊さん、すっごい好み!」


 城の中庭の近衛兵の先頭に立つ、フィギュアの隊長に釘付けになってしまっていたのだ。

 すらりと背が高くて凛々しく、腰のサーベルや、袖の金糸まで細かく塗装された青い制服がよく似合う。


「ねぇ、ねぇ、京ちゃん、このフィギュアの隊長さん……」


 ……が、その瞬間に、目の前を通り抜けていった黒い影。百合香は、そちらに驚きの目を向けた。


 チチチッと鳴くさえずり。


「えっ?」


 ついさっきまで、手に持っていた英語の冊子の挿絵にあった小さな鳥の姿を思い出す。


 ”ナイチンゲール?!”


「き、京ちゃんっ、鳥っ、鳥っ! ナイチンゲールがっ」


 だが、その鳥は百合香の頭の上を過ぎたかと思うと、あっという間に姿を消してしまった。


 京志郎が作った”ジオラマの雪景色の中”へ。



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